Alius fabula Pars34 モナスカの異変3
一夜明けて塔に向かう事を知った王族達は、中に入れなくとも見学したいと申し出て、塔の前には王宮の関係者たちが詰めかけていた。
只ならぬ雰囲気を街の住人も察して、更に人が押し寄せている。
街の異変を聞きギルドからはドーズも駆け付けている。
そのな人山の"赤茶"だかりに王宮からの一団が訪れた。
その中には護衛と一緒に皇太子やライラにオットーとミルカも一緒だ。
門の前に来るとデクストラが告げた。
「門は我らが入ると直ぐに閉まるから挟まれない様に気を付けなさい」
注意喚起するとシニストラが扉に手を当てて呪文を早口で言い放つ。
"ナマムギナマゴメナマタマゴ"
するとどうだろう。
巨大な両開きの門がゆっくりと動き始めると集まっていた者達なら一斉に歓喜の声が上がった。
「「「おおおおっ!!」」」
「ではミルカ」
「オットー」
シニストラとデクストラに指名されて、門に入ろうとする二人。
「「あっ!!」」
丁度、門の閉まっていた付近で目に見えない"何か"に遮られて前に進めない二人だ。
手に触れる見えない壁に成す術も無い二人。
その横をデクストラが前に歩いて行った。
「ええっデクストラ様ぁ!!」
「さぁ二人とも、元の場所に戻りなさい」
シニストラの呼びかけで、後方に戻った二人だ。
「では皆さん。又来るわ」
そう言ってシニストラも門を潜ったと同時に、扉が閉まりだした。
「行っちゃったよぉ」
「でもこの塔に居るから又会えるわよねぇ」
門が閉まる隙間に想い人が消えて行く姿を黙って見送った二人だ。
「さぁ、お二人とも城に戻りますよ。一部始終、陛下に報告してください」
護衛に勧められ馬車に乗り込む王族達。
王宮に戻ると父であり国王に報告するオットーとミルカだ。
「ふむ。見えない壁とはなぁ」
「陛下、俺も側で見ておりましたが二人が演技ではなく本当に壁が有った様に見受けられました」
皇太子のエルステッドも一部始終見ていたのだ。
「エルフの技術・・・なんとしても我が国に入れたいものよのぉ」
「陛下、その事でお耳に入れたい事がございます」
「陛下、わたくしからもお知らせしたい事が有ります」
皇太子のエルステッドと第一王女のライラだ。
「何だ、申してみよ」
「・・・陛下。出来れば親子としてお話ししたい事なので・・・」
「わたくしもです。陛下」
「・・・そうか。場所を移そう」
国王の執務室にやってきた三人だ。
「それで、なんだ二人とも改まって」
「では俺から。実はオットーの婚約者にシニストラ様をどうかと思いまして」
「まぁ、お兄様もですか?」
「ん?と言うとお前もか?」
「はい、ミルカの婚約者にデクストラ様が相応しいかと思いましてお父様に相談したく存じます」
「・・・お前たち」
「どうやら弟たちはエルフの兄弟に夢中の様でして」
「その通りです、お父様。妹たちの願いを叶えてあげてください」
「まぁ、確かにあの二人はまだ婚約の相手は決まっていないがな・・・そうは言っても、相手の承諾も必要だし、年が離れすぎではないかぁ?」
「では口約束だけでもどうでしょうか?」
「ふぅぅむ・・・」
人外の存在との婚約に不安よりもその技術を取り込む算段をしていた国王だ。
しかし、人とは仕来りや常識が違う種族との婚約に不安もある国王だ。
一方、シニストラとデクストラは。
(塔の中に入ると扉が有るから、そこの転移魔法陣で最上階に来い)
((畏まりました))
ディバルからの念話で移動する二人。
視界には階段も見えたが指示通りに行動する。
塔自体が強力な風壁で守られているが、屋上付近は威力も抑えられ心地よい風がデクストラの頬を撫で、シニストラの髪をなびかせていた。
建物を目の前にしてサクテキを発動し、建物の構造と目的地を知る。
その場所は白を基調とした大理石を使った広い玉座の間だ。
