Alius fabula Pars31 蛮族達と触れ合う
※年末年始と言う訳で、本日から6日まで毎日の投稿とさせていただきます。
9日からは従来通り週一の投稿です。
シニストラとデクストラが王家の晩餐を楽しんでいた日、ディバルは気になる地域に向かっていた。
その場所はモナスカから遥か北方の地域で国と言い張る幾つもの部族が勢力争いをしている地域だ。
人族の部族と獣人や魔物の部族が覇権をめぐって争っている。
魔王国に獣人は沢山存在するが、この地域は大陸中央と幾重にも山脈が連なる山岳地帯が自然の壁となり交流が途絶えていた。
本来、山は木々が生い茂り動物や魔物の住みやすい地域なのだが、この山脈地帯に木々は一切無く、どの種族も暮らしていけない荒れ果てた地域なのだ。
そんな険しい山脈を抜けてこの地に辿り着くのは、犯罪者か追放者や国を追われた訳ありの人族達だ。
魔物も然り、勢力争いで負けた種族がたどり着き、天敵が少ないので勢力を広げた場所だ。
そんな自然の塀が文明の交差を無くし、未だ部族同士が争う地域なのだが、部族とは言え人口だけは多い。
それぞれが小国家並みの規模を持っている。
ディバルが気になっていたのは、数日前から平原に大量の兵士らしき軍勢が集まっていたからだ。
バレンティアに確認した所、気のない返事が返ってきた。
「あの地域ですか・・・どうにも文明の発展が遅れてまして、我も手を尽くしたのですが中々進歩しないのが現状で御座います」
「・・・一応聞くが何したんだ?」
「はぁ、特定の者に力を与えたり、神託を授けたり、天罰を落としたり、魔法を伝授したりです・・・」
「大陸の中央に有る国々はどうしてたんだ?」
「はい、中央も長い時間をかけて同じようにして来ました。しかし龍種が居るので魔物を纏めるのは比較的容易でした」
「そうか、文明が遅れてる部族かぁ。・・・なぁ魔法の実験に使っていいか?」
「はい、大丈夫です」
「大量に死んでも良いのか?」
「特に問題ありません」
魔法の実験とは言ったものの、本当は使ったことの無い魔法の試す事が目的だ。
神の手により沢山の生命が刈り取られるとしても、何の問題も無いと言い切る龍人だ。
「そうか。じゃ、好きにさせてもらうぞ」
「ハッ」
北方地域では幾つかの部族が集まって徒党を組み、連合となり宿敵と退治していた人族だ。
連合となっていたのは魔物達も同様で数多の種族が集まっている。
人族の容姿は蛮族然とした風貌で、装備は寒さを意識した物で魔物の皮を使った物が多い。
魔物も中央とは種族は同じだが系統が異なる様だ。
全体に体毛が多い四足獣の種類が多く、ゴブリンなどは居らずオークは体毛が多い種族で、オーガの小型種が大量に生息している。
魔物の首領は特異個体のオーガらしく、体躯が一回り大きい。
人族の指揮は最大部族である族長の男だ。
どうやら長年に渡り争っていたらしく、双方一万弱の軍勢を率いて決戦の時を迎えていたのだ。
平原を囲むように双方の兵士たちが戦の開始を待っていた。
両軍の距離は互いに目視出来、互いを牽制する者が先頭に立っている。
にらみ合う斥候。
滲む汗と緊張感。
あと少し時が立てば目の前にいる敵の死体が山の様に築くと思い込んでいるのはどちらの陣営も同じだった。
少しずつ。
斥候たちは半歩、また半歩前へと近づいていた。
魔物達には特に作戦は無い。
基本的に人族は弱者であり獲物である。
いつものように暴力で捻じ伏せるのだ。
一方の人族は作戦が有る。
前列は大楯隊に扮した人形で隠した後ろに拒馬を配し、その後ろに槍隊、投擲隊、長弓隊が続き、開始の合図として太鼓と喇叭が鳴れば牽制していた者が即座に戻る段取りだが、実際は犠牲になる事が多い。
そして先鋒の後ろには同じく大楯隊の後ろに投擲隊、長弓隊、歩兵隊、魔法部隊、メルカバ隊が波状攻撃を仕掛ける作戦だ。
主力、右翼、左翼も同様の隊列だが、人族は魔物を根絶させるつもりでいる。
族長たちの防衛線には先の精鋭部隊を配して身の安全を図り、あとは開始の合図を送るだけだった。
幾つもの部族が同様の隊列を成し、決戦の時を待っていた。
前線の魔物達の思考は既に狂暴化している。
背後の魔物達は余裕の表情だ。
ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!
