Alius fabula Pars29 モナスカ王国2
モナスカ王国で土地を購入したディバルは本宅であるテトラの屋敷に戻っていた。
自分の部屋でクルシブルの進行状況を確認しながら四人の眷属の行動を盗み見て楽しんでいるのだ。
流石にこの設備を研究所には配置する事は考えて無かったディバルだ。
シニストラとデクストラも王族と共に無事モナスカの王都に入ったことを確認した。
「全て順調だな。そろそろ四人に予選用の魔法を与えるか・・・」
予選用の魔法とはゴーレム召喚の事で、召喚魔法陣を魔石などに付与させた物だ。
付与させた魔石や魔導具をギルド職員に貸し与えて、大量の参加者を選別させるのだ。
沢山の応募者を対戦させていては時間の無駄だとし、所定のゴーレムをある程度粉砕出来るかで合格の有無を短時間で判断するためだ。
予選で使用するのは木のゴーレム、砂のゴーレム、石のゴーレムで、強さも三段階設定できる。
レベル的には十、ニ十、三十で高レベルになるほど攻撃力、防御力、体力が増加する。
木のゴーレムが一番弱いが数の暴力に対抗できるかだ。
砂のゴーレムは斬撃が通じないので、魔法などの対策が必要だ。
石のゴーレムは通常の攻撃魔法や斬撃が効きづらいので対策が必要だ。
まずはレベル十の木のゴーレム一体を一定時間内に半壊以上出来なければ、次の予選に出る資格は無い。
また、ゴーレムは基本的に対戦者を殺しはしない。
ゴーレムへの命令は武器と防具を剥ぎ取る事と、遠くへ投げ飛ばすことだ。
これで接近戦が得意な相手でも簡単には近づけないであろう。
ゴーレムの攻撃を掻い潜り破壊する能力を持つ者だけが次に進めるのだ。
これはほとんどの職種戦に適応され、本戦出場者のニ十人が選出されるまでゴーレムの難易度を上げる予定だ。
ほとんどの職種とは一部の例外の職種があるからだ。
戦闘補助魔法と回復魔法である。
この職種に限っては対戦式を予定している。
味方のゴーレムを補助もしくは回復させながら、敵の陣地に入るかゴーレムを全て倒す事を目的とする。
意外な職種が予選から盛り上がりそうな予感のするディバルだった。
とは言え、眷属に説明してギルドでの検討をさせるつもりだ。
ディバルが楽しそうに妄想しているなか、シニストラとデクストラたちは第二王子オットー・ラクサ・ナ・モナスカと第二王女ミルカ・モリニア・ナ・モナスカに教員のジーメンスと共に王宮に向かっていた。
一旦はロドトルマ学園に戻ったものの、オットーとミルカから催促されて学園に説明したあとで王宮に向かうことになったのだ。
城門にて用意していた書状を兵士に渡し至急大臣のファシエンスに届けるよう第二王子と第二王女自ら命令したのだ。
親子であったとしても国王との謁見は所定の手続きを取らなければならないが、ジーメンスと共に考えた方法である。
王宮の執務室で書類に目を通していた大臣兼公爵リンセラ・アエロ・ファシエンスの元に使いの兵士が現れた。
「ファシエンス公爵様、第二王子オットー殿下と第二王女ミルカ殿下から書状を預かっております」
「あの二人から? 見せてみよ」
書状にはジーメンスの直筆で、詳細が記されており王族の二人を救ったエルフに、王子たちの希望で褒美を授けてほしい旨が書いてあった。
「しかし、エルフの冒険者とは珍しい。だが・・・偶然か、それとも・・・」
何事にも疑う事が仕事の内である大臣だ。
「衛兵に謁見の間の警備を倍にしろと伝えろ。賓客を迎え入れる準備をしろ」
部屋付きの兵に命令を出し、自らは国王の下へと向かった。
国王の執務室ではファシエンスが書状を渡し説明していた。
代々直系の王族が国王を世襲せるモナスカの現王は数々の武勲を上げた男だ。
「陛下、両殿下の危機を救った事も重要ですがエルフの冒険者などと真偽を見定めたいと思いまして」
「ふむ。余もエルフは見たことが無いな」
「はい、書物によると美しい顔立ちで魔法が得意な種族であり我らよりも寿命が長いと記されておりますな」
「それに兄弟と言うではないか」
「は、我が国に取り込めれば良いですが・・・」
「ふむ。まずは会ってみようではないか」
「仰せのままに・・・」
かくして待機する間も無く、謁見の時が進んでいった。
城内には沢山の兵士や従事者が働いているが、全ての者達の目線が集まっていた。
先頭はオットーとミルカで後ろにデクストラとシニストラで、最後にジーメンスが連れ立って歩いていた。
視線を集めている自分たちがまるで英雄になった気分のオットーとミルカだが、その視線は頭上を通り後ろの美しい金髪の二人に注がれていた。
一人冷静なジーメンスは、改めてエルフが珍しい存在だとしり、後姿のシニストラを記憶の映像と照らし合わせて幸せなひと時だった。
兵士が大きな門を押し開けると、そこは謁見の間だった。
