Alius fabula Pars24 遭遇
ディバルは護衛の眷属二人を連れてモナスカ王国を旅していた。
新たな国の風景を楽しみながら点在する村や町を訪れての旅である。
何も無い草原を進みアクシデントの起きない旅は、寛大な心で全てを受け入れなければ退屈な旅なのだ。
良くある強盗や魔物が襲ってくる事も無く、テクテクと轍の道を歩くだけだった。
地方都市は食べ物も質素で町が変わっても食の変化は見られず、大きな町まで飛んで行く事にしたディバルだった。
ディバルには絶えず複数の魔法が発動している。
シニストラとデクストラも少数ながら発動している。
同じの魔法も発動しているが、機能と精度は別の魔法と言えるほどのものだった。
サクテキ魔法でも効果範囲は比べようが無いほどで、ディバルの意識には多数の情報が流れて来るが、シニストラとデクストラの範囲は驚くほど狭い。
そんな狭い範囲に現れた情報に警戒する二人だ。
ディバルもとっくに気づいているが”護衛の二人”に任せようと思い、道端にあった大きな石の上に寝転んで様子を見る事にした。
(何かなぁ・・・ありがちなパターンだよなぁ・・・何で王族の子供が魔物に追われてんだよ。馬鹿じゃねぇの。護衛はどうしたんだぁ)
ディバルのサクテキは効果範囲に入った者の素性も把握できる優れものだ。
そしてシニストラとデクストラのサクテキにはそこまでの精度は無い。
(このタイミングで俺に接触するなんて誰かの差し金か? いや、考えすぎか・・・)
遠くに見える森から勢いよく飛び出してきた二人の子供たちが見えた。
「シニストラにデクストラよ、あの子供たちを助けよ」
「「畏まりました」」
「俺の所には連れてこなくても良いからお前たちだけで適当に対処してくれ」
「「御意」」
魔王と勇者たちの眷属化も終わり、しばらくは当事者たちを”なすがまま”にさせるつもりで、今は日差しも心地よく澄み切った青空に向かうと、ここが異世界だと忘れるほど良い気分のディバルだった。
「「ハァハァハァハァ」」
「もう直ぐ森の境目だ、がんばれミルカッ!!」
「もうダメェ・・・走れない・・・」
二人は身体強化の魔法を何度も使い魔物に追われながら森の中を走って来たのだ。
オットーに手を引かれ、ようやく森を抜けた二人は止まろうとはせずに走っていた。
子供二人が難なく通れる森の木々も体躯の大きな魔物にとっては容易では無かったらしい。
細い木々をへし折りながら追いかけて来たブバルスも、森を抜けると咆哮を放った。
「ブモォォォォォォォォォッ!!」
本来身を隠しやすい森からは出ない魔物だが、ずっと追いかけて来た標的が邪魔な木々の無い草原を走っているので一気に追いつくと考えたのだろう。
もう突進してくるブバルスを、後ろを振り返りながら確認するオットー。
「なっ、何で森を抜けてまで追いかけて来るんだよアイツ!!」
するとミルカの足が止まった。
「もう駄目、走れないっ」
「クソッ、ここで倒してやる」
「駄目よ、あなたは王子でしょ。どんな事が有っても生きるのよ。ここは私に任せて」
「馬鹿、お前だって王女だろうが、ヘトヘトなくせに。俺が切りつけるから、ありったけの魔力をぶちかましてやれ」
「・・・解ったわ」
「よぉぉし、串刺しにしてやるぞぉぉぉぉ!!」
剣を正面に構えたオットーの後ろで魔法の準備をするミルカ。
迫りくる巨体のブバルスの角が襲い掛かる瞬間だった。
魔法の発動と同時にミルカの声がした。
「逃げてぇオットーォォォッ!!」
ドンッと横に突き飛ばされたオットー。
「ウワァッ」
次の瞬間、ミルカは空高く飛ばされていた。
ミルカの炎の魔法は目くらまし程度にしかならないが、魔物からオットーの意識を消し去る事には成功したようだった。
そんなミルカの気持ちも知らず絶叫するオットー。
「ミルカァァァァァァァァッ!!」
まるで空を飛んでいるような錯覚に陥っていたミルカだ。
ブバルスは頭を低くして角で獲物を飛ばす習性がある。
目を閉じた瞬間、痛みは無いが意識が飛んだ気がしたミルカだ。
そして現在、体感的には地上十メートルは飛ばされているだろう眼を開くと青い空が見えたが、後の事を思うと閉じてしまった。
このまま落下して死ぬのだろうと脳裏を横切った瞬間だった。
ガシッと体を抱きしめられて、やさしい男性の声がした。
「大丈夫か?」
眼を開けると直ぐに理解した。
「ええっ、エルフゥ!」
しかも噂通りの美形である。
そして自分の状態も理解した。
いわゆるお姫様抱っこ状態である。
「怪我は無いか? 念のため回復させておこう」
暖かな光に覆われるミルカ。
「あぁぁ、暖かい・・」
先程までの全力疾走していた肉体疲労や、死に直面していた不安感も癒されていた。
そんなミルカの瞳がデクストラの美しい顔を凝視し瞬時に心を奪われたのだった。
そんな二人がゆっくりと地上に降りていった。
それを見ていた突き飛ばされたオットーは、突進していったブバルスに意識を向けた。
すると振り向いた瞬間、ズゥゥゥンと音を立てて倒れたのだった。
傍らには一人の女性が立っていた。
(あれは・・・エルフなのか?)
