Alius fabula Pars36 モナスカのエルフ
シニストラとデクストラは街中に買い物に出ていた。
調度品は全て整っているが、家財道具は何も無いからだ。
何故なら自分達を含めて食事を必要とする者達が来た時を想定しての事だ。
出掛けにバレンティアから助言を受けた二人だ。
「この場所はディバルシス様の仮住まいとは言え神々も常にご覧になられている場所でもある。全てにおいて相応しいものを用意する様、心掛ける事だ」
「ありがとうございます、バレンティア様。では相応しい物となると王都では誰かに聞いた方が良いでしょうか?」
「確かに、それが最善であろう。二人が探すことも可能だが時間も掛かるしな。ギルドに聞くも良し、親しくなった王族に聞くも良しだ」
「そうね。王族ばかりに頼ってもダメね。今度はギルドに行こうかしら」
「ならばギルドに行くか」
その大門は、今朝の騒ぎが終わると門番を残していつもの街並みに戻っていた。
門番に任命された二人は楽な仕事にあり付けて良かったと話すくらいだ。
そんな門番の安易な気持ちを裏切り、人の力では動かない扉が動き出したのだ。
「お、おい!動いてるぞぉぉ!」
「ああ、動いてる!どうする報告に行くか?」
巨大な門が開き切る前に、二人のエルフが出てきた。
その姿の一挙一動に目を奪われていた門番だ。
「この門はしばらく開けておくが我が種族しか出入り出来ないからな」
「貴方達、ちょっと入ってみる?」
麗わしのエルフに誘われて断る男はいない。
「わ、私が参ります!」
「お、俺が行きます!」
浮かれた二人には衝撃が待っていた。
何も考えず、無防備の二人の目線は美しいエルフに釘づけだった。
「イテッ‼︎」
「ウワッ‼︎」
透明の壁にぶつかった二人は尻餅をついた。
「どう?分かったでしょう。誰も門を潜る事は出来ないの。剣や槍で斬りつけたり魔法を使っても無理だからね」
「「は、はい・・・」」
そう告げると二人のエルフは街の中に消えていった。
「俺エルフと会話してしまった・・・」
「俺なんか話しかけられたぞ・・・」
しばらく呆然としていた門番だ。
「はっ! 報告に行かなきゃ!」
「行ってこい俺が残る」
門番の一人を残して王城に報告へ向かった。
王城では何人もの人を伝い国王へと知らせが届いた。
「何ぃ、門が開いたままだと言うのか⁉︎」
「はい、ですが如何なる方法を持ってしても通る事は不可能だそうです」
「ふぅむ・・・それで、エルフ達は何処に行ったのだ?」
「それが街に居るらしいのですが行方は分かっておりません」
「どうして尾行や随行が出来んのだ、人が足りないなら補充しろ‼︎」
「は、直ちに!」
国王の勅命を受けて門番が増員されるが、同時に街中の捜索も行われた。
王家にとっては二人のエルフを引き込みたいので監視したいのだ。
ギルドでは金色の髪を持つ冒険者らしき二人連れに、その場に居合わせた者達の目が釘付けとなり、呆然と見ている者も居た。
受付のカウンター越しに問いかけるデクストラだ。
「訊ねるが日用品を売っている店を教えて欲しい」
受付嬢はポカンと口を開けてデクスドラの顔を見ていた。
「聞いているのか?我らは買い物がしたいのだが店を教えて欲しいのだが!」
「は、はいっ!お待ち下さい、係のものと変わります!」
思考が停止した受付嬢はその場から逃げる様にして奥に走った。
「た、た、た、大変よぉぉ!またエルフが来たのぉぉ!」
その声を聞いてドーズが立ち上がった。
「俺が行こう」
待っていたエルフが来たと思い担当者として受付に向かうのだった。
ドーズは目に映った二人を見て驚いた。
(二人だと?しかも仮面無しか!?)
