第34話 表敬訪問
「はぁぁぁぁ」
深いため息を付くグラディオ国の王であり、この国のギルマスも兼ね大陸におけるギルドの総帥だ。
「はぁぁぁぁ」
ここ数日というもの、何度も溜息ばかり吐いていた。
全ての原因は魔王国に表敬訪問する日程が決まったのが原因だ。
以前帝国に訪れた際に帝王から勧められたが頑なに拒んでいた所、魔王からも招き入れる準備が出来ていると報告を受けて、職員たちが日程の調整をしたのだ。
勿論本人は拒否したが、自国を含む三か国のギルド職員が"総帥が威厳を持って接して欲しい"と何度も陳情したからだ。
魔王には何度も会っているし会話もしたことが有るステラジアンだ。
しかし、過去の職員からの報告書で魔王国の恐ろしい印象が拭いきれなかった。
勿論帝王たちの説明も理解しているが、今回は自らが魔王城に乗り込むので今までとは全く違う認識だ。
(ったく魔王の城だぞ。俺だって多少腕に覚えは有るが同行者だって少ないし、魔王の居城に乗り込むなんてよぉ・・・どんな罠が仕掛けて有るのか想像も出来ん。はっ、まさか魔法で洗脳する気か!?それとも、もう帰って来れないなんてないよなぁ・・・ハハハ)
何故か過剰なまでに魔王を意識して恐れるステラジアンだ。
「陛下、そろそろ行きますよ」
「・・・待て、腹が痛くなったから今回は中止しよう」
「ハイハイ、みんな準備して待ってますよ」
「そうですよ陛下。我も一緒に同行しますのでご安心ください」
魔王国におけるギルド支店のギルマスが態々迎えに来てくれたのだ。
ケレプスクルム魔王国のギルド支店のギルマスはクエルノ族の穏健派であるプリン・チェップスだ。
「プリンよぉ、来てくれたかぁ」
プリン・チェップスは人族で言うなれば二十代に見えるがクエルノ族としては若輩で見た目は青年だ。
産まれはクエルノ族だが、戦闘能力が高く無かった為にギルドで働くようになり、今では魔物の中でギルドの忠誠は一番高い。
むしろ忠誠が高いからこそギルマスに任命された経緯がある。
本来は角を生やした強面のクエルノ族だが、プリンは笑顔を絶やさない。
帝国に来ても気さくな人柄で人気は高い。
そんな彼は訪問の際には必ず戦闘訓練場に立ち寄るように仲間の職員から依頼されている。
クエルノ族の中でも最弱に分類されるプリンだが、人族の中では強敵になるからだ。
魔法を使わずに自力だけでプリンに勝てれば一般教官で、互いに補助魔法を使用して勝てば上級教官。
互いに攻撃魔法を使用して勝てれば特級教官だ。
なので、最低でもプリンを負かす位に強くならなければギルドの訓練教官にはなれないのだ。
したがってプリンは大人気なのだ。
そんなプリンも多少の自尊心が有り、簡単に負けない様に自国では訓練に勤しんでいる。
笑顔を絶やさないプリンをステラジアンは評価しており信頼度も高い。
そのプリンが魔王国では付きっきりで対応するとの約束で、ようやく重い腰を上げる事になったのだ。
当のプリンも魔王との謁見の経験も有り、アスラとリオから気に入られているプリンはステラジアンの訪問を催促する様に命じられていたのだ。
腹を括ったステラジアンはプリンと同行する二人の職員を引き連れて魔王国のギルド支店へと転移した。
転移室から一階の受付を覗き見るテスラジアン。
報告書に記載してあったのはギルド内でも争いが絶えず殺伐とした雰囲気だと記憶していたからだ。
しかし、目に映る光景は良く知っているギルド内と同様だった。
「・・・静かだな」
「だから言ったでしょう。古い報告書の事は忘れて下さいって」
プリンが何度も説明しても聞き入れてくれなかったが、自分の目で見るとプリンの説明が正しいと理解した。
「フフフッ確認だよプリン。だが警戒は怠らない方が良いのでな」
同行の職員には負け惜しみにしか聞こえなかった。
一行はギルドを出て魔王城に向かう為、プリンが先頭を歩き後から連れ立って歩くギルドの総帥だ。
ギルドから魔王城までは徒歩だ。
歩きながら街並みを見るが、古い報告書とは違い活気づいた街の喧騒が自国のモノと同じだと知ったステラジアンだ。
「報告書と全然違うな」
「古い報告書でしょ!! 我の報告書は見てないのですか?」
「見てる、見てるとも。だが俄かには信じられなかったのだ」
それほど昔と今とでは、街と魔物の隔たりが激しかったのだ。
報告書には"殺伐とした街はまるでスラムの様な国"と表現されていたのだが、肌で感じる街の空気は自国と同じく活気立っていた。
「アレが魔王城ですよ」
「おおおっ!」
