Alius fabula Pars28 モナスカ王国
ディバルは一足先にモナスカ王国へと入っていた。
流石に目隠ししている仮面の状態を衛兵に問われたが魔法で対処していると言うと、何度も目の前で指の本数を言い当てる事となった。
モナスカでは研究施設を作るためにギルドで住居の情報を得る算段で、訪問は一人で行ったのだ。
本当はディバルの能力を持ってすればその程度の事は造作も無いことなのだが、この世界を楽しむ為に遠回りでも人として手順を踏むつもりだ。
ギルドの訪問を何度も経験することで、人の悪意も大小選別することが可能になっていた。
精神に本質的な悪意を持つ者に対しては即"パン"を行い、小悪党程度であれば"ダイダリア"で視界から消えてもらうのだ。
今回もギルドに足を踏み入れる前から"ゼンチ"で確認済みで、ダイダリアで数人が腰をかがめ青ざめた表情で慌ててどこかに走っていった後、残された数人をパンだ。
そしてギルドに入り受付へと足を運ぶ。
不埒な輩や冒険者たちの視線は一切無い状態だ。
カウンターに着くと受付嬢が問いかけてきた。
(流石に王都では若い子を置いてるなぁ)
「今日はどうされましたか?」
「はじめて来た街だが気に入ってね、定住したいと思っているが、どこか住む場所を紹介してくれないか?」
「畏まりました。それではギルドの認識票を提示してください」
ディバルは白い認識票を出した。
「白・・・旅人の方ですね、初めて実物をお持ちの方を拝見しました。それでは認識票を確認させていただきます」
(この子、認識票には驚くが俺の目が見えない仮面には驚か無いのか・・・)
(メディ・・・メディテッラ・・・舌噛みそうな国名よねぇ。こんな名前の国有ったかしら)
「あのぉアルジ様?ご出身ですが・・・」
すでに何度も経験したやり取りだ。
「ああ、この大陸じゃないから解らなくてもしかたないさ」
(別の大陸ぅ?・・・しかもこの人エルフなんだぁ・・・始めて見た)
出身も種族も全て偽造されたものだが、認識票を管理している魔導具自体が龍国で作られたものだから同じ場所で作らせた認識票が偽物だとは分からないのである。
「では別の窓口で説明しますので、こちらにどうぞ」
案内された場所には別の担当が居た。
「旅人だってぇ? まぁ住むには良い街だよここは。あぁ俺はドーズってんだ、よろしくな」
中年のオッサンが担当となった。
「それでどんな所に住みたいんだ?」
「小さな一軒家が希望だ」
「小さいったって限度があるだろうし、予算はどのくらいだ?」
「特に考えては無いぞ。気に入れば買うし、金は認識票に記憶させてある」
認識票は財布の代わりにもなっていて、大金をギルドで預けたり出したり出来、残高の確認も可能だ。
したがって認識票は盗難の標的になりやすいが、事前に自分以外に二人の所有者を登録するが出来る。
これは本人が死亡した場合に財産を受け取ることが出来る者を、本人が決められる制度だ。
また、受取人の全てが死亡している場合はギルドに寄付する契約となっている。
ドーズはディバルの認識票を魔導具に乗せて、所定の所作を行った。
「えっ・・・」
ドーズは自分の目を疑った。
そこには両手では数えられない桁数の金額が表記されていたからだ。
「こ、こ、あの、ええっとアルジ様・・・これは?」
実はディバルはいくら入っているのか知らなかったのだ。
「何か問題があるのか?」
「いえいえいえいえ滅相も御座いません。しかるべき場所を選定いたします」
そう言って慌てて奥へ走って言った。
(ヤベェ、マジヤベェぞアレは。本物の金持ちだ)
最新の認識票を持ち、別の大陸から旅をしてきた金持ちエルフだと勘違いされたようだ。
しばらくして、いくつかの資料を持って現れたドーズ。
「"アルジ様"、この三つが今お勧めの物件になりますが、これから観にいかれますか?」
「ああ頼む」
ドーズは元冒険者で、負傷を負って引退したが知識と経験を買われてギルド職員となり、初心者にも指導する世話好きのおっさんである。
ギルド経由での購買は手数料が入るし、職員の成果として評価されるのでドーズの態度や言葉使いが豹変するのも致し方ないであろう。
ディバルとドーズがギルドを出る際に、騒がしくしている者達が居たが(ディバルの仕業)一切気にせずに物件を観に行ったのだ。
ギルドからすこし離れた場所にある、こじんまりした屋敷だった。
「こちらは王都でも中心地に近く、庭も小さめで屋敷は二階建てでしてコの字型で中庭もあります」
「それなりに古そうだな」
「はあ、多少古いですが中心地に近いだけでかなりのお値段になってます。はい」
(悪くは無いが・・・何の設備も無しか・・・小さめと中心地に有るだけか・・・)