どうやらエルフは仮面をしているものだと思っていたドーズだ。
「お待たせしました。お二人はどの様なご用件でしょうか?」
「ふむ。我らは日用品を売っている店を教えて欲しいのだ」
「日用品ですか?」
「そうよ。なるべく作りの良い物を扱っている店を教えて欲しいわ」
「そうですか・・・」
しばし頭をひねるドーズ。
「では私が案内して差し上げましょう」
「おお、それは助かる」
「一応、確認させて頂きますが支払いはどうされますか?」
「認識票に入っているわ」
笑顔のドーズは丁寧に応えた。
「そうですか。認識票はギルドだけで利用できますが、普通の店では利用できないので、ギルドで現金を引き出された方が良いでしょう」
「おお、そうか。ならば幾ら出せばよい?」
「ご予算はお幾らほどでしょうか?」
「特に無いわ。出来る限り良い物を買うつもりよ」
「・・・そうですか。では残高を確認しておきましょうか?」
「そうだな。我らも一体幾ら入っているか解らんからな」
「では、お一人様分ですか?それともお二人分調べますか?」
「二人共だ」
そういってシニストラとデクストラは認識票をドーズに渡した。
(なっ、二人共金色の認識票だとぉぉ!)
声には出さなかったが驚きの表情を見せたドーズ。
「確認してまいりますので、お待ちください」
魔導具で所定の操作で確認するドーズは驚いた。
(名はデクストラか。メディ・・・この国は確か・・・やっぱ俺より年上かぁ。ゲッなんだこの金額は!!)
数日前にもっと桁数の多い残高を見たせいか、普通では有りえない額も多少の驚きだったドーズだ。
(もう一枚も確認っと。なっ・・・名前以外は殆ど同じかぁ・・・)
再度カウンターで二人と対話する。
「驚きました。御二方とも大分貯められてますねぇ。まずは認識票をお返しします。シニストラさん・・・デクストラさん・・・」
「そうか。実は我らは余り買い物をする機会が無くてな。物の価値を良く知らんのだ」
「そうでしたか。それでどのような物をお求めで?」
「生活する為の物全てよ」
「全てとは・・・」
「全ては全てだ」
「出来れば数人分欲しいわ」
「・・・一流の品で生活する為の数人分の用意ですか・・・まるでこの街に引越しされるみたいですねぇ」
「準備だけはしておきたいの」
「解りました。しかし、それほどの用意をされるとなると、金を持ち歩くよりも、ギルドが保証しますので商店とはギルド経由でお支払いされたら如何でしょうか?」
「そんな事が出来るのか?」
「普通は出来ませんが、お二人のグラドスの地位に残高を確認しましたので問題無いと判断しました。ご利用される場合は一定の手数料を頂きますが、配送もギルドが保証しますので、お二方はお店で品物を選ぶだけです」
「凄いわ。お願いしましょうデクストラ」
「そうだな。頼むとしよう」
「ありがとうございます。ではこのドーズが案内しますので、しばしお待ちください」
(良し、エルフの上客ゲットだぜぇ!)
上機嫌のドーズは事務所で出かける準備をし、事務員に説明して出かけたのだ。
この時点で二人のエルフが先日のエルフと関係有ると薄々感じていたドーズだ。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
ドーズは街中の店を知っているので、生活に必要な物を口頭で確認しながら二人と確認して歩いていた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。十部屋以上ですか?」
「正確にはもっとあると思うが、とりあえずその位か?」
「一体何人分必要なんですか!?」
「そうねぇ・・・五、六人?」
「いや倍は居るぞシニストラ」
「あっ!あっちの人たちも来る可能性が有るわねぇ」
「・・・あのぉ、十人以上ですか?」
「「・・・」」
二人が何故悩むのか理解できないドーズだ。
「一応確認ですが、寝台も必要であれば、それなりの広さが必要ですが大丈夫ですか?」
ドーズは二人の金銭的な問題は無く、住まいの広さを問題視していた。
生活の全てとは、間違い無く寝台も必要であり、寝具に棚や食器関係と多岐に渡るからだ。
「大丈夫だと思うのだが・・・」
「なんだか不安になって来たわ」
二人の会話を聞いてお節介をやく事にしたドーズだ。
「・・・もし問題が無ければ私がお住まいを拝見して、必要な数量を割り出してみましょうか?」
「本当か?」
「助かるわぁ」
「よし、特別に我らの住まいに入る事を許可しよう」
「じゃ一旦戻りましょうか」
買い物は一旦中止です。




