第26話 二国間会議
大国が何か事を起こせば、反意を持つ者が必ず現れるのは世の常である。
しかしフォルティス帝国とエジェスタス王国は、その限りではない。
反意や不満を持つ者を無くす事は出来ないが、危険思想の元に行動を起こそうと企む者達は現在をもって存在しない。
何故ならば”処理”しているからだ。
これは帝国や王国の采配ではない。
人智を越えた存在の監視網からの情報で、それぞれの王宮や城下町には無数の”マリンキファ”が待機している。
それらの情報を元に、二人の精霊王が指揮を取り”配下の者”を使って悪意を持つ存在を消しているのだ。
「「全てはアルジ様の計画が最優先である」」
”配下の者達”は疑う事を知らない。
「お前たちに理解など不要。与えられた指示を完璧にこなす事。それこそがアルジ様に連なる者としての忠誠である」
これが口癖の様に言われてきた事だ。
両国は平穏となった日常の元、代理戦争の闘技大会に国を挙げて準備をしていた。
今回会議室に集まっていたのは十人だ。
帝国側からは帝王とも魔人王と呼ばれておるティマイオス・コクシエラ・バーネッティに、筆頭宮廷魔導士のゾフィ・ロドコッカスとギュスターヴ・バン・クーバー将軍、貴族代表のゼクシス・エルシニア・ペスティス卿だ。
王国側からは聖魔王アスラに聖魔女リオとファニ・メガモナス、カルラ・サテレラ・パルビルブラだ。
両国にはそれぞれ書記を連れ立っている。
クーバー将軍とペスティス卿は当初、対面する上位の魔物に対して警戒をしていたが、挨拶を交わし談笑する中で普通に対話できる相手だと認識したようだ。
もっとも、メガモナスとパルビルブラは事前に”重要機密”を知らされていたので、心に余裕が有ったからだろう。
特にメガモナスは普段下等な種族と蔑んでいるが普通に対応していたのだから。
議題の要点は三つ。
一つは、人族側から魔物の行動制限と規約。
一つは、魔物側から人族の行動制限と規約。
制限は多々有るが、魔物側は種族が多いので種族による”常識”が違い誤解の無くすための規約作りだ。
例えばだが、人族は手を差し出されて握る行為は挨拶や友好の行為と捉えるが、特定の魔物は決闘を受ける行為である。
このように魔物間でも違うし、人族とは全く違う常識を書面にして交付し理解し合うのだ。
もう一つは、ギルドとの盟約を作る事を二国間で合意し、グラディオ国の同意を得て具体的な賭博の準備をする事だ。
この三つの案件は種族間の問題も有り、国家間の金銭問題なので会議の回数を重ねる必要が有ると誰もが認識していた。
今回の会議は魔人王と聖魔王の元、事前に要求項目が書面で書き出されており、各国側が口頭で説明し意味を理解してもらう趣向だ。
要望に対しての返答及び対策は、後日行われる会議で双方が説明し、互いの距離を縮めて行く方法だ。
もっとも、お互いに簡単には終わらないと認識しているので時間をかける必要がある。
その日から連日のように行われる会議だ。
日中の会議に対して、朝まで徹夜するほどの難題も有り、両国の文官達は頭を抱えていたようだ。
特に王国では種族が多いため種族分類から始まり、系統種族ごとの族長が呼び出されて”常識”が見直され、書面に書き出されていった。
元魔王と聖魔王は今回の調査で王国内の半分の魔物の生態が把握できれば良いと思っていた。
実際の所、元魔王も全ての種族の常識など知らないからだ。
それよりも、二国間協定の取り決めを早く作る事で、他国に有無を言わせない事が重要だと認識していたからだ。
ギルドを迎え入れる事で隙が無い体制を作り、仮に他国出身の自治王が決まったとしても、自治国の根底には二国間の思惑で固めたいからだ。
そんな協議を四十日余り繰り返して作成されたマニュアルは、”クルシブルの種典”と呼ばれギルド内で閲覧でき、簡易版を一般に交付される事となる。