屋敷の中を見学しながらディバルが考え事をしていると声がかかった。
「ではアルジ様、次の物件に行きましょうか」
ディバルの表情を見て悟り、次の物件を進めるドーズだ。
今度は中心地からギルドを挟み反対方向に向かってそれなりに離れている物件だった。
ドーズはギルドの職員の服を着ているからか、目の見えない仮面を付けているディバルが歩いていても注目はするが直ぐに関心を無くす街中の人々だった。
「おっここは大きいな」
「はい、ほぼ先ほどの三倍の広さになります」
庭の大きさや建物の大きさも三倍ほど感じられた。
一通り観て回って出てきた言葉は否定的なものだった。
「しかし、これは大きすぎるだろう」
(悪くは無いが、大きすぎだ)
「そうですか・・・では次の場所はどうしましょう。敷地はここと同じくらい有りますが」
「せっかく探してくれたのだ、観に行くさ」
最後は城壁に隣接する屋敷で、先ほどと同等の広い敷地が有り、最初の物件と同様のこじんまりした屋敷だった。
「ここは良さげだなぁ」
「そ、そうですか?中心地からは離れていますけど」
「それはたいした問題じゃ無いさ」
(ここだったら地下室も沢山作れるな)
「価格もこちらが三箇所の中で最安値ですしね」
「一応確認だが、値引き交渉は可能か?」
「支払い方法にもよりますが・・・」
「手持ちの金額で買えるだろ?」
「勿論です」
「では即金だったらいくらになるか交渉を頼む」
「解りました。お任せください」
ギルドまでの道のりもドーズから街の説明を聞きながら情報収集でき、大まかな情勢を把握する事が出来た。
現在の王政は安定しており内政も充実させた現王を支持する国民が多いと言う。
軍事力も帝国と並ぶ程の軍隊を持っていると言う。
そんな雑談をしているとドーズから質問があった。
「ところでアルジ様は護衛の方は居ないのですか?」
「いるぞ。だが今は別の仕事をさせているから側には居ないのさ」
「そうでしたか。しかし、もしもと言う事が有りますから念の為に臨時でも護衛を雇われた方が宜しいのではないでしようか?」
(コイツ、保護者みたいな事言いやがる)
「大丈夫だ。これでも多少は腕に覚えが有るからな」
「そうですか。わたしどもより遥かに長く生きられたアルジ様でしたらそうかもしれませんが、警戒は怠らない方がよろいしかと。このモナスカも不定の輩は存在しますから」
「心配してくれて、ありがとうドーズ」
「何か有りましたらいつでも相談に乗りますので、このドーズを御用命下さい」
「今回の購入が滞りなく済めば考えておくよドーズ」
「ハイッ、ギルドに戻り次第値引き交渉を進めますので全てお任せ下さい。二~三日で良い結果を提示出来るよう準備いたします」
半日歩き回って三件見た二人はギルドに戻り、ドーズは休む間もなく手続きの交渉を準備する。
購入予定の場所とギルドまでは、それなりの距離があり徒歩であれば遠く感じるだろう。
その日はそのまま龍国に戻りバレンティアを呼び出した。
スプレムスの居住場所で地域担当の龍人を呼び出した。
「お呼びでしょうかディバルシス様」
「ああ、モナスカに土地を購入する予定だから建物を頼みたい」
「ハッ、全てお任せ下さいませ」
「バレンティア、分かってますね?創造神様の仮住まいとなる場所よ」
割って入ってきたのはスプレムスだ。
「はい、勿論で御座います。彼の地にはディバルシス様に相応しい建物をお作り致します」
満面の笑顔のスプレムスだ。
「ちょっと待て。お前が口出すとややこしくなる」
「でもぉ・・・」
頬を膨らます、この世界の最高神だ。
「バレンティアよ、かの地には魔法開発の研究室を作りたいのだ。それも地下にな」
「ははぁ。委細承知致しました」
「そうか、分かってくれたか。見た目の建物よりも地下の研究室が重要だ」
「・・・」
何か言いたそうな最高神をよそに龍人に指示を出す創造神だ。
ご機嫌な神と不機嫌な神との板挟み状態のバレンティアは神経をすり減らしていた。
その場は沈黙していた最高神であるスプレムスは一人になりバレンティアを呼び出した。
「お呼びでしょうか大神様」
「バレンティア、先ほどの件ですがわたくしは我慢なりません」
「ですが・・・」
「バレンティア、地下はあの方の指示のままで、上の建物を新しくしなさい」
「はあ・・・ディバルシス様には何と言えば宜しいでしようか?」
「貴方の独断で作りなさい」
「えええぇっ無理です無理です、流石にそれは出来ませんしディバルシス様に追求されますよー」
「・・・仕方ないわねぇ。それではわたくしの命令で良いわ」
無茶な命令の責任を何とか回避出来たバレンティアだった。
「では建物はどの様な物をご要望でしようか?」
「場所は城壁の側らしいから、敷地の塀を城壁と合わせて強固な物にしなさい」