パァァァァァッ!! パァァァァァッ!! パァァァァァッ!!
開始の太鼓と喇叭が鳴り渡った。
一斉に長弓から矢が放たれた。
それを目視で確認すると魔物たちが怒号や咆哮を上げて押し寄せていった。
飛来する槍が刺さろうとも意に介さず猛り狂う魔物達だ。
最前線では魔物達が多くの犠牲を払って拒馬を潜り抜け、敵兵たちに襲い掛かる。
人族の兵も蛮族と揶揄される如く、振るう剣も力強く一振りで絶命させる猛者も参戦している。
「おおっ、やってるやってる。俺も行くか」
何故かその乱戦に向かって歩く一人の仮面を付けた男がいた。
「しかし、どの魔法使おうかなぁ・・・とりあえず反転反射しとこう。あ、ダンクウもだ。ドカンも使ってみたいし、キョウダンにモルテメリソスも試してみたいし、原初の魔法も使ってみたいよなぁ。
ダムネイション・セコンはぁ・・・強力すぎるよなぁ。次の機会にするか。シンクウにシンツウ、カンツウも試してみよう」
楽しくて口元が綻ぶ男は魔法を使い始めた。
「とりあえず原初の魔法だな。人族側の上層部は暫く黙らせよう、闇夜【原初の常闇】。魔物側の上層部は浄化の光で弱体化だ、聖光【原初の閃光】。戦場は広いから逃げられない様にこの地域全体に大地の壁【原初の大地】。俺の近場の奴らは別の魔法実験の使うからに守ってやらなきゃな、風壁【原初の空風】。人族の奥側は塩水でも飲んどけ、海水【原初の水滴】。魔物の奥側は感電死だ、雷雨【原初の稲妻】。最後に奥の奴らはこれで一掃だ、小太陽【原初の火炎】」
広い戦場の全てが混乱状態に陥っていた。
ある場所では先ほどまで日中だったにもかかわらず、一寸先も見えない程の暗闇となり、右往左往するも敵の魔法だと推測し対策の議論を始めている。
またある場所では降り注ぐ日の光から急激な脱力感を感じ、戦時中にも関わらずやる気が萎えていた。
そして戦場一体の地域を取り巻く巨大な土壁が出現している事に誰も気づいては居なかった。
ディバルの近くでは強烈な風の中心に居るので、周りの状況が一切解らなかった。
またある場所では大地から滲み出る湧水が、あっと言う間に身の丈以上の水位になり、口に含むと塩辛いのだ。
重い装備を身に付けている人族は殆どが溺れている。
またある場所では先ほどまでの晴天から曇天に変わり激しい落雷が終わる事無く降り注いでいる。
またある場所では瞬時に気温が変化したと同時に、異変に気付き空を見上げると人族も魔物も絶句した。
空一面の巨大な炎の玉が轟炎を上げながら落ちているからだ。
「「「に、逃げろおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
種族を問わず逃げ出そうとするが、四方は海水の壁、巨大な土の壁、風の壁、落雷の雨に囲まれて、肌を焼く炎の玉が落ちるのを見ているしか術が無かった。
戦場の状況は"ゼンチ"で把握しているので、目の前の実験体に魔法を行使する。
「さてと、シンクウ。おっ結構な範囲で悶絶し出したなぁ。解除。ドカン。ふむ、このくらいの範囲か。シンツウ、なるほど。カンツウ、どちらも範囲は同等で悶絶してるな。次はキョウダン・・・行け。おおおっバタバタと倒れてくなぁ。解除。モルテメリソス。うわっ何だこりゃ」
ディバルの両手の指の先から細い糸が出ていた。
「いやいや十本はおかしいだろ。とりあえず両手の人差し指から出てくれよ」
気を取り直して再度発動させると、ディバルの思い描く状態が現れた。
「おっ良いぞ。なるほど、指の向きで動くのか。強弱は思念かな?・・・思った通りか。流石にこれは練習しないとダメだな。そうなると、キョウダンが扱いやすいか」
さほど時間も経たず戦場から命の灯火が殆ど消えていった。
ディバルは簡単な魔法実験が終わると土壁を残して全ての魔法を解除して念話した。
"生き残っている者達よ、中央に来い"
ディバルは広域で威嚇念話を使い全ての者達を集めようとした。
戦乱の中心に居た者達は恐る恐るだが警戒しながら集まって来た。
そして想定通り両軍の首脳部たちは動いていない。
仕方なく予定通り召喚魔法を使い、両軍の中枢である者達を強制的に運んだ。
「「「馬鹿な!! これは一体どうなっているんだ!!」」」
慌て騒ぐ両軍の指導者達だ。
(黙れ、静かにしろ!!)
