第36話 魔王のお願い
(アルジ様、宜しいでしようか?)
(アスラか、どうした?)
(実はおりいって相談したい事がありまして)
(そうか、ではテトラに来るが良い)
急な眷属の呼び出しにも快く応えるが、偶然にも手持ち無沙汰だったからだ。
「突然の問いかけをお許し頂き感謝致します」
「そんな堅苦しい言い方はするな。魔王には似合わないぞ」
「は、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて・・・」
ディバルは魔王から突然の申し出に、どんな面白い事が起こるのかワクワクしていた。
「実は双剣を自分なりに練習してみたのですが、使いこなせていない気がするのです」
「氷炎魔法双剣の柄は要らないのか?」
「いえっ、そうではなく俺に双剣の極意を伝授して頂きく事は可能でしょうか?・・・」
「ふむ・・・伝授なぁ・・・」
聖魔王アスラは都合の良い事だと自覚している。
"民間勇者"の時とは比べ物にならない程の力と身体能力を与えてもらい、魔王と言えども一国の王として君臨している現在の生活と仕事にやりがいと充実感を覚えているが、与えられた魔導具を使えこなせない自分にもどかしさを感じ、不甲斐ない愚か者だと自覚するが遥かなる頂きに座す存在に、双剣の極意を懇願したのだ。
「お前の望む二刀流、いや双剣か。使い手を知っているが習ってみるか?」
「是非お願いしますアルジ様」
「解った。準備してみるか。この件は連絡するまで待て」
「畏まりました。後、最近ウルサ殿をほとんど見かけませんが?」
スクリーバとウルサは、テトラで子供達の教育に熱心だ。
無論、帝国と王国は既に二人の手を離れて運営されているので問題無いと判断したディバルの許可を得ている。
「ああ、スクリーバとウルサは別の仕事をしているが、もうあの二人の手を借りずとも二カ国とも問題無いだろう」
「確かに国の運営は問題ありませんが、国内にはウルサ殿を知る者もおりますし、帝国も同様であれば立ち寄るだけで構いませんので、ご配慮頂きたく存じます」
「そうか、考えておこう」
眷属の要望を叶えるために”ある男”に念話するディバルだ。
(よお、俺だ)
(ディバルか、どうした?)
(又頼みたい事が有ってな)
(又かよ)
(そう、嫌な顔するな)
念話なのに何故表情まで解るのか驚くのは別の大陸に居る大魔王だ。
(実はなフォーレを貸して欲しいんだ。今は何て言ったかな・・・)
((フォーレの事まで知ってるのかよ・・・))
(シルバ! シルバ・ベニーだ)
(なんで知ってんだよ)
(お前の片腕だろ。何度も若返らせてりゃ目立つだろう)
(マジかっ! じゃ他の奴らも知ってんのか?)
(お前の嫁は別だがな。大魔王の眷属は把握している)
(えっ、眷属?)
(二回以上お前の特別な魔法を使用した者は眷属になる仕組みだ)
(初めて知った)
(眷属はお前の命令に従順だろ? 決して裏切らないからな)
(そんなつもりで若返らせた訳じゃないけどな)
(解ってるさ。だが龍国で決めた事だ。お前がとやかく言っても仕方ないし、困らないだろ?)
(・・・まぁな)
二回以上若返りの魔法を使った者達の顔を思い出す大魔王。
(それでな厳密に言えばフォーレ、じゃなくてシルバ、でもなくてファルソを貸して欲しいのさ)
(・・・ファルソだとぉ? 何故だ?)
(双剣を習いたい者が居るからだ。深い意味は無いし、見た目が男のシルバでも構わないぞ)
(・・・貸すとはどの位だ?)
(最短で30日ほどか、もう少し長くなるかもしれん)
(何だ、その程度か)
何年も知らない場所に送り込む事を懸念していた大魔王。
(一応、報酬はお前と同じで良いか?)
(同じ? 何も貰って無いぞ!?)
(以前言っただろ、別の大陸でお前が何をしても俺は関与しないと)
(!!!)
(お前たち二人がこちらの大陸で、どれだけ"羽目"を外そうが余裕の対価をギルドの認識票に入れておこう)
(直ぐにシルバと検討しよう)
即決だった。
(それから、事前に言っておくが、お前たちの国と違ってこちらは食文化が遅れているからな。期待はするなよ)
(それは良い。"肝心の方"はどうなんだ?)