「・・・ハッ」
「庭は必要ね。建物はあの国で一番高くする様に」
「えっ・・・ハッ」
「内部の仕様は貴方に任せるわ」
「・・・ハッ」
「とにかく、この国で一番高い建物で威厳ある風格の建物にしなさい」
「・・・畏まりました」
無理難題を言う最高神に再び神経が衰弱する龍人だった。
数日後、ギルドに顔を出したディバルだ。すると
「アルジ様ぁぁぁぁぁっ!!」
カウンターから飛び出してきた中年男が子犬の様に目を輝かせていた。
「やぁドーズ。例の件はどうなったか?」
「はい、値引きもバッチリで、万事手続きは用意できておりまして、後はお支払いだけの状態でございます」
「そうか。じゃ手続きを済ませよう」
「はい、では奥の個室へご案内します」
大手を振って自慢げに案内するドーズ。
個室に入ると書類の束と、認識票を確認する魔導具が置いてあった。
「アルジ様、お手数ですがこちらの書類をご覧なされた後にここに名前をお書きください」
ディバルのゼンチは書類の束もスキャンして内容の正誤を掌握した。
「大丈夫だ。それより税金はどうなってる?」
「こちらで御座います。購入の際の税金と、毎月の税金です」
「そうか。では税は五十年分をとりあえず払っておく」
「えっ・・・は、はい。直ちに計算致します」
そう言って慌てて外に出て行ったドーズだ。
「てーへんだ、てーへんだ。おーい会計ぇ、例の物件の税金を五十年分計算してくれっ」
ドーズの慌てっぷりに周りの職員が驚いた。
「ええっ五十年分っ!?何言ってんのよ、聞き違いじゃないのドーズさん」
「いや、これが間違いじゃないんだ。直ぐに計算してくれ」
鼻息の荒いドーズに、近くに居たギルマスも言い寄ってきた。
「ドーズ。流石に五十年分の税金を払う奴が居るとは思えんがな」
「ギルマス、ちょっと・・・」
ドーズとギルマスは誰にも聞かれないような小声で話した。
「・・・何ぃぃっ!!」
「声がデケェよギルマス」
「すまん。それで・・・」
ディバルが別の大陸から来た金持ちのエルフで、認識票で残高を確認し屋敷を購入する段取りで、決済するために個室で待たせている状態を説明した。
「ドーズ、よくやった。しかし即金か。しかも税を五十年分払うだなんて、俺も挨拶したい。ドーズ、一緒に行くぞ早く計算させろ」
手柄は部下のものだが、責任者として顔を出し知り合いになりたいギルマスだった。
扉を叩き入室してきたのは二人だった。
「アルジ様、こちらはギルドマスターのトッシュと申します」
「どうも初めまして。トッシュです」
「わざわざギルマスが登場ですか?流石に全て即金だと目立ったかな?」
ディバルは自分から名乗ろうとはしなかった。
「我等にとっては非常にありがたい事ですが、役人や王族からすると何処の何者かと、まずは疑われましょうな」
「それでギルマスが人物判断をするわけか」
「まぁそうですな、基本は認識票の情報ですがご本人とお話すれば、人となりを知ることが出来ますからな。ところでモナスカに永住されるのでしょうか?」
「いや、単なる別荘だ」
「えっ別荘・・・」
「何か問題でも有るか?」
「いえいえ・・・別荘ですかぁ」
((別荘即金かよ))
「ところで支払いはまだか?」
「では金額はこのようになりましたので認識票をお借りします」
サッと目を通し白い認識票を渡した。
ドーズが所定の手続きをすると、チャリーンと言う効果音が魔導具から聞こえた。
「土地建物と手数料に五十年分の税金をギルドが立替入金させて頂きました」
「ずいぶんと減ったかな?」
「ほとんど減ってないようですなアルジ様」
「まぁ、これで支払いも済んだし何か有ればギルドが保障してくれるよな」
「勿論で御座いますアルジ様」
普段のドーズを知るトッシュとしては、その態度と物言いに文句を言いたいのだが、上客の手前平静を装っていた。
「ところで土地の敷地内に建物を作ったりするのは問題ないな」
「はい、アルジ様の土地に何を立てられても誰も文句は言いません」
「そうか。それを聞いて安心した」
当たり前すぎて気にはしなかったが、いずれ驚くことになる二人だ。
ディバルは地下に巨大な施設を計画しており、見えなければ大丈夫だろうと本人も安心しきっていた。
ダイアリア=極悪非道魔法。
対象者に強制的な下痢を一定時間発動させる魔法。
魔法で小腸に冷水を充満させ、突き刺しえぐる様な痛みと共に大腸から”流動物が外に出たい”と激しく脳に信号を送らせる魔法だ。
何が極悪非道と言うと、ゲーム的に言えばステータスが全て低下し、苦痛と”その後”を連想し青ざめるからだ。
魔物に対しても有効だが、一部の魔物は”それらをまき散らして”襲ってくるので注意が必要だ。




