Alius fabula Pars32 モナスカの異変
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いしたします。
ディバルは意気揚々とテトラに戻ったのは真夜中だ。
同じ大陸とは言え、北方でも東側の戦場と南西寄りのテトラが待機している場所はかなり距離が離れている。
屋敷の扉はディバルだけ自動的に開け閉めする魔法が付与されている。
ディバルが屋敷の範囲に入ると、眷属は即座に察知する能力も付与されている。
するとメイドからバレンティアが待機していると報告を受けた。
(モナスカの施設がもう出来たのか?念話で知らせれば良いのに律儀なヤツだ)
バレンティアを呼ぶ前に自室のソファで一息つくディバル。
(結構殺したよなぁ・・・人間。何の罪悪感も無いし、後悔も無い・・・。まぁ自分が人間じゃないって自覚は持ってたつもりだけど・・・苦痛で死んでいった者達を思い出しても恐怖も嫌悪感も無い。肉体だけじゃ無く精神も人を卒業したのかぁ・・・)
ため息をついてメイドにバレンティアを呼ぶ指示をした元人間の魂を持つ神だ。
別室で待っていたバレンティアはどの様にして報告するか悩んでいた。
叱咤される事は理解しているし、許可を得ている大神の命令を説明しても大きな罰を受ける事を覚悟する龍人だった。
「失礼しますディバルシス様」
「バレンティア、待たせたか?」
「先程着いたばかりで報告の整理をしておりましたのでご心配には及びません」
「そうか。それで?」
「はい、モナスカの研究施設が完成したのですが・・・」
「何っ⁉︎もう出来たのか?」
「ハイ、完成しました。ですが・・・」
「何だ、言いにくい事でもあるのか?」
「申し訳ありません」
「何だ、どうした、一体何があった」
重い口を開くバレンティア。
「施設の指示を頂いた後に大神様から別の指示が有りまして、ディバルシス様に相応しい建物を、あの国で一番高い屋敷を作る様に命じられました」
「何だとぉ⁉︎」
一瞬で緊張感が張り詰める。
(チッ、スプレムスめぇ)
「・・・それで、どんな物を作ったのだ」
「は、城壁と同様の塀を作り、建物は・・・王城よりも高くなっております」
「・・・それで?」
「門には特殊な結界を配置し眷属は問題なく通れます。建物は塔の様になっており、最上階を平らにして居住できる施設と転移魔法陣を完備しております」
「最上階だけか?」
「はい、王城より高い御部屋からは王国が一望出来ます」
「塔の防御は?」
「最上階から下は絶えず風壁を張り、外部からの侵入者を防ぎ・・・」
「チョット待て、どうやって登るんだ?」
「転移魔法陣ですが、塔の内部に階段も完備しております」
「そうか・・・いやバレンティア、苦労を掛けたな。ありがとう」
「その様なお言葉。有難き幸せで御座います」
「よし、見に行くか。一緒に行くぞ」
「ハイ、お供致します」
本来は地下施設だけの計画だったが、この世界の神から余計な命令が入り、板挟みの龍人の事を配慮して不問にしたディバルだ。
内心は罰を受けなかった事に安堵していた龍人だ。
バレンティアに案内されて転移したディバル。
時は真夜中を過ぎて朝に近づいていた。
室内と外灯は魔力で照らされている。
出来たての新居だか、ディバルの"ゼンチ"は全ての構造を把握していた。
敷地の壁や地下施設に至るまで全てだ。
塔の屋上は皿の様に平らになっており、遠目でも変わった形状に見える。
塔の内部は螺旋状に階段が造られており、その階段の内側に幾つもの部屋が配置されている。
螺旋階段は部屋の前が踊場になっている。
特に使用目的は無いが、それほど大きな構造の部屋では無い。
(そんな広い部屋じゃないなぁ。でも空間を拡張すれば広くなるかぁ。まぁ、いずれ考えるか・・・)
建物の中心にある大きな広場は謁見の間の様だ。
また室内の全てに驚くほどの細微な彫刻が施されていた。
(コレがスプレムスの命令で仕上げたバレンティアが作った俺に相応しい屋敷の装飾かぁ・・・スッゲェ豪華だよなぁ)
その謁見の間の周りには幾つかの部屋が有り、建物の入口近くに階段と転移場所を配置してある。
最奥にディバルの部屋があり、更に奥はテラスの様になっていて、テーブルと椅子も準備してある。
調度品も用意してあり、改めてバレンティアの有能さを感じ取るディバルだ。
建物の屋根は円形の平家建てだが、下界の何処からも見えない様になっている。
所々に草木が植えられていて、テラスからの眺めは庭園の様だ。
最上階の周りは段差が有り、腰程の塀が設置されており、屋敷を囲む様に石像が八体置かれてある。
この石像は迎撃用ゴーレムが四体と魔法攻撃を発動する設置型魔法塔が四基だ。
小型の塔は万が一たどり着いた侵入者を消滅させる魔法を放ち、信じられない速度で動くゴーレムが敷地の外に放り出すのだ。
テラスの椅子に腰掛けて夜空を見ていると東の空が紫色に染まり、あと少しで夜が明ける頃合いだと知る。
ディバルはバレンティアをねぎらい、改めて心労と感謝の意を告げた。
「我は当たり前の事をしただけです」
(その当たり前が、なかなか出来ないんだぞ。だからお前は素晴らしいヤツだ)
「は、有難きお言葉に恐縮致します」
どうやら心の声が念話となって伝わっていたらしい。
そんな二人は、普段話さない色んな事を話すのだった。
時は経ち、翌朝。
王城の一室にて王族が食事をしていた時だった。
一人の文官が朝から慌てて国王に報告を持ってきた。
王族と言えども朝の服装は質素で飾り気は無いが仕立ての良い服を着ている。
「何後だ、朝から騒々しい」
「陛下、一大事で御座います」
「だから何だと聞いておる」
「街にいつの間にか巨大な塔が建っております」
「巨大な塔?」
「は、その高さはこの王城を凌ぐ程ので御座います」
「何ぃぃ⁉︎」
城内や城壁にも物見の塔が設置されている。
しかし、文官が言うには王城よりも高いと言う。
更に、そんな物を作っている話しや計画など知りはしないのだ。
「どう言う事だ。説明せよ」
「は、只今調べさせておりますので今暫くお待ち下さいませ」
「それで、その塔とやらは何処に出来たのだ?」
「はい、城壁に隣接した場所にございます」
「この城よりも高いと言う事は見えるのか?」
「大臣様達の御部屋からご覧になれると思いますが・・・」
「よし、見てみようではないか」
大きな声で話す国王なので、一緒に朝食を取っていた王族も後ろから並んで歩いて付いてきた。
文官が選んだ部屋に入り窓から眺めると、見たことも無い塔が聳え建っていた。
「高いな・・・太さはないが、何故上は平らなのだ?」
「分かりません」
「しかし、いつの間にあの様な塔を作ったのだ?」
「それも分かりません」
「そうか、詳細が分かり次第教えろ。最優先事項だ。良いな」
「は、直ちに」
城下町の城壁に隣接して出来た王城よりも高い塔。
一体、誰が何の目的で、どの様にして作ったのか?
城内や城下町は、昨日まで無かった塔で話題は持ちきりだった。
一部の者以外は・・・
王族である四人の子供達は、塔よりもエルフに夢中なのだ。




