Alius fabula Pars15 エジェスタス王国の散歩
下界の散歩の前に身体能力の確認を行ったのだが知らないうちに魔法を付与されていて驚くディバルだった。
しかし、その程度の事で待ちに待った散策を中断したりはしない。
深呼吸をして新鮮な空気に含まれる自然の魔素を吸い込むと、全身に力が漲る感覚が解った。
現在、ディバルの住処を持っているテトラグラマトンと名付けた巨大なゴーレムは海沿いの崖に面した場所に配置してある。
“テトラ”には魔法が付与されていて、重力制御魔法と表面にはツルツル魔法だ。
したがって凹凸に手を掛ける事も出来ず、鳥すらも止まることも不可能だ。
更に雨に露さえも留まる事を許さないのだ。
テトラに一番近い町は”歩いて”五日の場所にある港町だ。
歩くと言ってもディバルを基準とするもので、人族であれば二十日は必要であろう辺鄙な場所に待機させている。
逸る気持ちを抑えきれず飛んで森と草原を越えると人の通り道を発見した。
「おっ、轍発見。こっちが港町かぁ。あっちは何か有るかなぁ?」
ディバルの意識に反応して検索魔法が発動し、自動的に周辺の地図や生命反応が空中に表示された。
「なるほど・・・小さな村か。良し、街に行くぞ」
そこからは駆け足だった。
本来は散策を満喫する予定だったのだが、目の前の港町に好奇心が気持ちを抑えきれなかったのだ。
港町が目視できる場所に辿り着くと、ゆっくりと歩きだした。
一行は事前に決めていた隊列で進んでゆく。
先頭はスクリーバで、次にディバルで、後方にウルサだ。
これは単に容姿で決めたのだ。
身分を証明するとは言え、最新の旅人認識票だ。
ウルサは獣人で、ディバルは目隠ししているのだから、怪しまれない方が可笑しいと判断してエルフに見えるスクリーバが対人折衝する事となったのだ。
「良し、次」
「我らは三人で旅をしている」
スクリーバが説明して三人とも認識票を出した。
「ほぉ、これが旅人の認識票か。初めて見たぜ」
ディバルは全員の認識票を作り直させていた。
一般的で普通の白い認識票で、余計な効果は無いものだ。
ディバルの名はアルジと偽造してある。
主人の呼び方は種族や国によっても様々なので、龍国での呼び方をそのまま名前としたのだ。
したがって、”誰からも”主人と呼ばれる事で満足するスプレムスとスクリーバにウルサだった。
「我らはフォルティス帝国からエジェスタス王国の首都に向かっているのだが港町ポリプスの飯がうまいと聞いてやってきたのだ」
「おおっ、そうか。この街の海鮮は旨いぞ。何もないが飯だけは自慢の街だ。楽しんでくれ」
衛兵が日付と名前と身分(旅人)と目的地などを記入し通行料を払って街に入った。
門をくぐると街の喧騒に包まれた。
「これがリアルかぁ・・・」
ディバルの予備知識は前世のアニメや小説によるものだが、街の現実は多少違っていた。
街の住人の大半が人族で獣人もチラホラ目に入ったが思ったより少なかった。
建物はほとんどが石作りだ。
屋台の様な店は木造で、中心地から離れるとレンガや木造の家が多くなる。
硝子窓は無かった。
エジェスタス王国は商業の盛んな国で、他国には極秘に魔王国とも商業取引がある。
港町ポリプスは首都からは遠いが港町としては大きな規模だ。
そんな事よりもまずは食べ物で、高性能の体は匂いも敏感だ。
目に付く屋台の料理を頬張って言った。
「旨い! どれも旨いぞ」
海鮮が中心だが肉料理も沢山あった。
ほとんどが干物を焼くか鮮魚を焼いた物で、味付けは塩が主体だが香辛料の種類が多く、期待以上の屋台料理で満足そうなディバルだ。
「じゃ次はギルドに行ってみよう」
ディバルは警戒していた。
勝手な思い込みだが、初めてのギルド訪問で”良くあるパターン”に対策を練っていた。
ディバルにはスプレムスが考案した敵意や悪意を持つ者が近づくと、問答無用で排除する魔法が常時発動している。
しかし、すっかり忘れて散策を楽しんでいたので、ギルドの建物を前にして威圧なんて放たない。
とは言え、魂と精神は只のおっさんだ。
初めての経験は緊張して身構えてしまう。
念のため、ほんの少し威圧を放ちながら入る事にした。
良く晴れた平凡な日常だった。
今日も朝から仕事をこなす職員と冒険者たちがギルドを利用して活気づいていた。
昼頃には人影もまばらとなり、ギルドは職員の方が多いほどだ。
旅の冒険者や少数で活動する冒険者が多少見受けられ、昼から酒精を帯びた者も数人居た。
そんな、いつもと変わらない日常だったが、一瞬にして張り詰めた恐怖感が襲い掛かった。
それは冒険者であれば必ず体験する感覚で、明らかに自分よりも強い魔物が威圧しているかの様だった。
それはギルドの入り口から入って来た三人の男達だと即座に理解した冒険者たちだ。
先頭の男は真っ直ぐに受付に向かっていた。
後ろの男と獣人は、辺りを睨みつけながらギルド内の隅々まで観察していた。
普通の冒険者であれば、異変を察知したならば距離を置くか危険な相手とは関わらず、遠目で見ているのが一般的である。
しかし、例外も存在する。
小さな自尊心を刺激されて酒精のせいで危機感覚も無くなり、相手の力量を推し量る事が出来ない者達だ。
多少腕に覚えのある乱暴者だが嫌われ者とも言う。
ギルド内に入った瞬間、三人は把握した。
悪意を持つ者達だ。
だが、大人しくしていれば何もしないが、そうでなければ即座に消す予定だ。
受付には巨乳など居なかった。
多少がっかりしたディバルだが仮面を付けているので悟られる事は無い。
威圧を消して話しかけた。
「やぁ、俺たちは旅人だけど今夜の宿を探してるんだ。どこか良い宿を教えてくれないか?」
ディバルは認識票を見せた。
「はい、旅人の方ですね、お三方ともでしょうか?」
「そうだよ」
「初めて旅人の認識票を見ました。綺麗ですね」
「ありがとう。パンパンパンパンパン」
「?」
受付嬢はディバルの言葉に疑問を持ったが、次の瞬間後ろに近づいてきた五人が崩れ落ちた。
ディバルの”ゼンチ”は目視せずとも認識出来るので魔法の標的として設定する事も容易なのだ。
「どうしましたかぁ?」
「どうしたんだろうな?」
受付嬢が問いただしても倒れた五人に反応は無かった。
事態に気づいた他の職員が五人に駆けよって声を掛けた。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ」
倒れ込んだ男を起こすと、目、鼻、耳から血が垂れて、口からは泡を吹き痙攣していた。
「だ、誰かぁ手を貸してくれぇぇぇ、治癒出来る者が居たら手伝ってくれ!!」
ギルド内は慌しく倒れた五人を奥に連れていった。
「どうしたのかな?」
「急に倒れられたようですが、腐ってた物でも食べたのかなぁ?」
「多分そうだな」
「ですよねぇ」
「まぁ、俺たちには関係無いしな」
「ですよねぇ、あ、宿ですね。当ギルドの並びを右に進んでもらえば、三階建ての蛸壺って宿屋が有りますから、料理も美味しいしお部屋も広いのでお勧めですよ。料金はそれなりですが旅人であれば安心してお泊りできると思います」
「ありがとう、そこに行ってみるよ」
治癒や毒消しの魔法も効果が無く五人は死んだそうだ。




