第16話 聖魔王
”あれは本当に魔物なのか?”
魔物なのに何故か使える聖なる癒しの力。
疑念はあるが弱者の目線で内政を行い、妥協案を示して和を持って異種族の魔物達に団結力を築き、組織へと変貌させた聖魔王だ。
これは魔物達が住む魔王国で真実を隠して支配する者達の事だ。
大戦後の魔王国は激動の一年だった。
元々王国には城下町や種族の勢力圏が大まかに存在し、旧態依然の生活だったが新たな魔王となった聖魔王の指示の元、魔物たちの暮らしは飛躍的に生活基準が上がったのだが、不満を持つ魔物も少なからず存在した。
本来は弱肉強食が魔物たちの世界だ。
奪い、奪われることが当たり前の世界に種族の法と活動範囲を明確に取り決めて、それぞれの自治区を定めるようになったのだ。
一部の強者は不満を露わにし、弱者は歓迎した。
強者と見なされる種族ほど活動範囲は広く、管轄を決めた地域の中に幾つかの弱小種族の管轄を定める。
その中に更なる弱小種族の生息地を取り決めているが、王国共通言語を話させない種族は一般魔物と同様の扱いをされていた。
また弱小種族の法を強者が侵してはならない事となっている。
発覚した場合は死罪と決められていた。
王国では新たに多品種の食用畜産や、食に関する生産を弱小種族が管理する事にし、強い種族ほど戦闘に特化して王城勤めや巡回警備が多い傾向だ。
他種族が存在する為、商業の好きな種族に工作や調理の得意な種族に、体力自慢や魔法の得意な種族も存在するが、現在は個体差の希望を加味して好きな仕事を体験出来る仕組みも作っていた。
王国は海洋に面している為、海の魔物達と同盟を結び取引も盛んである。
食料確保以外に武器の取引も有り、人族の情報や物資の交換に他種族の情報共有で問題解決を行なっていた。
どちらの種族も、丘には上がれず水中では行動できないからだ。
だからこそ、ココディリロ族の代表が魚人族の代表として元老院の一角に席を置いている。
元老院からはそれぞれの種族の中で燻っている不満を議題に挙げていた。
「我が種族たちも食料が供給されている現状には満足しているし、この先も安定供給されると言う魔王様のお考えに敬服しているのが事実です。しかし・・・以前の狩りを懐かしむ者達の声も少なからずございます」
「そうか、獣人達は狩りをしたいのかぁ・・・」
「いえ、魔王様。奴らは単に暴れたいだけですよ」
「そんな事は無い!!・・・まぁ全くないとは言い切れないが・・・」
(自然公園みたいのを作って狩り専用にすれば良いのかなぁ。獲物は飼育したモノを放して、種族別に狩り日を決めれば何とかなるか・・・)
獣人族代表である人狼族代表のノーザが種族の多い獣人の少数意見を”柔らかく”説明するが、クエルノ族の代表メガモナスが真意を言い放ち、聖魔王アスラは元老院の意見に耳を向け、具体的解決案を模索していた。
「どだい獣人族の種族は多すぎるのだ」
「その種族が食肉の管理をしているからこそ、以前の様な飢えが無くなっているのではないか? お前たちこそ穴倉にばかり居ないで手伝ったらどうだ」
「だぁれが肉の管理などするものか、酒の管理ならば喜んでするがのぉ」
今度はノーザとドワーフ族代表のシュードだ。
「今は思案中だが、果物や芋からも強い酒が造れるはずだからその時はシュードも協力してくれ」
「なっ、何んと申されたか魔王様!! い、今すぐその強い酒の生産に参りましょう!!」
「まぁ、素材や道具に蒸留設備も必要だから今度ゆっくりとな」
「しかし魔王様、強い酒は我らドワーフにとって一番大事な案件であれば、何よりも最重要、最速でお願いします」
「シュード、それぐらいにしておけ」
強い酒と聞いて熱くなったシュードを諫めたのは龍族代表のパルビルブラだ。
「魔王様、力を持つ魔物程、自己顕意欲が強いものでございます。どこかで活躍できる機会が有れば良いのですが・・・」
パルビルブラから問題定義をもらい思考する聖魔王アスラに、同席していた聖魔女リオから提案があった。
「そんなの簡単な事よ。闘技大会を開けば良いじゃない」
「「「おおおっ!!」」」
「流石は聖魔女リオ様、是非開催をお願いします」
「待ってくれ」
闘技大会の流れを止めたのは、聖魔王アスラだった。
「幾つか聞きたいが、闘技大会とは人族もやっている剣闘士が殺し合うやつか?」
「我ら魔物は人族とは異なります」
魔物達の闘技大会は、種族別闘技会、魔法禁止闘技会、無制限闘技会の三つが有る。
実は無制限闘技会こそが魔王選抜戦だったのだ。
「へぇ、考えてあるなぁ。死亡率はどうなんだ?」
