Alius fabula Pars25 衛星都市アルカ
オットーとミルカを護衛する様に連れ立って歩くシニストラとデクストラだ。
今回の説明をする為に倒したブバルスは”ハコ”の中に収納し持ち帰る事にした。
四人は追いかけられてきた森の中を戻るが、闇雲に走って来たので引率者との合流地点が解らなかったが、何故か”護衛の二人”に案内されて学園の仲間の居る場所までたどり着いた。
オットーとミルカが事情を説明すると、全員から質問攻めにあうシニストラとデクストラだった。
金色の認識票を持つグラドス三十の冒険者よりも、エルフの冒険者に全員の興味が注がれていた。
しかし全ての質問に対してシニストラとデクストラは一言で黙らせた。
「我らは極秘の任務で行動しているので、皆さんの質問には一切答える事が出来ない」
「任務なのでご理解いただきたい」
二人の素性は金色の認識票で信用して理解できる事だからだ。
ギルトに問い合わせればある程度の事は解るとはいえ、グラドス三十は人の身であれば長年の冒険者生活を経て信用と実績が無いと手に入らない代物だ。
そんな認識票を、どう見ても二十代前後にしか見えない美しくも逞しいエルフの二人が首にかけているのだから少年少女の関心をひかない訳が無い。
助けてもらったオットーとミルカは過大表現と多少の作り話で”盛り”ながら自慢げに話していた。
その様な話を聞いて引率者である学園の教員も理解して同行を快く承諾してくれた。
(シニストラよ。本当に良かったのか?)
(アルジ様の念話で、この出会いを利用してモナスカ王国を調べる事を我らの訓練とおっしゃられたわ)
(この国の何を調べろとおっしゃられたのだ?)
(特に明言はされなかったわ)
(つまり王族のコネを使い表面的な事と裏側だな)
(多分そうだと思うわ)
(期限は?)
(何も聞いてないわ)
(ではなるべく早く。もしくは定期的にだな)
(そうね。この国で実績を上げてアルジ様に信頼してもらうわよデクストラッ)
(勿論だ、シニストラ)
今回の課外授業は王都から離れた衛星都市に在る三日月の森で行われていた。
比較的低俗な魔物が多く初心者にも対処できる森として知られているので毎回訪れるが、学園の引率者は今回の不測の事態が起こった事を重くとらえて、課外授業を中止し当事者の四人と共にギルドに報告して王都へ戻る事となった。
一時が万事であり、未遂となったが王族が当事者になったからには報告の義務があるからだ。
引率者の教員ジーメンスと一緒に衛星都市アルカのギルドマスターに会う為にやって来た。
「マスター。ロドトルマ学園のジーメンスさんと言う方が生徒さんと一緒に面談を要望されてますが、どうしましょうか?」
「学園の教員がか? 一体何の用だ?」
「はい、何やら三日月の森で異様な魔物が出たと報告したいそうで・・・」
「・・・」
通常であれば、そのような案件は受付が対処するべき事項だ。
しかし、わざわざ自分に直接説明するとは別の内容が有ると判断したギルマスだ。
「よし、通せ」
執務室に入って来た五人を見て驚いたサンコレイだ。
「アルカのギルドマスター、サンコレイだ。今回は一体どのような件ですかな?」
「突然の訪問にも関わらずお時間を頂いて感謝致します。私はロドトルマ学園で教師をしているジーメンスですが、例年の様に今回も三日月の森で課外授業を行っておりました・・・」
ジーメンスの説明を聞きながらサンコレイの眼光は、二人のエルフを意識していた。
何故ならばサンコレイも初めて目の当たりにするエルフだからだ。
シニストラとデクストラは椅子に腰かける三人の後ろに立っていた。
「・・・そのような訳で、二人の王族の危機を救って頂いた冒険者と共に王都へ戻りますが、周辺の調査を依頼したくお尋ねしました。」
「依頼は承知した。まずはシニストラとデクストラに、この国の者として二人の王族を救って頂いて感謝する。そして二つ質問させてほしい」
ロドトルマ学園の課外授業の件は毎年行われるので周知の事実であり、護衛を伴うような魔物は過去において遭遇した実績は無く、今回の課外授業には王族も含まれている事も知っていたサンコレイだ。