ディバルの後光が隅々まで反射する様に、玉座は水晶で背の壁面は鏡面仕上げで設えてある。
「只今戻りました」
「二人ともご苦労」
足元で下賜づく二人に玉座に座るディバルの横にはバレンティアが控えていた。
「どうだったか、この国の王宮は?」
「は、王族とも交流を深め我らに対して興味が有るようです」
「だろうな・・・ちょっと”手違い”でこの塔が出来てしまってな、二人には愕かせてしまったかもしれないな・・・」
「アルジ様の行動全てが真理で有り我らは従うのみで御座います」
(真理なんて大それたものじゃ無いんだけどなぁ・・・)
「まぁ本来の目的は、この地下での魔法開発で塔自体は飾りだ」
「この素晴らしい塔が飾りで御座いますか?」
「そうだな。眷属を呼ぶ事も有ると思うがお前たち二人が好きに使って構わんぞ」
「有りがたきお言葉。感謝致します」
「それでだ。もう一つ俺のやりたかった事だが、覚えているかシニストラ?」
「は、はい・・・人の体を使った造形美の追及・・・だったでしょうか?」
「その通りだシニストラ。これは魔法を使って手作業で行う作業だが、いずれシニストラは女の担当でデクストラは男の担当をしてもらおうと考えている」
「我もでしょうか?」
「そうだが、いずれな。それまでは俺の行動を観察してくれ」
「「畏まりました」」
ディバルのやりたい事。
それは厳密に言うと下界において特別な魔法を使い、体脂肪を変化させて肉体的な美観を構築する仕事を生業にしたいと自分で設定した魔法だが、現実的に"別の大陸"で成果を上げている一族の仕組みを真似しようと考えていたのだ。
対象は男女共に肉体的に肥満傾向にある者や、部分的に膨らみを要望する女性だ。
「しばらくは、この塔を拠点とするから家財道具や食事も自分たちで用意してくれ。門は開けたままでも構わないが、お前たちが塔の中に誰かを入れる場合は特定の魔法をかけてやる事と、俺に報告する様に。立ち入りを禁止する部屋も設置しておこう」
「「畏まりました」」
「では中を散策するが良い」
二人は屋敷を散策した。
屋上は玉座の間周りには幾つもの部屋が有り、ディバルの部屋と調理場に便所以外は何もない部屋ばかりだった。
屋敷の外に出るとサクテキで反応した迎撃用ゴーレムが四体と魔法攻撃を発動する設置型魔法塔が四基を確認した。
次に塔の内部に有る部屋の確認だった。
階段で移動出来る塔の内部には、内側に小部屋が幾つも存在する。
屋上から降りて最初の部屋に入ると驚く二人だった。
サクテキで表示された構図は、さほど広くない部屋のはずが、扉を開けて入ると謁見の間ほどの広さだったのだ。
「これは・・・」
「魔法で空間を拡張してあるんじゃない?」
「もしかすると全ての部屋は同様かもしれんな」
「確認する?」
「当然」
するとディバルの念話が聞こえた。
(塔の内部は全部同じだから戻ってこい)
((畏まりました))
「お前たちに教えるのを忘れてた。見てきた通りに塔の内部は部屋が小さいから拡張してある。どう使うかはお前たちに任せる。それでだ、地下への移動は物理的には無いから魔法陣でしか移動できない。塔の魔法陣設置場所は一階の小部屋と屋上の"あそこ"だけだから、とりあえず一緒に行くぞ」
塔の地下。
そこはディバルの名目上の魔法開発場所だ。
目的を持たせて十名程度の人材を投入して研究させる場所だが、まだ研究員は確保していない。
屋上には出入りを許可するが塔以外の外出は許可されない。
地下三階構造だが各階が二階分の高さが有り、広さは地上の壁の内側まで有り大きめの施設だ。
「生麦生米生卵」
「遅い」
「生麦生米生卵」
「もっと早くだ」
「生ギム・・・」
「やり直しだ」
「二秒で詠唱だなんて・・・」
「出来るまで練習だ、シニストラ」
深夜の王宮で呪文の練習をしていたエルフが居たとか居ないとか・・・
人山の黒だかり=黒髪の頭部が沢山見えるさま




