第20話 小国家レンティナス
バンピーレの国はレンティナスと言う。
飛龍の生息する連峰を背にする森に住み、山と海に囲まれて外界から隔離された楽園に暮らしている。
バンピーレは千にも満たない数が森に住居を構えて住んでおり、人族は城下町ティグリナスや近隣に五千人も満たない人数が住んでいるが、バンピーレの食糧を提供する数としては十分な人数だ。
バンピーレにも階級が存在し、人族にも特別階級が存在する。
人族の場合は血の提供者である。
若い女性の血を好む上級バンピーレからは、本人と家族に厚い手当が支給されている。
したがって、人族の夫婦はこぞって女児を生む事に精を出している。
その結果、若い男子の比率が少ないためモテモテになる傾向があり、条件を満たした場合に重婚も認められている。
また、たまに出る人族の若者からの陳情にも明確な対応をしているラモーだ。
「僕たちと家畜はラモー様にとって、どう違うのですか」
これは自分たちも家畜と同じでは無いのか? と言う意味である。
「お前たちは家畜の言葉を理解しているのか?」
その場の全員が首を横に振る。
「家畜はお前たちが生きる為に殺して食料にする存在だろう。しかし、我らとお前たちは違う。対話をして”共に生きて行く”事を前提に暮らしている存在である」
「でも食料には変わりないでしょう?」
「だからこそ大切に保護し、お前たちの自由な裁量を許可して”共同統治”しているのだ」
力では敵わない事は理解しているし、有事の際は昼でも全身日除けで対処する姿も目撃されている。
共同統治とは、種族の主権や主張を”強いるもの”ではなく、互いを”理解している事”を意味する物だ。
過去の人族全てが納得して来た言葉だ。
それほど全てのバンピーレが人族の国民を大切にしていると日ごろ接していれば解るからだ。
バンピーレと人族は昼夜逆の生活をしている。
昼はバンピーレの姿も無く普通の街並みに見え、人族の生活は農業漁業畜産などを行い規模は小さいが他国と同様の生活を営んでいる。
夕方からチラホラと姿を見せはじめ、決められたバンピーレ達が血の恵みを受ける。
食料の摂取は七日に一度だが、専用の器具を使って搾取した血を器に移して摂取する。
これは噛みつくと眷属化して二度と血の搾取が出来なくなるからだ。
その為に、血の享受と合同会議は夕暮れから始まる場合が多い。
バンピーレは国内の夜間巡回警備が主な仕事だ。
魔物や不審者に密入国者を見張っている。
国内の人族は全て登録されているので、何かをすれば即座に判明するからだ。
小国とは言え、それなりの広さがあり小さなギルドも存在して人族から国内の依頼も受けている。
城下町では夜半でも開いている店が多く、一部の店は明け方まで営業している。
バンピーレの立ち寄る店は専用の赤い看板が表記されていて、若いバンピーレなどは酒精を出す店に自分の棺桶を持ち込み、家に帰らない者も居るらしい。
その為に棺置き場なる場所もあるらしい。
ラモー・サム・クロストリジウムと、その妻のカレラ・ディタ・クロストリジウムが自国に戻って来たのは、出立してから七日後の事だった。
魔王の住む王城と比べれば、大きな屋敷と言えるレンティナス城だ。
山脈へと繋がる丘の中腹に立つ城からの眺めは、城下町と海原が見えて絶景である。
重臣や要職者のバンピールが集められて、今回の王城での出来事が報告された。
「・・・その結果、我らが王は以前と比べて遥かに・・・いや、至高の力を手に入れられた」
「「「おおおおっ!!」」」
「お力に関しては以前の倍以上であろう」
「「「倍だとぉ・・・」」」
「更に、我らが王は・・・昼に行動可能となられたぁぁ!!」
「「「なっ・・・馬鹿なっ、有り得ん!!」」」
「本当なのか!?」
「ふん、我も最初はドキドキしながら日の光に手を差し出したものよ。なぁカレラ」
「ええ。我ら夫婦はあの日光を克服したのよ」
「「「カレラ様もですかぁぁぁ!!」」」
一堂が全員驚いている。
「その通りだ。我は新しい魔王いや聖魔王様の血を受け、カレラは聖魔王の”伴侶”であろう聖魔女様の血を受けたのだ」
ザワザワザワ
「我が両手を見よ、これこそが真祖の証だ。この手がな、温かいのだ」
ラモーの言葉にカレラも全員に両手を見せて触らせた。
「おおおっ、我らと違って温かいぞ。まるで人族の様だ」
バンピーレは人で言うならば低血圧で青白い肌をしているが、ラモーとカレラの両手は赤みを帯びて温かかった。
「しかも、若返ってないか? お二人とも・・・」
「全くだ。以前と比べると幾分若返ってみえる」
二人はさほど気にしていなかったが気分が良いようだ。
「我が王よ、我らの上位種族ならば早くお子を御作りになった方が宜しいかと存じますが」
「そうなると現在の御子息であるトリコ様はバンピーレのままですが・・・」
ラモーとカレラにはまだ成人していないトリコ・デルマ・クロストリジウムと言う息子が存在する。
「解っておる。トリコもいずれ聖魔王様の力を分けて頂こうと思っておる」
「「「おおおっ」」」
「我らもこの歳で覚醒進化したのだ。アレも一人前になる頃合いを見て進言しようと考えておる。ゆっくりとその機会を待てば良いだけだ」
王家が絶対の力を保有する事に種族の者は賛同する傾向がある。
血族に力の無い者が存在すれば排除される傾向もある。
種族の納得を得て、重要な要件を言い渡すラモーだ。
「今後、我とカレラは交代で魔王城に勤める事となった」
ザワザワ
「皆の言いたい事は理解している。しかしこれは我が王家が覚醒進化した原因が聖魔王と聖魔女にあたり、その血を守る事が我らの安泰を約束するものだからだ」
「我らが王よ。新たにお子を御作りになれば解決する事ではなかろうか?」
「ふむ。その子が今の我らと同じ種族で生まれるかはまだ解らんからな。もしかすると普通の同族かもしれん」
「なるほど、その時の為の保証ですな」
「その通りだ。誰も反対する者は居ないだろうな?」
全員がラモーの顔を見て同意した様だった。
「では、向こうで生活するための用意をするので・・・」
「お待ちください」
ラモーの段取りを遮ったのは重臣の男だった。
「全て理解致しましたので、王城での準備や後の事は全て我らにお任せください」
「ふむ」
「お二方は、寝所にて王家の義務を行ってくだされ」
「なっ!!」
「おおっ、そうだそうだ」
家臣に子作りしてこいと追い立てられて移動するラモーとカレラだった。
ラモーとカレラは真祖としての種族になった。
バンピーレの特殊能力として自らの血を与える事で眷属を増やす事が出来る。
しかし、バンピーレの眷属はバンピーレでは無く、格下の眷属として連なる事となる。
したがってラモーとカレラも自らの血を自分たちの子供に与える気は無い。
子供が聖魔王の血で覚醒する機会を待てば良いだけなのだ。
通常のバンピーレが人族を眷属にした場合、バンピーレにはならない。
血の力に負けて干からびるか、良くてグールに落ちてしまう。
では真祖となった現在ではどうだろうか?
試したい気はするが、”国民”で試すわけにもいかないのだ。
大切な国民を減らす事はせずに、国外で試すか国外の人族を連れて来るかだ。
いずれ実験しなければならないが、今は”自主製作”に取り掛かる二人だった。
子孫繁栄ですな。