威嚇念話だ。
大声よりも大きく脳に響き渡る念話で驚かせ覇気を削り恐怖を植え付けるのだ。
(お前たち、争いを止めよ。まだ争うならばこの程度では済まんぞ。全て滅びる覚悟をしろ)
言葉の通じない者達にも念話は理解出来る。
(返事は!?)
「「「・・・」」」
ザワザワザワ
人族は何が起こっているのか、目の前の者が何者なのか、戦場がどうなったのかも知りえない。
それは魔物達も同様だった。
しかし、ディバルの"ゼンチ"には双方の心情や動揺が理解できた。
(解った。お前たち、自らの眼と耳で何が起こったのか調べるが良い。そのあとで聞こう、お前たちが自らの矮小さを悟れば助言を授けてやろう。さぁ見て回れ!!)
人族は突如現れた得体の知れない魔法使いらしき強者の言動に従った。
それは、宿敵であるオーガの首領が眼下に伏してしたからだ。
オーガの首領も先ほどの光で全身に力が入らず、今のままでは大きな魔力を持つ男に太刀打ち出来ないと理解していたからだ。
両陣ともに不本意だが、実際何が起きたのか理解できていないのだ。
ディバルの側で指揮を取る両陣営は徐々に戦場の実態を目の当たりにしていった。
「馬鹿なっ! 万は居たのだぞ、それがほぼ全滅だとぉ!!」
「本当なのかっ! 万も居たのにたったこれだけしか残っていないのか!!」
言語は違うが近くで怒号が飛び交っている事を理解した両軍だ。
両軍ともに数百の兵しか生き残っておらず、その全ての兵が負傷していたのだ。
「「皆どうする?ヤツの言う通りにするか、それともまだ戦うか?」」
両軍の参謀たちは困惑していた。
人族の生き残った者達から何が起こったのか証言を求めるが、幾つもの違う返答が有り、全ての生き残りが恐怖していた。
「族長代表!どうするのだ⁉︎」
「どうするも無い。我らに戦力は残って無いだろうが‼︎」
投げやりの族長代表だ。
「首領、どうする?」
「ぬぅぅ、我が挑む!」
「おおっ!!」
脳筋のオーガは後に引けない様だった。
しばらく時間が経ち、人族が集まって来た。
(ではお前達から聞こうとか)
「我らは神の慈悲を乞う。どうか貴方様の庇護下にお加えて欲しい」
人族たちは生き残った者から絶大な力を目の当たりにして神の罰が下ったとの意見が多かったのだ。
族長達も暗闇の中で、その力の片鱗を体験したのだから生死を分けて生き残った者たちの形相と訴えが魂を震え上がらせていた。
そこに魔物達が現れた。
「我は魔物の長ドドラ、お前と戦いたい」
魔物の首領ドドラは後に引けない状況で、戦う事でしか決着の方法を知らない種族だ。
(フム、お前が勝てば再度戦いを始めたいのだな?良いだろう。では、お前が負けたらどうする?)
「全ての魔物はお前に従う」
(そうか。ではお前はどうしたら負けを認めるのだ?)