「二人の認識票の確認と、本当にブバルスが出現した証拠を確認したい」
すると二人は首から認識票を取り渡すと、シニストラが立ち上がり入り口付近にブバルスを出した。
「なっ!! 次元収納か!!」
サンコレイが驚くのも無理はない。
スキルとして魔導書には記載されてはいるが、その魔法を扱える者の存在を始めて見たからだ。
(どうやらこの国では次元収納と呼ぶらしいわね)
(ふむ)
「まさか本当にブバルスが出たとは。しかもこの巨体・・・とても一体だけとは考えられん。至急調べるように手配しよう」
死体を見ると首元に焼けた傷を見つけたサンコレイ。
(これが致命傷か・・・このエルフたち相当の腕の様だな)
「確認した。まさかブバルスを一突きで殺すとはな・・・」
見分が終わったので死体をしまうシニストラだ。
「一応魔導具でお二人の認識票を確認させて頂くが問題は無いな?」
「構わないわ」
シニストラが返事をしてデクストラがうなづいた。
サンコレイの机に置かれている古い魔導具に認識票を置いた。
するとシニストラの詳細が浮かび上がった。
(出生はメディテッラネウス・・・初めて聞く街だ・・・やはりエルフか。任務は極秘の護衛・・・この魔導具でも詳細が出ない程の重要な護衛とは・・・もう一人も見てみるか)
二人の違いは名前と性別で内容は同じだったが全て龍国で捏造されたものだ。
認識票にはどちらも三百二歳のエルフと表記されているが、実際は二人とも二歳足らずのホムンクルスだ。
知識や情報、魔法に至るまで全てプリインストールされている調整体である。
認識票を二人に渡して質問するサンコレイだ。
「お二人に確認だが、無理に答える必要は無い」
「何かしら?」
「依頼任務が極秘の護衛とあるが対象者が居ないが大丈夫なのか?」
ニッコリと微笑んでシニストラが答えた。
「勿論大丈夫よ」
「・・・まぁ”俺よりも年上”で強いお二人がそう言うなら大丈夫なのだろうな」
サンコレイの言った”極秘の護衛”に興味を聞かれる学園関係者三人だった。
ギルドへの報告を済ませて王都へ戻る準備をする一行だ。
一行は総勢二十二人で生徒が十八人に教員が二人でシニストラとデクストラだ。
五台の馬車で移動だが、当初は別行動を希望していた部外者二人だったが、オットーとミルカの強い要望により馬車の同席を強要されて現在に至る。
移動には騎乗した冒険者が馬車の前後を護衛している。
「あのぉ、シニストラさんの剣技を是非教えて頂きたいのですが可能でしょうか?」
「私の剣技かぁ・・・不可能では無いが人の身であれば長い研鑽が必要でしょうね」
「デクストラ様のように空を飛ぶ事は私にも出来ますかぁ?」
「魔法を覚える事は難しくは無いが、扱えるかは個人の努力次第だろうな」
「どうか僕の師匠になってください!!」
「どうか私の師匠になってください!!」
「「・・・」」
二人に対して仕事の内容や個人情報に関する事は聞いては駄目だと、ジーメンスから注意されていたので魔法や剣技の質問を繰り返していたオットーとミルカだ。
そしてその強さを目の当たりにした二人の兄妹が冒険者兄妹に師事したのだった。
方や淡い恋心を抱く王族兄妹と、方や早く本来の任務に戻りたい人外の兄妹だ。
「考えておくわ」
「考えておこう」
二人の返答は、否定はしないが肯定もしなかった。
暗に先送りしたのだが、この辺は創造主に似たのであろう。
明確な指示も無く、漠然とした命令に応えるには王族との繋がりが必要と判断し、少年少女の気持ちには答えられないが、肩書の立場で利用するには今のままが一番良いのだった。
そんな一行の学生たちは、シニストラとデクストラと同乗する権利を求めて激しく対立していたが朝、昼、午後の三交代で馬車の席替えを行い、初めて接するエルフたちと親交を持つのだった。
無論教員の二人も例外ではない。
今回の課外授業は過去に無い特筆すべき内容だったと報告するジーメンスだった。
次は登城か。
ハコ=空間収納箱。
空間魔法の一種で空間バック、空間収納、イベントリーなどと様々な呼び方が存在するらしいが時間や温度の停止機能が付与されている保管魔法だ。
ディバルが単に呼び名を簡略化しただけである。