「勝敗は、敗者が負けを認めた場合や死亡した場合ですが、近年の死亡は少ないですな」
「”俺”としては国内の戦力は減らしたくないから、殺すほどの攻撃は禁止する条件で構わないなら良いぞ」
「「「おおおっ」」」
「有りがたき申し出に感謝致します」
聖魔王アスラの魔物を思いやる言葉に全員が驚き、代表してパルビルブラが頭を垂れた。
「魔王様、各種族の持つ殺傷力の強い魔法や技能は使用禁止になっております」
「なるほど、国にとって重要な役目を持つ者達の参加も禁止だ。ここに居る五人も参加は駄目だ」
「はっ、新たな取り決めとして配布致します」
「その三つの大会は、どのくらいの頻度で開催してたんだ?」
「以前は魔王様の采配と、種族間で決めておりました」
「ふぅむ。大会を開く種族は幾つある?」
「細かく言えば幾つあるか分かりませんが、おおよそ100種ほどかと」
「そんなにぃ!?」
「はい。種族は違えども他族からみると似たような種族も多数存在しますので」
「そうか。まずは選定が必要だな。派生した種族は元となる種族に合流する事で種族連合として開催すれば良いだろう」
「まさしく、おっしゃる通りです」
「まずは元老院が全ての種族を調べて把握し、大会統合出来る種族を選定して欲しい。そして大会だが・・・」
無制限闘技会は、王国闘技大会として年に一度の開催とする。
魔法禁止闘技会は、技能闘技大会として種族の固有能力を許可し、王国闘技大会の半年後の開催とする。
種族別闘技会は認定された十二の種族に分けられて、毎月一種族ごと行われる事となった。
獣人族は最大派閥である犬族と猫族を筆頭に小規模の種族が大別して組み分けられた。
厳密には足の爪で種族が分れているのだが、見た目に体毛系と外皮鎧系や有角系に区別しやすく、どの系統も小型から大型まで幅広い。
1、大型獣人犬族大会
2、大型獣人猫族大会
3、大型獣人族合同大会
4、大型外皮鎧系有蹄族大会
5、大型有角系奇蹄族大会
6、有鱗系半身蛇族大会
猿人系は人族の様な知識を持つが自然のままに生活する種族で大型から小型まで存在する。
7、大型猿人族大会
翼人系は空から様々な魔法を使って攻撃する事が出来る。
8、翼人族大会
9、クエルノ族大会
10、ドワーフ族大会
最後に魔法だけを競う大会と、小型の魔物達の大会も設定した。
11、戦術魔法大会は対戦式ではなく、審査員による評価方式にした。
12、小型種族大会は全種族の小型種が対象で、魔法以外の特殊能力は使用可能である。
龍族は不参加とし、全ての審査員と治療班して参加する。
魚人族は不参加だ。
水場が有ってのココディリロ族も地の利が悪いので参加しない。
また、この大陸の僻地の森にエルフも存在するが外界との交流を断っていて、ほとんどの魔物はその存在も知らない。
優勝者には第〇回〇〇闘技大会の覇者、次席、三席と名誉と褒美が渡される。
こうして魔王国では内需拡大と覇を競う大会が中心となって行った。
そんなある日の事だ。
「なぁリオ。今回の内政でそれなりの成果が出ると思うけど、アルジ様の褒美は何にするか決めたのかい?」
「私は聖弓の弓束一択よ」
「へぇ、そうなんだ。てっきり暗黒魔闘鎧か神聖魔闘鎧だと思ってたよ」
「どうしてよぉ!!」
「今までいつも言ってたろ、私だったらどうのこうのって」
「だって腕力ないし、剣術だってやった事ないもの」
恥じらいながら否定するリオ。
(よく言うよ・・・重い武器を振り回してくせに・・・)
「まぁ剣技はねぇ。でも魔闘鎧は防御力が高そうだし、アルジ様が見せてくれた軽装備だったらリオも危険な目に遭わなくて良いかなって思ってたけどさ」
(確かに一理有るわねぇ・・・私はいつも勇者と同行してたから回復役は狙われやすいし、魔闘鎧は魔法剣に盾も出せるのよねぇ・・・どうしよう・・・迷っちゃうなぁ)
「ま、魔王様はどれにするか決めたの?」
「僕はいや、俺は未だに迷ってるよ」
魔王が僕では示しが付かないとウルサに注意され意識的に”俺”を名乗るようにしているが、無意識に僕と言ってしまう聖魔王だ。
「どれなの?」
「暗黒魔闘鎧か双剣の柄かなぁ」
「えぇぇ、暗黒魔闘鎧は私に勧めたじゃない」
「ははは、そうだねぇ。神聖魔闘鎧は駄目?」
「嫌よ、あんなキラキラした鎧なんて悪目立ちするじゃない」
「そうかぁ・・・どうしようかなぁ・・・」
「ホント、”どっちに”しようかしら・・・」
闘技大会かぁ、主役級に出番は無いな。
この大陸ではカニス族、ファリス族と言う。




