第18話 貴族とギルド
帝国には貴族が存在する。
本来は帝王の血筋や王家の家系が大公、公爵、侯爵に叙され、辺境伯、伯爵、子爵、男爵は縁戚や功労者が多く、准男爵、勲功伯騎士は世襲権を持たない準貴族である。
勲功伯騎士は騎士階級に由来した名誉称号と言えるだろう。
現在の帝国は、先帝の親族が全て皇族を取り消しとなり廃嫡されて、三代前まで遡った皇族の子孫や枢機卿団が伯爵や辺境伯に抜擢され、人魔戦争の功労者が男爵に叙された者が多い。
そして王国にも貴族が存在する。
全て長命種の種族が叙されており龍族はパルビルブラでクエルノ族は族長が担当し、ドワーフ族は元々王が存在するので兼任し、吸血族は吸血王が兼任し、この四人が王国内での公爵の権限を持っている。
ドワーフの国は、当時の魔王がドワーフの武器を欲しがり、支配しようとしたのだがパルビルブラの助言で同盟に変わった経緯がある。
「支配されたドワーフから今以上の優れた武器は生まれますまい」
知性あるドワーフが恨みも持たず従う訳もなく、要望以上の武器や防具は作らないと予測したのだ。
逆に庇護する事で外敵から守り、鍛冶に専念できれば今以上の武具が生まれる可能性が高いと説いたのだ。
パルビルブラの仲介の元、現在まで続く取引同盟が続いている。
バンピーレ族は魔王と不可侵の盟約結んでいる為、基本的に王国にも戦さにも一切関与していない。
パルビルブラの管轄である飛龍が生息する連峰を越えた先の森に住み、山と海に囲まれて外界から隔離された楽園に暮らしている。
主な食料は血液だが、領内に人族が暮らしており定期的に血液を採取される代わりに、暮らしと生命の安全を保障されている。
王国との主な連絡手段はパルビルブラと一部の飛龍だ。
「魔王はまだ来ぬか」
「はい、今だに国内の整備に時間を要しているとのパルビルブラ様から連絡がございました」
「ふむ・・・パルビルブラの報告を聞けば魔物に扱えない聖魔法を使うと言う魔王だ。我らにとって聖魔法は死活問題だな」
「は、おっしゃる通りでございます」
「早く来ないものかのぉ・・・いっその事、飛龍に乗って出向いてみるか」
本来であれば、魔王の交代が有った場合、吸血族に対して魔王が表敬訪問する事が習わしなのだ。
「いけません、我らが王よ。向こうから来る仕来りなれば待てばよいのです」
「それにしても遅いでわないか」
「王国も大変なのでしょう。報告を聞く限りでは先王とはやり方が全く違うそうで・・・」
「それで国が良くなればな」
「はい、以前の様な食料不足は改善されているようです」
「それだけでも、たいしたものよ」
「また報告では新たに闘技大会が開かれるそうでして、魔物達も活気づいているようですな」
「なるほど・・・ただの魔物では無いか・・・ますます会ってみたくなったわ」
「貴方がそこまで関心を示すなんて珍しいわね」
軍服を愛用し、赤い瞳を持ち長い銀髪を揺らし実年齢とは似つかない容姿を持つ吸血族の吸血王、ラモー・サム・クロストリジウムが配下の者と話していると、一人の女性が話しかけて来た。
妻のカレラ・ディタ・クロストリジウムだ。
バンピーレの配下は全員が軍服だが女性は普通の服だ。
ドレスではなくワンピースである。
比較的質素な生活を好む傾向だ。
最も重要な事は人族の保管であり、”その事に対して”財を使うのだ。
「久しぶりに王都にも行ってみたいわねぇ、色々と新しくなっているそうよ」
「ふむ、我もそう思うが、どうだ?」
側近の吸血鬼の一人が答えた。
「どうだと、おっしゃいましても・・・ではパルビルブラ様に連絡してお尋ねされたらどうでしょうか?」
「ふむ、大至急手配せよ」
「は、直ちに」
パルビルブラの報告を聞き、人魔大戦や魔王の交代など、知らなかったとはいえ一応王国の一員であるクロストリジウムも、事前に知っていればと愚痴をこぼしていた。
そんな吸血王は、新たな魔王の説明と王国の改革を知り、本人と会って力量を推し量ろうとしていた。
本来魔物が扱えない魔法はバンピーレ族にとっては消滅と同じ効力を持つが、所詮は魔物が使う魔法であれば高が知れていると思い込んでいるものの、最悪の可能性も示唆していた。
(今までの魔王達は同等の力だったが、新たな魔王はどの程度か見ものだのぉ・・・)
バンピーレ側の山にも飛龍が生息し、特定の個体がパルビルブラとの連絡係になっている。
報酬の餌をやり、首に巻いたベルトのポケットに手紙を入れてやると勢いよく飛翔する飛龍だ。
