第15話 魔人王
新たに即位した帝王は陰で兵士たちから魔人王と呼ばれていた。
これは戴冠して暫くしたあとに起こった反乱を治める為に、軍を動かし指揮を執った時の逸話だ。
実際は敗戦の責任を取らされて幽閉された前帝王であるディアリスター・サクシナティ・フィラス・フォルティスと配下の元貴族たちが納得できずに反旗をひるがえしたのだ。
しかし、帝位奪還の戦争の準備を進めるが帝都の密偵に知られてしまい、帝国正規軍が鎮圧の為に出向く事となった。
反乱軍一千七百が戦場に選んだ平原では、帝国軍三千を前にして玉砕覚悟で対峙していた。
双方ともに本来は五倍ほどの兵力を所有していたのだが、先の人魔大戦で戦死や負傷で防衛兵を除けば軍隊とは名ばかりの少数だった。
反乱軍と正規軍のにらみ合いが続く中、正規軍中央から五体の騎龍が平原の中央に向かった。
「我こそはフォルティス帝国の帝王バーネッティである!! 謀反を起こした者どもよ、我が怒りの制裁を受けるが良い!!」
野太い大声が辺りに響き、二人が騎龍から降り立ち反乱軍へと向かって行った。
帝王バーネッティとロドコッカス宮廷魔法大臣だ。
決戦前夜、枢密院を基本とした参謀会議では当然の様に反対意見が出ていた。
帝王と宮廷魔法大臣のたった二人で敵を撃退すると言い出したのだから。
「今回の件は手出し無用だ。我らの力を見てもらう為の戦だと思ってくれ」
「しかし陛下、お二人だけとはあまりにも無謀すぎますぞ!!」
「いかにも。数もこちらが上ならば、やはり全軍率いての決戦が妥当かと思われます」
「クーバー将軍にペスティス卿の言いたい事は理解している」
「ならば・・・」
「しかし、ワシとロドコッカスは帝国の為にも力を示さなければならんのだ」
宮廷や兵士に街の中からも新しい皇帝に対しての疑問や疑念の声が少なからず存在する。
些細な事だが、枢密院や枢機卿団からの情報は有効に利用したいバーネッティなのだ。
新たな帝王に対する疑念を晴らす事と、ディバルの眷属として即効性の手柄を立てるには二人で戦に勝つ事が最も効果が有ると考えていた。
周りに対する建前もあるが、先の戦争で先に仕掛けて来た前皇帝を自分の手で葬りたいと内心では思っていたバーネッティだ。
「そこまでおっしゃられるのであれば、わたしは陛下の御力を拝見させていただきましょう」
「レオニダス猊下!!」
最後は教皇の後押しもあり、一千七百対二の戦争が始まるのだった。
今回の戦ではスクリーバは参戦しない。
「人が二千程度の敵など無力に等しいのではないか? 必要で有れば強化魔法をかけてやるぞ」
そこまでスクリーバに言われると元魔王としては意地でも殲滅する気になったのだ。
当初は単騎で滅ぼしてくると豪語していたが、流石にゾフィが強引に参戦する事となったのだ。
「一応念のために二人にはこれを渡しておこう」
スクリーバから手渡されたのは首飾りだった。
「その首飾りは戦闘中に魔素を送ると飛来する飛び道具や魔法を跳ね返す魔法が付与されている」
「凄いっ、そんな魔法が有ったなんて・・・」
ゾフィは驚いた様子だ。
「全て我らがアルジ様の采配であるからして感謝する様に」
「はっ、有難く使わせて頂きます」
大陸の飛び道具は弓矢が主流で投擲も盛んだが、それらを跳ね返す魔法が有れば元魔王に怖い者は無かった。
戦場で一番の脅威は死角から矢を放たれる事だからだ。
「これで我ら勝ちは決まったなゾフィ」
「はい、陛下」
中央で残された騎龍にはクーバー将軍と教皇レオニダスに護衛としてギルマスのヴォルフガングが望遠鏡を使い一部始終を見ていた。
無論、もしもの場合は即座に援軍を呼び寄せて帝王たちを助ける為だ。
しかし、枢密院の心配は杞憂に終わる事となる。
ゆっくりと歩きながら魔力を練る帝王と、自らの最大攻撃力を持つ魔法の準備をするゾフィだ。
「矢を放てぇぇぇぇぇ!!」
反乱軍の後方から一斉に矢が飛んできた。
「ゾフィ!」
「はい」
二人はスクリーバからもらった首飾りを握りしめて魔素を送った。
首輪の効果を知っていても、降り注ぐ矢の数に恐怖して目を閉じてしまう二人だ。
沢山の矢が近づいてくると一斉に方向転換し、敵兵の方に勢いよく飛んで行ったのだ。
恐る恐る目を開ける二人が目撃したのは、敵兵に降り注ぐ大量の矢だった。
二人は一時でもディバルの首輪を疑った事を恥じて全て受け入れる事を心に誓った。
決心した帝王は向かって右側を攻撃する予定でゾフィは左側だ。
「行くぞ、ゾフィィィ!!」
「はい陛下!!」
「真・極破斬!!」
「轟炎火龍乱舞!!」
勇者との決戦において魔王必殺の極破斬だったが、種族が変わったために基礎能力値が向上し、以前の三倍の威力となった真・極破斬を居合の様に横に薙ぎ払った。