壇上の前で跪く第二王子と第二王女とロドトルマ学院の教員だ。
しかしエルフの二人は立ったままだった。
「平伏して・・・」
「我等に人族の礼儀は無用で願いたい」
文官の一人が注意するよりも早く種族の礼節を無効にするデクストラだ。
「良い・・・二人が余の子らを助けてくれたエルフか、親として感謝する」
「気にすることは無い。偶然の遭遇だったからなミルカ」
「ハッ、ハイ!!」
いきなり自分の名を呼ばれるとは思わなかったミルカだ。
(あの者、ミルカと親しげに・・・)
「ジーメンスと申したか。その方の書状で大まかな事は把握したが何があったか今一度説明してくれるかオットー」
「はい、父上。学園の課外授業で私とミルカに仲間の者と三日月の森を散策していたところ・・・」
オットーは事細かく丁寧に説明した。
途中からミルカも話しだし、二人の熱のこもった説明に国王も身を乗り出して聞き入っていた。
「・・・あの時、私は死を覚悟しました。激しく打ち付けられた痛みと宙に浮き飛ばされた感覚でお父様にお母様と兄弟の顔を思い出していました。そしたら急にガッシリと抱き寄せられ、大丈夫かって・・・私は神様に召されたのかと思ってしまいました。ですが、目を開けるとそこにデクストラ様がいらっしゃったのです」
「ミルカよ、良く解らんが飛ばされた後、どうなったのだ?」
「はい、デクストラ様が私を空中で抱きかかえて頂きました。更に治癒の魔法で癒してもらいました」
「ほぉそれは凄い」
「そしてゆっくりと地上に降り立ったのです。まるで大きな力にゆだねた小鳥のようでしたわ」
「「「・・・」」」
ミルカの表現に思う事の有る親族と関係者たちだ。
「それで、例のブバルスと言う魔物はどうなったのだ?」
「はい、父上。ミルカが俺の事を大事に思って突き飛ばされた後、ミルカがデクストラさんに助けられた様子を確認しブバルスを探すと離れた場所で倒れる瞬間を見ました。するとそこには女神のような女性が立っていたのです」
「「「・・・」」」
オットーの表現で好意を見抜く親族と関係者たちだ。
「では、そこの女性が魔物を倒したのか?」
「父上、ただ倒したのでは御座いません。一撃で倒されたのです、このシニストラさんが!!」
王に大臣や兵士たちでさえ、口には出さないが幼い王族がエルフの美貌に心を奪われていると理解していた。
そこに大臣のファシエンスから横槍が入る。
「オットー殿下、その魔物を倒した証拠はありますかな?」
「シニストラ様、お願いします」
オットーから催促されて"ハコ"から魔物を出した。
「「「おおおおっ」」」
「陛下、これは」
「ふむ。次元収納だな、しかし大きなブバルスよのぉ」
「は、確認してまいります」
ファシエンスがブバルスを確認しているとオットーが急所を一撃した場所を指差し教えていた。
「本当に一撃なのか!? この大物をぉ!?」
しかし、どれだけ探そうが他に傷は無かった。
「陛下、話を聞く限り数日前の様子ですが・・・魔物の死体はまだ熱を帯びておりました」
「やはり次元収納で間違いないようだな」
自慢げなオットーとミルカに冷淡な佇まいのエルフの兄妹と沈黙の教師だ。
「この大物を一撃で倒すとは見事な腕前よ。子供たちを助けてくれた礼と共に褒美を取らせたいが望むものはあるか?」
「我等に褒美など無用」
「しかしそれではこちらが、そなたたちの恩義に報いる事が出来ない。何か望みのものがあれば可能な限り用意するが何でも良いぞ」
わずかにシニストラとデクストラが向き合っていた。
「では、我ら兄妹はこれからもオットーとミルカとの友誼を交わす事を望む」
「!! それで、そんな事で良いのか?」
「これも縁である」
エルフたちと父親とのやり取りが理解できなかったオットーとミルカだった。
「そうか・・・寛大なエルフ族に感謝しよう。ところでそこのブバルスはこちらで処分しても構わないか?」
「差し上げよう」
「重ね重ね感謝しよう。では皆さんを王宮で持て成したいので今日は泊まってはくれまいか?」
「・・・その言葉に甘えるとしようかシニストラ」
「そうねデクストラ」
「ええっ、泊まってくのぉシニストラさん」
「ど、ど、どうしましょう。デクストラ様とお泊りだなんて・・・」
二人の兄弟は過大妄想しているようだった。
「では部屋へ案内しよう。オットー、デクストラさんを案内するように。ミルカ、シニストラさんを案内して差し上げなさい」
「「・・・はい」」
本当は思い人の案内をしたかった兄妹だが、寝室や身の回りの説明は異性では失礼にあたると即座に理解した。
一同が謁見の間を退出した後、一人の男が謁見の間に戻ってきた。
「どうしたジーメンス」
「陛下、ファシエンス様。お二人に内密のお話がございます」
「それは今回の件と関係するものか?」
