第14話 帝国と王国
現帝の退位と新たな帝王の即位。
帝王ディアリスター・サクシナティ・フィラス・フォルティスは天意の啓示を尊重し、新たな帝王となるティマイオス・コクシエラ・バーネッティに帝位を譲り退位する事を決意した。
退位した後は一族郎党を引き連れて辺境の土地で余生を過ごす事となった。
これに伴い城内の要職者の半数が入れ替わった。
表向きはこのように報じられた。
そして王城勤めとなった新興貴族含めて貴族全員が集められて特別講習を行い、反逆の意が有る者達は一族の処刑を行い見せしめとした。
貴族階級も細かく見直しされ階級に対して人数制の導入や、男爵以下は一代貴族となった。
実は全てディバルの命によりスクリーバによって教皇ツラレンシス・フランシセラ・レオニダスが裏で手引きして行われたものだ。
王城に出入りする事となった業者に新人騎士たちも精神矯正されていた。
戴冠した新たな帝王バーネッティを感慨深くみていた教皇レオニダスだ。
それはあの日を思い浮かべてであった。
教皇の執務室で書類に目を通していた所に知らせが有った。
「猊下。お目通りしたいと言う者が現れました」
(ついに来たかっ!!)
「良し、向かおう」
薄暗い教会内から入口を見れば光を纏った三人が立っていた。
教皇が近づくにつれて、その一人が異様な聖気を発している事に気づいた。
「おおおっ、お待ちしておりました。貴方様が”バーネッティ様”ですね」
教会の礼をとり三人を迎え入れた教皇レオニダスだ。
三人は教会内に滞在する事となり、バーネッティは二人の側仕えであるゾフィ・ロドコッカスとメリディ・スクリーバを紹介した。
現時点では魔人王と魔天女は秘密にした。
勿論スクリーバの正体もだ。
新たに選定された枢密院を使い帝国内の雑務を一手に引き受けるのはスクリーバだ。
その業務量をこなす速さと正確さは事務次官たちが必要無いほどであった。
もっとも、実際は憑依している精霊王では無く、スクリーバ本体の機能を最大限に活用しているためだ。
戴冠して暫くの帝王と”ロドコッカス宮廷魔法大臣”は挨拶周りと、役人の顔と名前を覚える事で必死だった。
先帝の隠居に伴う一族郎党が辺境の土地に追いやられた直後、現地では風土病が流行り大勢の死亡者が出たそうだ。
戦時中、帝国の行く末を憂いた教皇は自ら貴族を説得して回ったと言う。
教皇の言葉は大戦で全て現実となり、帝国の貴族が眼下にひれ伏したのだ。
信頼を失った先帝は無力だったと言う。
そして教皇の推薦する新たな帝王を迎え入れた機に、帝王を補佐する枢密院を新設し教皇の采配で現在に至る。
(神よ。貴方様のお告げ通りに致しました。どうか、わたくしに加護を貸し与えたまえ)
人魔大戦前からお告げが何度も有り、信仰深い教皇は準備を整えて様々な方法を使い先帝と一族郎党を辺境へ追いやった事が真実だ。
聖魔王の即位。
それは事前に龍族のパルビルブラがお告げを受けていた。
その日、その時に新たな魔王と側近が魔王城に現れると。
忽然と感じた魔の波動に魔王城に居た全ての魔物が騒然とした。
その波動は魔王城全てを覆い、魔物達が今まで感じた事の無い強烈なモノだった。
「グオオオオオオォォォォォ!!」
城門で発したウルサの咆哮は修繕中の謁見の間にも轟くほどだ。
城門に居た魔物達はその咆哮で硬直していたが、事前にパルビルブラの命が有り城門が開いた。
すると奥に一体の年老いた魔物が立っていた。
礼を取り、名を告げた魔物だ。
「お待ちしておりました魔王様。我は龍族を束ねるパルビルブラと申します。玉座の間にご案内しますのでこちらに・・・」
相槌して後に続く三人だ。
城門から謁見の間にある玉座までは沢山の階段を歩いて登るのだが、新たな魔王を一目見ようと大勢の魔物達が城内で待機していた。
事前に元魔王からの提案を受け入れて、今は変身の魔法を使っている。
変身したのは頭部だ。
クエルノ族は二本角だが、聖魔王オドリバクターと聖魔女オルソポックスは太い一本角に変身していた。
さらに勇者と聖女の名前が人族の間で認知されているので、人族の間に疑念や猜疑心が芽生えるとバーネッティとロドコッカスにも悪影響が出ると考えて、名前も聖魔王と聖魔様にして人族だった時の名前は隠すように二人が懇願したのだが、ディバルが一考し決めてしまった。