反対にパルビルブラからの返事は城の広場に来るよう飛龍を躾てあるので待つだけなのだ。
「魔王様、バンピーレ王から連絡がございました」
「バンピーレ王?」
魔王となって日の浅いうちに、王国内の種族を一通り聞いてはいたが、全てを覚えていなかった聖魔王だ。
「パルビルブラから聞いてたでしょう? 忘れたの? 吸血鬼の一族よ」
解りやすく教えてくれたのは聖魔女であり補佐として侍るリオだった。
「そのバンピーレがどうしたんだ?」
「はい、新たな魔王様に会いたいらしく、こちらへ来たいと申しておりますが、如何なさいましょうか?」
「ちょっと待って、たしか歴代の魔王はバンピーレの王に会いに行ってたと聞いたけど」
「確かにそうですが、国内の改革で時間が取れず訪問する機会を逸しておりました」
「そう言えば、バンピーレ族とは不可侵なんだろ? 昔何か有ったのか?」
帝国にも吸血鬼の話や資料など無かったので率直に聞いてみた。
「もう何百年も前ですが、一部の魔物と小競り合いとなり戦争が起こったのです。その際に我を忘れたバンピーレの王が暴走し王都に来たらしいのです。当時の魔王とは友好的だったので事なきを得たのですが、自らの行動を恥じたバンピーレの王は外界を拒絶して他族と交流を断ったのです。その気持ちに応えるべく魔王様が現地に訪問されてからの仕来りでございます」
「なるほど、切掛けはどうあれ誇りある王の行動では無かったと言う訳だ」
「は、バンピーレ族は自尊心が特に強い魔物で血族主義と申しますか、他種族とは一線を引いておりました」
「ふぅぅん、魔物にもそんなのが居るのねぇ」
「そのバンピーレの王がどうして来るんだ? こっちから行くんだろ?」
「はい、国内の情勢ではあと半年ほど後になると思われます」
「そんなにかかるかぁ?」
「一つ一つは問題ありませんが、かの国は我が管理する山脈の領土を越えた所に在るので、交通手段と移動に時間が掛かってしまうのです」
「片道どのくらいかかるんだ?」
「馬車で50日程かと」
「うわっ、往復で100日か、そりゃ駄目だ。内政がやっと稼働してきたところだし、もう少し様子を見てたいよなぁ」
「じゃ飛龍に乗っていくのはどうかしら?」
「何人で行くんだ? 手土産も無しじゃ良くないと思うけどなぁ」
「じゃどうする訳ぇ!!」
ちょっとキレ気味の聖魔女様だ。
「じゃこんなのはどうだ。連絡を受けてたが、来てくれるなら歓迎するが気づかいは無用でお願いする。そして内政のめどが立てば、正式に訪問する事を約束しようってね。どうだパルビルブラ」
「大丈夫かと思われます」
「じゃ連絡してくれ。あ、準備や手配も有るから訪問予定日と人数も教えて欲しいと連絡してくれ」
「畏まりました」
後日連絡が有り、バンピーレ王の一行は十騎の飛龍で来るらしく五日後の予定だ。
当たり前だが、帝国にはギルドが有る。
点在箇所も多い。
そして王国にもギルドは存在する。
長命種の魔物は旅もすれば、下等な魔物達の駆除も行うのだ。
珍しい依頼内容では、建築や調理などの生活感たっぷりの依頼もある。
そして、種族を問わず討伐依頼も存在するが、”種族を問わず”とは人族も含まれている。
たまに出される依頼は、畜産している食用魔物や動物を勝手に殺傷し奪う行為をするからである。
現状は帝国との交流は無くギルド間でも注意喚起しているが効果は無く、発覚した場合には死闘を繰り広げているそうだ。
しかし、一部の人族は魔王国との取引を行っている者も少数存在する。
フォルティス帝国ではなく、商業と交易の盛んな国でエジェスタス王国の行商人たちだ。
そんな行商人たちは、行と帰りで護衛の種族が違う場合がある。
往復とも人族の冒険者を雇う行商人がほとんどだが、理由が有って帰りは獣人族の護衛を頼むのだ。
二国間の者であればエジェスタス王国の商業ギルドの旗を靡かせた荷馬車は認知度が有る。
したがって、稀に肩に商業ギルドの印を付けて武装した魔物の集団を見かける事がある。
これは商人に雇われている事を示す物だ。
勿論雇われた人族の冒険者も護衛として商業ギルドの印を腕に付ける事が義務になっている。
ギルドの認識票を入手する魔物は、ほとんどが長命種でドワーフなどは武器を売りに人族の街に定期的に行商に出かける為だ。
エジェスタス王国では何故かドワーフは魔物としての認識が無いようだ。
確かに、見た目はゴツイ人だから。
他の魔物はケレプスクルム魔王国内で強さの証として社会的地位をギルドによって証明されるので入手する者が多いと聞く。
吸血鬼が来るぅぅぅぅっ。