(人種は茶髪が多めだな)
(おおっ!)
(クエルノ族や獣人も居るぞ)
(マジか!)
(シルバと"行動するつもり"なら、誰も居ないとはいえ細心の注意をしろ)
(・・・そうだな。離れた場所を見られるヤツも居るしな)
(流石は大魔王。理解が早い)
(なに、シルバは友人だからな)
(では一度フォーレ、じゃないシルバに会わせてくれ)
(解った、連絡する)
暫くすると大魔王から連絡が有り、聖魔法王国アルモニアの王都イグレシの南門の外壁近くで待ち合わせる事となった。
基本的に空間転移は正確な座標が必要だ。
一度行った事のある場所は記憶を元に魔法が座標を特定できる仕組みになっているからだ。
では訪れた事の無い場所はどうするか?
地図の認識が必要だが、おおよその場所に転移して歩くなり飛行するなりに移動すれば良いのだ。
適当な場所に転移したディバルは目視で壁門を確認して徒歩で移動した。
壁門には王都に入る列が並んでいるが、道沿いには露店や便所までも有り細かな配慮がされていて驚くディバルだ。
シルバと会うのは"カラコル"と言う老舗の喫茶店だ。
事前にシルバには説明してあった。
フォーレ一族の親戚として跡を引き継いだシルバは既に三代目だ。
ある日突然先代が他国に出張し、代わりにやって来た若造が代行を務めるが完璧にこなす仕事ぶりに、フォーレの一族が優秀だと認知されているが、全て本人の自作自演なのだ。
因みに先代は全員他国での死亡となっている。
最初の若返りは歳を取ったから大魔王の要望で行ったが、二回目は調子に乗って女性関係が問題になり早々の若返りだったのだ。
「どうしたんだ、改まって」
この国の国王であり、闇の組織の首領でもあるエルヴィーノに頼みごとの相談があると持ち掛けられたからだ。
事務所のシルバ専用の執務室で話をするエルヴィーノ。
「実はな、今度ファルソに双剣の指導をしてもらう依頼が入った」
「ファルソにぃ!?」
ファルソを知る者は少ない。
組織の者か、一部のクエルノ族と”幻想剣舞団”だけだ。
因みに初代団長はファルソで、今は名誉顧問となっている。
「一体誰が依頼主だ?」
「それは今度会わせるが、指導する場所だが別の大陸に行く事になる」
「何ぃ!」
一瞬シルバの目が輝いた。
「今まで行った事の無い大陸で期限は30日程らしいが決まってはいない」
「報酬は?」
ニヤリと口角の上がるエルヴィーノだ。
「俺とお前がどれだけ羽目を外しても問題無いほどの金額だそうだ」
「引き受けた!!」
即決のシルバ。
「いや待て、なんで陛下の分もだ?」
「おれも以前頼まれ事が有ってな、その報酬と一緒らしいんだ」
「そうか。だが・・・向こうの情報は?」
「大体の場所は聞いてある。あとは現地で確認するだけだ」
「っしゃぁぁぁぁぁ!!久々にやる気が出て来たぞぉぉ!!」
(いつも有ったら困るけどな・・・)
既にやる気満々のシルバに呆れる大魔王だ。
「もしかして一緒に行くのか?」
「解らん。俺も良く知らんし詳しく聞いてみないとな」
「そうか・・・一緒に知らない土地への旅かぁ・・・何年いや、何十年ぶりだろうな」
「そうだな。リカルドも連れて行きたいが無理だろうなぁ」
「まぁ、あいつは諦めよう。友情よりも妻子と仕事を取る男になったからな」
「仕方ないだろう・・・だが、お前はもう結婚するなよ」
「解ってるよ」
「今一緒の女も駄目だぞ」
「チッ、知ってたか」
フォーレは二度結婚している。
この説明では語弊が有る様だ。
一時期に二人の女性と極秘に婚姻し、家庭を持ち子孫を増やしている。
厳密にいえば、フォーレとファルソだが、身体は一つだ。
結果的に殉職の形を取り、両家族には悲しい思いをさせてしまったが一時的なものだった。
"シルバ"は陰から両家族を見守り続け現在に至る。
大魔王の友人フォーレ=若返りを繰り返したため現在はシルバ・ベニーと名乗っている。