ステラジアンが目にしたのは自国の城とも他国の城とも造形が違う独特な城だった。
「これが魔王城か・・・迫力が有るなぁ」
ステラジアンの印象は品位や格式ではなく、威圧感と恐怖だった。
「凄いなぁ」
「そうですね。大戦前と今の城は随分と変わってまして、防衛を見直して強化されてます」
「なるほど・・・」
「夜には城が照らされて綺麗ですよ。魔物の間では闇夜を照らす魔王城と言われてます。おかげで昼よりも夜の方が街への出入りが多く賑わってますね」
「・・・プリンよ、街では喧嘩とか殺し合いは無いのか?」
「今の魔王様の体制になってからは殆ど無いですね」
「ほとんどなぁ・・・」
「まぁ全く無い訳ではありませんが、それは人族の街も同じでしょう」
「確かにな。悪い奴は種族を問わず居るもんだ」
街には普段見ないプリンの同族や上位の魔物が数多く見られるが、ギルドの制服が認知されている為か、ステラジアン達を物珍しく見る者は皆無だ。
むしろステラジアンと同行の職員の方がキョロキョロと街や魔物を見物している。
初めての街を見ながら魔王城の城門に辿り着いた一行だ。
門兵達もギルドの制服とプリンを見て挨拶をすると素通りした。
「おい、検査は無いのか?」
「有りませんよ。王城で粗相をするものは居ませんし、問題を起こせば即座に死刑ですから」
「そ、そうなのか・・・恐ろしい規則だな」
「ええ、ですから問題を起こす者はおりません」
「・・・」
一行は城内の待合室で待機していた。
「城内も綺麗だなぁ、報告に合った内容と随分と違うようだ」
「だから昔の報告書でしょ!! 今はこのように陛下の城と遜色無いほど綺麗にされてますよ」
「プリンは以前の城に来た事は有るのか?」
「はい、まぁ確かに以前の城は酷かったです・・・でも今は素敵な城に様変わりしましたから自慢の魔王城です」
ステラジアンは室内のある物に興味を持った。
それは同様の物が廊下にも多数配置されている石柱だ。
「なぁプリン。城内の至る所に置いてあるあの石の柱は何なのだ?」
「ああ、気づかれましたか。城内に警備兵が少ないのは感じられましたか?」
「言われてみると我が城よりも少ないか・・・」
「通常の兵士は以前の半数ほどかと思われますよ」
「何ぃ、そんなに少ないのか?城の警備はどうしているのだ!?」
「その為の石柱ですよ」
「どういう事だ」
「まぁ陛下には教えても構わないと許可を頂いてますから説明しますと、常駐型のゴーレムです」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!」
「お静かに陛下」
「どうなっているのだ、この城は!」
「通常の兵士は以前の半数ほどでしょうか。その分ゴーレムを制御する魔法に長けた者の配属が多いですね。それとゴーレムの種類も幾つかあるそうですよ」
「なんだとぉ!?」
「廊下や部屋には調度品の様に模様の入った細身のゴーレムが設置されてますが、要所には強力なゴーレムが有ると聞いてます」
「ぬぅぅぅぅぅ」
ステラジアンは城の運営に関する歳費の計算をしていた。
警備の人件費が半分になるのは非常に魅力的な物だった。
人件費だけではなく、付随する様々な費用が半減する訳だ。
自軍の城内へのゴーレムの配置を真剣に考えていた。
「陛下、城内の兵士は精鋭中の精鋭が警備してますけど、居なくなった兵士たちは何処に行ったと思いますか?」
「ん? 街の警備か?」
首を横に振るプリン。
「それがですね、新設された学校なんですよ」
「何故兵士が学校に行くのだ?」
「話に聞いたところ、初歩の座学と戦闘訓練らしいです」
「何ぃぃぃぃぃ!!」
「お静かに陛下」
「すまん」
「只でさえ強い魔物が戦闘訓練してどうするんだ?」
「そこまでの深い理由は知りませんが、魔物の底力を上げる為に全ての魔物が対象らしいですよ。今では応募が多すぎて定員制になっているらしいですから」
(それほどなのか、あの魔王は・・・)
「しかし魔物と言えども種族が多いだろう」
「はい、大別すると我々の様に二足歩行型と四足歩行型と特殊型に分類して強化訓練していると聞きました」
「特殊型?」
「はい、空を飛ぶ者達とか、変わった所ではスライムなんかも居るらしいですよ」
「スライムぅ? スライムをどうするんだ?」
「さぁ、でも魔王様の指示らしいですから何か考えが有るのですかねぇ?」
「ぬぅぅぅ・・・」
トントンッ
そこに謁見の準備が整い案内する魔物が現れた。
「魔王様の準備が整いましたのでご案内いたします」
プリンチェップス=定規