この大陸にエルフが生息している事はほとんど知られていない。
しかし物好きな少数のエルフが大陸を渡り吟遊詩人として旅をしているようだ。
そして物の本にはエルフの情報も掲載されており認知はされているようだ。
魔物を倒したであろう女性が近づいてオットーに声を掛けた。
「大丈夫かお前。ケガはないか?」
「助けてくれて、ありがとう。ケガは無いが妹が飛ばされてしまって・・・」
「それならば心配は要らないぞ。我が兄妹が助けたのだからな」
すると抱かれたまま飛ぶように近くに降りて来たミルカとデクストラだ。
「オットー。こちらデクストラ様とおっしゃるの。回復魔法も扱われるのよ」
「妹を助けて頂き感謝致します」
「ふむ、通りがかりに手を貸しただけの事だ」
「あのぉ、こちらの方のお名前を聞いても良いですか?」
「ん? 我が兄妹の名か」
「私の名はシニストラだ」
(シニストラさんかぁ、カッコいいなぁ)
「あのぉ、どうやってブバルスを倒したのですか?」
「簡単な事よ。剣に火の属性を持たせて首の骨を突き切るの。神経や切り口も焼けるから血が出なくて周りも汚れないわ」
(簡単だなんて、そもそも剣に魔法属性持たせること自体初耳だし、首の骨突き切るってどれだけの腕前なんだこの人)
「あのぉ、お二人は冒険者ですか?」
「その通りだ」
「私たちは二人とも同じグラドスよ」
そう言ってシニストラとデクストラが金色の認識表を見せてくれた。
「き、金色の認識票よオットー」
「グラドス三十ぅっ、すっげぇぇ!!」
「あぁ、しかも兄妹だなんて・・・」
二人が羨望の眼差しで見ていた。
「オットー、私たちの事・・・」
うなづいて自己紹介を始めるオットー。
「失礼致しました。今回は突然の事にも関わらず、お二人に助けて頂いた私たちの素性を明かします」
先程までは普通の少年少女だったが、背筋を伸ばし毅然とした態度で話し出した。
「私はこの国、モナスカ王国の第二王子オットー・ラクサ・ナ・モナスカと、こちらは第二王女ミルカ・モリニア・ナ・モナスカと申します。今回、貴殿達の手助けにより大事に至らす感謝致します。この場では口頭の礼ですが、城に同行願えれば改めて礼を尽くしたいと思いますが如何でしょうか?」
「「・・・」」
シニストラとデクストラはお互いの顔を見ているが無言だった。
「あのぉ、都合が悪ければ日を改めてこちらから迎えに伺いますが・・・」
「大丈夫だ」
「一緒に付いて行こう」
「「ありがとうございます」」
その言葉を聞き笑顔になる兄弟だ。
それは少年とは言え王族の一員として立派な受け答えだった。
そんな子らとの巡り合わせも何かの縁だと感じ、シニストラとデクストラの二人だけで対処する様に”許可と言う命令”を下したディバルだった。
二人には一旦テトラに戻る”かもしれない”と適当な事を言ってその場をしのいだ。
(よぉし、これで一人だ・・・あっ、見られてるんだ。忘れてた・・・チッ、アレが見てると言う事はスクリーバかウルサも見てるはずだろうなぁ。どうにかして眩ます方法は無いかなぁ)
アルジの命を受けて同行するシニストラとデクストラ。
グラドス=ランク、レベルと同意。