「・・・ハイ。出来ればお人払いをお願いしても宜しいでしょうか?」
「ふむ、場所を変えるか」
三人は国王の執務室へと場所を移した。
「それで何の話だジーメンス」
大臣のファシエンスに催促され説明したのは伝授された付与魔法の事だった。
学生の要望でエルフの兄妹に魔法の指導をお願いしたところ、浮遊魔法の扱い方と自分に付与魔法を伝授された経緯を説明した。
「何っ浮遊魔法の扱い方だとぉ。学生達は、あのただ浮かぶ魔法をどの様に使うのだ?」
「浮かびながら瞬時に移動が出来ます。既に両殿下は簡単には捉えることが出来ない程の動きでございます」
「あの二人が・・・」
「それでお前に伝授された付与魔法とはどの様な魔法なのだ?」
「非常に・・・非常に危険な魔法で御座います」
「だから説明せよと言っているのだ」
「はぁ・・・」
ジーメンスは困っていた。
何でも切れる様になる魔法を言葉よりも実演した方が危険度を理解しやすいからだ。
しかし、どの様にして実演するかが問題なのだ。
ジーメンスは部屋を見渡すと、壁に飾られている剣を見つけた。
装飾が見事な剣で実用には向かない物だ。
「陛下、あちらの剣をお借りしても宜しいでしようか?」
「構わんが、剣などどうするのだ?」
壁に飾られていた剣を二本取り、一本をファシエンスに渡した。
「普通、剣を剣で切ることは出来ませんよね?」
「その通りだ。しかもその剣は装飾品だぞ」
「では試しに私の持つ剣を切ってみてくださいませ」
ジーメンスが剣を前方に伸ばしファシエンスが上段から剣を振り下ろした。
ガキィィン
「そらみろ。出来るわけが無い」
「では魔法を付与します」
持っていた剣に魔法を使うジーメンス。
「アジノタタキ・・・今度はこの剣を使って下さい」
ファシエンスの持っていた剣と交換して、先程と同じ体勢となる。
(これで何が変わるというのだ。まさか本当に切れる訳でも有るまい)
侮っていたファシエンスが剣を振り下ろした。
キンッ
「何ぃぃぃ!」
「馬鹿な、本当に切れたぞ」
「信じられない」
「ファシエンスよ、力を込めて切ったのか?」
「いいえ、陛下。単に剣を振り下ろしただけです」
「「ジーメンス、説明せよ」」
何でも切れる魔法の付与、アジノタタキは日に六回しか発動させる事が出来ず効果は一日で、逆に六日間発動させると日に一本しか付与出来ない。
そして魔法の伝授や教える事も出来ないので、ジーメンス一代限りの魔法と言う設定だ。
「・・・とてつもなく恐ろしい魔法よ。しかし、何故お前が伝授されたのだ?」
「はい、本来はオットー殿下が強力な付与魔法を望まれましたが、殿下の年齢を考慮し私にその役目が与えられました」
「・・・」
親としては神妙な気持ちの国王だ。
「ジーメンスよ、この事は誰が知っておる?」
「ハイ、両殿下と数人の学生です」
「陛下、箝口令を敷かねばなりませんな」
「私からも既に他言しない様に話してあります」
「とは言え、念の為だ。明日にでも集めよ」
「ハイ・・・あのぉ、エルフの兄弟がわたしの事を心配しておりまして・・・」
「なるほど・・・この様な付与魔法はおいそれと公表出来ないからな」
「はい、しかし学生の口から既に漏れている可能性もあります」
「どうしたものか・・・」
「王宮ではこの場の者しか知らぬな?」
「はい」
「では知らない事にしようではないか」
「一応エルフの兄妹から対策も頂いております」
「早く申せ」
「まずわたし一代限りの特殊な付与魔法で魔力と生命力を使い、命を削る危険な魔法です。そして生涯に数本だけ特別な付与魔法を使う事が出来ますが、生命のほとんどを使い果たし死に至る大魔法で御座います」
「なるほど、付与魔法は有ったが生命を糧とした特殊な付与魔法で、その大魔法を使って絶命した事にする訳か」
「おっしゃる通りで御座います」
「して、ジーメンスよ。その大魔法とは存在するのか?」
「・・・御座います」
「どの様な付与魔法だ?」
「通常であれば効果は一日もしくは六日ですが、大魔法は・・・」
「どうした、早く申せ」
「わたしと十人以上の魔法使いが同調して発動させるもので、百万回使用可能な剣でございます」
「「何ぃぃぃ!!」」
この場合、百万回をどの様に捉えるかが問題だが、国王たちは驚愕していた。
「その様な剣を・・・まさに聖剣ではないか」
「陛下、このジーメンスですが、このまま学園に置くのは危険かと」
「ふむ、余の側で専属の魔法使いとして置くか」
「それが宜しいかと」
シニストラとデクストラの思惑通りジーメンスを保護できた様だ。
「とにかく、明日この事を知る者に厳重な箝口令を敷きましょう」
だが人の口に壁を作る事は出来ず学園から噂が出て即座に王宮に広まるのだった。
とりあえずジーメンスは一安心だ。