人族にとっても魔物にとっても非常に重要な内容が記載されており、一部の者からは反発も有るが不問とした。
「ようやく完成したな」
「結構掛かりましたねぇ」
「こんな分厚いマニュアル読むかなぁ」
「警備兵や闘技場で従事する者達は必読でしょう」
二国間の頂点に立つ四人が監修した物だ。
互いの立場を知り、種族を知って調整されたマニュアルだ。
「最後に、記載されている項目は年に一度見直しを掛けるものとする」
「そうだな。実際に始まってどのような問題が出て来るやも知れんしな」
聖魔王がまだ完成していないと注意喚起して、魔人王が同意した。
「次回は知っての通りグラディオ国の国王がギルドの代表として出席する。既に内容は伝わっていて、事前に参加意思の連絡が有ったのだが会議が長引いたからな。具体的な日取りは保留にして有った訳だ。今回作った”クルシブルの種典”を送り向こうの出方を待とうではないか? 皆もそれで構わんか?」
魔人王の提案に全員が承諾した。
グラディオ国。
この国は冒険者の国と呼ばれている。
ギルマスが国王だが剣闘士の小国家としての顔も持ち、国民は半数以上が冒険者だ。
国を挙げて傭兵業も行っていて、冒険者の半数は剣闘士として登録し、闘技場で剣闘士としての階位の順位を争っている。
傭兵業で高く雇われるには高グラドスのギルドか剣闘士の認識票を持つことになる。
したがってギルドと剣闘士の認識票を二つ持つ者を”ジェミノス”と呼ばれ尊敬の視線を集め、仕事の斡旋も優先されるのだ。
大陸一の闘技場を持ち、エジェスタス王国は大得意先だ。
時は少し遡り、国王の執務室に文官が慌ててやって来た。
国王兼ギルマスであるグラード・ステラジアンは、日々の書類に目を通していたが血相を変えて現れた文官を面倒くさそうに睨んだ。
全身に無数の刀傷が有り、眉間の皺は深く入り顔面も同様で傷が多く笑い顔でも子供は逃げ出すであろう強面の男だ。
身長はゆうに二mを越し長髪は後ろで三つ編みにされて、中に短剣が仕込まれている。
これはこの国特有の作法で、首を狙われても防御する役割を持つ。
とても他国の国王とは似つかない体躯と風貌は冒険者上がり、傭兵上がり、剣闘士上りとも呼ばれ、この国の存在を人に表現した人物である。
「たたた大変です陛下ぁぁ!!」
「うるさいっ! もっと静かに報告できんのか」
「それがっ、フォルティス帝国のギルマスから緊急書簡が届いており、確認すると帝王の書簡を同封するとの事です」
「そうか、見せてみろ」
ステラジアンが書簡を見ようとしたその時。
「陛下ぁぁ!! 一大事ですぅぅ!!」
「ええいっ、うるさいっ! 今度は何だと言うのだ」
「それがっ、ケレプスクルム魔王国のギルマスから緊急書簡が届いており、確認すると魔王の書簡を同封するとの事です」
「なんだとぉ!!、寄越せ」
同じ日の同時刻に二つの超大国の王からギルド経由で送られてきた書簡。
国王兼ギルマスであるグラード・ステラジアンは瞬時に戦慄が走り、嫌な予感しかしなかった。
何故なら帝国が起こした人魔大戦は各国のギルドからグラディオにも情報が入っており、どちらの国王も代替わりして平安の日々を送っていると認識していた矢先に送られてきた書簡だからだ。
とてつもなく嫌な予感がするが、立場上読まない訳にはいかないのだ。
「・・・・!!・・・・馬鹿なっ・・・ふむ・・・なるほど・・・そうきたか。ではこちらの書簡を読むか」
基本的には同じ内容で、両国から送った事が重要だった。
二つの書面を読み、並べて何度も確認したステラジアンだ。
ガタッ!!
椅子から立ち上がり、窓から外の景色を眺めるステラジアン。
「これが時代の流れと言う物か・・・クククッ面白いっ!! やってくれたなぁ国王どもがぁ!!」
国王兼ギルマスのグラード・ステラジアンは即座に参加の意思を表明する書簡を両国に送り、文官達を集めて対策を練る事にした。
角度と立体角