「じゃ聖魔王アスラと聖魔女リオで行こう」
満面の笑みで宣言された。
普段であれば文句がでるバリオラだったが・・・
(リオかぁ、可愛いかも・・・)
満更でも無いようだった。
しかし“聖魔王アスラ”の不安は意味の無いものだった。
何故なら人族は魔王の名を知らないからだ。
だから帝王バーネッティにロドコッカス宮廷魔法大臣もそのままなのだ。
しかしディバルには内に秘めた計画が有り元勇者の不安を受け入れたのだった。
魔王城の中を龍族のパルビルブラが先に歩き、聖魔王アスラ、聖魔女リオが続きウルサが後から付き従っていた。
魔物達は新たな魔王の放つ波動に畏怖し、眺めているだけだった。
玉座の間は国によっては謁見の間とも言う。
力の有る魔物達にそれぞれの種族代表が一堂に会していた。
その中心を四人が歩くと魔物達が”割れた”。
「我らが魔物達よ。お告げ通りに新たな魔王様が現れた」
パルビルブラの宣言の後にウルサが続いた。
「我らが魔王様の名は、聖魔王アスラ様と仰せになる。そして側近の聖魔女リオ様と我はウルサと言う。我らに異を唱える者が居れば、この場で力を示せ!!」
静寂の中に声を発する”者達”がいた。
「「「異議あり」」」
種族長たちは納得などしていなかった。
しかし、族長が異を唱えて逆らった後で種族がどのような扱いを受けるか? それだけが不安だった。
お告げは絶対であり十分理解しているが、魔物として力に依存する志向がどうしても納得できないのだ。
そこで族長たちが考えた方法は、それぞれの種族の中から剛の者を選出して意を唱えさせる事だった。
前に出てきたのはクエルノ族の戦士と、ココディリロ族の戦士に、獣人族の戦士が二人で大獅子人族と鎧角人族だ。
四人の戦士の前にウルサが立ちふさがった。
「ぐおおおおぉぉぉぉ!!」
ウルサの雄叫びの前に四人の戦士たちも吠えた。
「「「うおおおぉぉぉ!!」」」
しかし次の瞬間、血飛沫を上げて四人が崩れ落ちた。
ウルサの両手から放たれた閃光が四人に致命傷を受けるほどの攻撃だったのだ。
「あらあら、折角の戴冠式で命を落とすおバカさんはもう一度教育が必要ねぇ・・・」
そう言って聖魔女リオが魔法を唱えた。
するとどうだろう。
絶命しかけていた四人の傷がみるみる治り元通りの体になった。
「「「こ、これは・・・」」」」
四人以外にも族長や代表たちも驚いた。
目の前で明らかに死ぬほどの重症だった者達が一瞬で治癒されたからだ。
「よく聞け、愚か者たちよ。聖魔王様は我以上に強く、聖魔女リオ様と同様の癒しの魔法も扱う剛の者。お前たち如きが束でかかっても無意味だと知れぇぇぇ!!」
ウルサが吠えると、予定通り聖魔王アスラが魔の波動を強めて放った。
眼下の魔物達は畏怖し平伏したのだった。
因みに海洋に面している王国は海の魔物達と同盟を結んでいる。
食料捕獲以外の武力介入は無い。
どちらの種族も丘には上がれず、水中では行動できないからだ。
だから人族の情報や物資の交換に他種族の情報共有で問題解決を行なっていた。
帝国と王国は大きな森と草原を挟み隣接していて、二大国にとっては激動の一年だった。
だが、それぞれに元老院と枢機院が国王と帝王を補佐し、先代よりも発展が目覚ましかった。
しかし何処にでも爪弾きされる者が居る。
魔王は種族の和を持って更なる国力増加を掲げている。
それは武力よりも文化を優先しているからだ。
魔物たちの暮らしは飛躍的に生活基準が上がったが、魔物達は脳筋野郎が多いのだ。
帝国でも先帝から甘い汁を受け取っていた取り巻き達が残っており、現状の体制に不満をあらわにしていた。
“今の帝国は堕落してしまった”
“我らが事を起こして改善しなければならない”
“同志諸君次の安息日の朝、全員で決起しようではないか!”
無論、そんな情報はディバルの耳に入ってくる。
(ホントに人間って馬鹿だよなぁ俺が言うのもおかしいか?)
アルジ様、奴らを甘やかして良いのですか?
大丈夫だ、スクリーバ。
所詮二、三十年で人間は入れ替わるからな。
敵ばかりだとアイツ等のやる気も出ないだろう。
はっ、仰せのままに。
二組共、計画通りだなbyディバル