敵兵たちにとっては一瞬の出来事だった。
その極大の衝撃波は敵兵の大半を断ち切ったのだ。
強烈な衝撃波の勢いで兵士たちは吹き飛ばされるが胴が絶ち切られた事に気づくと、絶叫し吹き飛ばされていった。
ゾフィも同様に基礎能力値が向上し轟炎弾を数発が奥の手だったが、轟炎弾が着弾後爆発せずに龍の如く長い尾を引いて暴れまわる様を乱舞と呼んだのだ。
実際は巨大な火球が棒状に尾を引いて、着弾しても爆烈せずに不規則にうねっているだけなのだが襲われている傍観者達にとってはとぐろを巻く龍のように見えるだろう。
いや、巨大な火炎ワームの方がしっくりくるがゾフィは龍で押し通したようだ。
三つの、”のたうち回る”轟炎が暴れまわり最後には爆裂するのだが、敵兵たちは苦悶の表情で焼け死んで逝く。
二人の攻撃は敵兵の八割以上を即死させ、残りは戦意喪失で逃げ出していた。
「こ、これほどとは・・・」
「凄い、凄すぎる」
「とても人の成せる力では無いぞ」
「だからこそ神に選ばれし者なのだよ、二人とも」
クーバー、レオニダス、ヴォルフガングの三人が望遠鏡で見たままを口に出していた。
勿論後方で待機している正規軍の将軍たちも同様の想いだった。
すると誰かが勝ち名乗りを上げたのだろう、後方から歓喜の雄叫びが聞こえて、数人の騎龍が将軍の元に駆け付けた。
「クーバー将軍!! 我らの勝利で間違い御座いませんな」
「ふむ。千の兵で残敵掃討せよ」
「はっ」
「我らは陛下の元へ参りますか」
戦場では帝王から厳しい命令が下された。
「敵軍の指令官や元貴族らの一族郎党は見せしめのために全員処刑せよ」
「はっ直ちに」
元帝王や王族に元貴族の生き残りは全員が集められて、即座に処刑された。
財産は全て没収されて戦没者の所有していた武器に鎧や金品は全て集められて再利用される。
あれは本当に人間なのか?
人間なのに脅威の身体能力と魔法力を有し、疑念はあるが知識と指導力で内政を取り仕切り圧倒的な武力を誇るが威勢を張らず親しみやすい帝王だ。
後方で待機して見ていた正規軍からは、様々な憶測と固有名称が流れ出していた。
人の域を逸脱した剣技で、千人を一振りで滅殺する技量を持つ者。
魔物以上の強さを持つ・・・魔を断つ人の王、魔人王と。
ロドコッカス宮廷魔法大臣も同様なのだが、流石に殲滅魔女や大魔法使いなど凡庸で本人も否定したので、あえて帝王から枢密院に魔天女と提案したところ、あっさりと認められたのだった。
「天界から遣わされた魔法を極めし乙女。略して魔天女である」
由来は教皇レオニダスが”こじつけ”で考案したのだった。
その日の戦勝祝賀会の後、二人はすっかりディバルから褒美を貰えるものだと思い込んでいた。
「ところでゾフィはどの褒美にするか決めたのか?」
「はい悩みましたけど、氷炎魔法双剣の柄を要望します」
「ほぉ、てっきり聖弓の弓束を選ぶと思っていたのだがな」
「私が迷ったのは双剣の柄と暗黒魔闘鎧です」
「おぉ魔闘鎧か。しかしゾフィは魔法師だろぉ、何故接近戦の武器を選ぶのだ?」
「確かに後方からの魔法攻撃の方が安全ですが、集団戦では絶えず魔法使いを狙ってきますし、接近戦用の武具も以前から欲しいと思っていました」
「そうか・・・」
「魔闘鎧は攻防一体で凄く魅力的だったのですが、魔法双剣の方が”映える”と思って決めました」
「映える?」
「あっ、見た目がカッコ良くて目立つじゃないですか」
「だったら神聖魔闘鎧でも良いのではないか?」
「あれはキラキラ過ぎですよ」
「アルジ様が示したように軽装備に小型の盾と剣だとゾフィに似合うと思うけどなぁ」
「そ、そうですかぁ・・・どうしようかなぁ。わ、私の事よりも陛下はどれにされるのですか?」
「ワシも迷ったが暗黒魔闘鎧にしようと考えておる」
「ああ、あっばり・・・」
「ワシの考えは安易だったかのぉ」
「いえ、そんな事は無いけど、”以前”とは違いますので今後は後方からの参戦で宜しいのではないですか?」
「まぁな。今回の戦でワシの攻撃力も大分強化された事が解ったからな」
「そうですよ。もっと人間を使わないと奴らも成長しませんよ」
「確かに一理あるのぉ・・・となると・・・」
(弓束かぁ、ほとんど経験は無いし、剣一筋だったからのぉ。明日から稽古してみるか・・・)
二人は思考していた。
(神聖魔闘鎧、黄金の鎧かぁ・・・ビキニアーマーとかも出来るのかなぁ。ダメダメやんないよ、恥ずかしい。軽装備と重装備の二種類を覚える必要が有るわねぇ。剣の練習もしなきゃ)
騎龍とは背に乗って走る戦闘移動用の小型龍である。
二足歩行型は単騎用で、四足歩行型は複数騎乗が可能で荷車を引く事も可能。