「死ぬか動けなくなるかだ」
(良いだろう)
ディバルは再度拡散念話で説明した。
(今から魔物の首領ドドラと一騎討ちを行う。生き残った者達は勝者の命令に従え)
二人を取り囲む様に魔物と人族が集まっていた。
(お前の気力体力を回復してやろう)
ディバルがそう告げるとドドラの全身が光に包まれた。
(これは・・・力が戻ったのか、漲ってくる)
(さぁドドラよ、いつでも良いぞ)
「ドゥラァァァァッ‼︎」
ドドラの雄叫びだ。
(名前がドドラで咆哮がドラってなぁ・・・)
凄まじい覇気を放ち勢い良くディバルに立ち向かって行ったドドラ。
ところがディバルが何か呟くと、その勢いのまま顔面から大地に崩れ、ドドラは何が起こったのか理解出来なかったが激痛だけは解かった。
「ぐあぁぁぁっ‼︎」
ザッザッザッと歩く音がドドラに聞こえた。
ディバルはドドラの両手両足を拾って見せてやった。
二人の対決を見ていた人や魔物にはドドラの両手両足がバラバラになったのを目撃した。
ザワザワザワ
「手足が斬られたのか⁉︎」
「一体どうやって斬ったのだ⁉︎」
「信じられない‼︎」
「か、神の身技だ‼︎」
「魔法なのか⁉︎」
様々な憶測が観衆に飛び交うが当事者であるドドラはしだいに激痛が麻痺して諦めていた。
真っ青な空を眺めていると敵対者が視界に映った。
(お前の手足を切り落とした。もう戦う事は出来ないぞ、どうする?)
「殺せっ!」
(負けを認めるな)
「早く殺せ!」
(お前が負けを認めたら考えよう)
「・・・負けだ」
その答えを聞いて両手両足を、一本ずつ魔法を使い付けてやった。
「何故助ける?」
(お前の命は俺が貰った。俺の命令以外で死ぬ事は許さん)
「・・・」
四肢が接続されて元に戻ったドドラは宣言した。
「我らの軍はこの方の配下になる。異論のある者は我の敵とする」
魔物達は単純だ。
力こそ全てである。
ドドラの回復を見ていた全ての種族は驚愕していた。
ザワザワ・・・ザワザワ
(双方の種族は代表を決めて話し合いをせよ。今後争いを無くし、残されたお前達がこの地に国を作るのだ。国の大きさは壁で囲まれた範囲とする。種族の代表は国を繁栄させる事に力を尽くせ)
そう拡散念話すると、ディバルは魔法を使った。
生き残った者達が温かな光に包まれると、全ての怪我が治っていった。
更に魔法を行使する。
ディバルの後頭部が光だし、その光は次第に輝きを増していったと同時に宙に浮いていた。
(良いか、争いを止め共に繁栄に尽くすが良い。いずれ又観に来よう)
再度拡散念話だ。
人も魔物も宙に浮かぶ光輝く人型を、口を開けて眺めていた。
そして光は遥か彼方に飛んで行った。
カッコつけて飛び去るが、適当な頃合いで転移して戻るディバルだった。
人族は全員拝んでいた。
魔族は全員呆然と見ていた。
基本的に現地の人族と魔物は言語が違う。
しかし、ディバルの念話で魔物の首領がドドラと言う名と理解していた。
人族の族長代表がドドラに近づいて行った。
指を差し告げる。
「ドドラ」
自分を指差して告げる。
「バロック」
沈黙のドドラ。
「・・・」
「ドドラ、バロック。お前がドドラでワシがバロックだ」
何度も繰り返すとドドラの口から言葉が出た。
「バロック・・・」
バロックは笑顔になった。
異種族の交流が始まった瞬間だ。
下界の生物は未知の力に畏怖し敬意を持って崇めたが、所詮は発展途上の知的生命体だ。
全てを把握する存在にとっては、過ぎ去る景色と同様である。
生き残った者達は、一つの国の始まりであり伝説として伝わる瞬間の出来事を口伝や石版で残すのだった。
メルカバ=戦車=チャリオット
キョウダン=凶弾。
小指大の黒く丸い塊を音速で自由自在に操り脳漿を破壊する事を目的とする。
任意で認識した敵対者や範囲内の存在を標的にする。
音と同等の速さで飛び、最大操作個数は10個だ。
基本的に眉間と顳顬を標的にする。
闇夜【原初の常闇】眼球自体に効果が有り眼を開けていても暗闇状態だ。
聖光【原初の閃光】浄化をおこない、悪意に対して弱体化させる。
大地の壁【原初の大地】大地を利用した壁で、大きさと範囲は想いのままだ。
風壁【原初の空風】強烈な烈風が吹き荒れる。
海水【原初の水滴】無限に湧く塩水だ。
雷雨【原初の稲妻】大気を変化させ稲妻の雨が降り注ぐ。
小太陽【原初の火炎】信じられない程の巨大な炎の玉と熱量だが、実際は超広範囲に作用する炎魔法で威力はそれほどでもない。




