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第48話 拳王本戦

拳技大会は帝国と王国の代理戦争となってしまった。

やはり武器を持たず無手で戦う者は少なかったのだろう。

更に強さも期待していた程ではなく、予選では一回戦を通過する者も少なかったと聞く。

参加者は少ないが運営としては賭博の売上は順調のようで、前回の収益で味をしめたギルドの総帥であるステラジアンは、思い切った倍率にしたようだ。


街の通りでは予選会場を見ていた者や予想屋はそれぞれの感想を並べて勝者の予測をしていた。

優勝候補は巨猿族のどちらかで予測する者が多い。

三位に人狼族か人族が入り、その選択が難しく人々を悩ませている様だ。


したがって掛金の倍率は人族高い。

しかもステラジアンの命令なのかゲンコッツとベニッショガの倍率が五十倍と尋常では無い数値に盛り上がる購入者と、やる気を煽られる当事者だ。


「しかし五十倍とは大きく出たものよ」

「まぁな。その位じゃないと盛り上がらんだろう」

「だが、本当に優勝したらどうする?」

「そりゃ払うが、そんな事は起こらないだろう」

「ククククッ、分からんぞステラジアンよ」

「嫌な事を言うな」

「何せ、ファルソの件もあるしな。我らが思っている以上に面白い結果になるかもな」

「・・・だ、大丈夫だ。絶対に巨猿族が勝つ」

「良いのか?魔物の肩を持って」

「我は中立だ。運営第一に考えている」

「それで誰を買ったんだ?」

「・・・」


特別室でも今回の予想は他の観覧者と同じで次席三席で悩んだようだ。

そもそも特別室に居る者で、魔物以外の無手で戦う戦士を知る者は居なかった。

元勇者も知らなかったようで、グラディオ国でも無手の登録者は居ないそうだ。




一部の不安と大勢の期待を持たせて大会が始まるのだった。


会場には進行係から説明されて第一試合が始まろうとしていた。

「皆様お待たせしております。それでは第一試合の選手である巨猿族リブロと人族ゲンコッツの入場で〜す」


闘技場は前回同様に魔物二名と人族二名のギルド職員が審判として四方に待機している。

因みに審判職員には身体速度強化と魔法防御の魔導具が与えられている。

これは常に動き回る選手たちの動きに合わせるためだ。

そうしないと剣技大会の時の様に飛び交う斬撃攻撃に対処出来ないからだ。



歓声が飛び交うなか試合開始の鐘が鳴った。

と、同時に会場が静けさに支配られる。

幾百幾千幾万の目が対峙する二人に寄せられていた。



巨猿族リブロは全身が灰色の毛に覆われている。

肌は浅黒く、一番の特徴は鼻が高いのだ。

魔王国の猿人系では一部の種族にその特徴が見られるが、その種族は一様に綺麗好きだ。

また何よりも鼻を意識して、触れられる事を拒む。

不注意に鼻を触れようとするだけで激昂するので気をつけなければならない。

基本的に裸だが、腰に布を巻いている。

戦闘用の装備は存在するが、人族と一対一の試合を完全に舐めていた。



一方のゲンコッツはバリカタ教のモンクだ。

修練用の服はズボンで上着は無い。

肉体の鍛錬が主な訓練なので自他共に筋肉を確認し合う為だ。

しかし外出の際には着用する上着がある。

バリカタ教の修練師の身なりは至って簡素だ。

イメージ的には、いわゆる道着の襟周りや裾に独特の刺繍が施されている。

その刺繍の色や意匠で強さを示す事が出来る。




両者対峙するなかゲンコッツは身体強化の魔法を使う。

リブロは向かって来る弱き者を軽く捻り潰すつもりでいた。


ゆっくりと歩いて近づくゲンコッツ。

間合いは明らかにリブロの方が広い。

するとリブロが動いた。


両手でゲンコッツを掴む、もしくは叩きつける気だ。

だがゲンコッツも想定済みである。

即座に前方に踏み出してしゃがみ、思いっきり跳ねた。

頭突き攻撃だ。

リブロが両手で柏手を打ったと同時にゲンコッツの頭部が顎を直撃した。

更にその瞬間にリブロの胸を蹴り、飛び退いて距離を置くゲンコッツ。

一瞬の出来事に会場から歓声が上がる。


頭がヒリヒリするが効果はあったと思うゲンコッツだが首をコキコキ左右に振り、何食わぬ顔で平然としていたリブロ。


(クソッ、効いてないのかよ)


勿論、巨猿族としても顎下の攻撃は効かないはずは無い。

グッと我慢しているだけだ。

初手を奪われて無様な振りなど出来るはずがない。

後から同族に何を言われるか、そちらの方を危惧していたリブロだ。


意を決して動くリブロ。

(なっ、早い)

一瞬で距離を縮めて巨大な両腕がゲンコッツに襲いかかる。


しかし素早く身をかわし回避するが、リブロの攻撃は終わる事は無かった。

長い両腕を巧みに操りゲンコッツを捕まえようとする巨猿。

流石に捕まえようとしている意図がゲンコッツに伝わる。

何故なら拳で殴るのでは無く、明らかに手を広げて捕まえる動きだからだ。


両者の動きは捕食者から逃げる獲物の様に見えるだろう。

ゲンコッツも効果的な攻撃が出来ず掴まれない様に回避に徹している。

一方のリブロは、まともに殴れば即死だと理解しているので、殴り殺さず捕まえる戦法だ。


しかし、この戦いは時間制限が有る。

両者の思惑通りに行かず苛立ちから行動がズサンになっていった。

意表をつく行動で隙を作りゲンコッツを捕まえたリブロ。


「しまったぁぁ」


即座に両手で掴み叫ぶリブロ。

ほぉぉほぉぉ(審判来てくれ)

魔物の審判がリブロに近づいて話す。


「このまま叩き付ければコイツは死ぬだろう。そうなれば二人とも失格だからこの者に負けを認めさせてくれ」


人の審判も呼ばれて通訳された。


「クソッ」

(しかし・・・コイツの言う通りか)

「・・・分かった。負けを認める」

ゲンコッツが認めて審判が試合終了を知らせた。


会場からは批判の声が上がったが取決め上殺害は無しなのだ。

だが人族の、それも教会の目は違っていた。

魔物が殺生を理解して説得したと言う事実だ。

上級の魔物は理性が有ると想定していたが、自分たちと同様の事が出来る事に驚いた様だ。


一回戦は呆気ない幕切れで人族からのヤジが多い。

魔物たちは奇声を上げている者が多い。



「まぁ予定通りだな」

「アソコで殺さないとは巨猿族も大したものよ」

「てっきりあのまま叩き付けるかと思ったけど・・・」

「ワシもだ」

「二人は両者失格だと考えていた訳か」

「これは、解らなくなって来たな」

「・・・」


ギルドの総裁は巨猿族が勝ち進んで喜んでいる様で、帝王と魔王は思惑が違ったらしい。



控室ではゲンコッツが吠えていた。

「クソッ、やられたーっ‼︎もう少し時間が有ればっ‼︎」

「仕方ない、初めて巨猿族との対峙なのだ。誰でも距離を取るだろう」

「すまない、俺の分も勝ち進んでくれ」





続いて二回戦目だ。

人狼族テンダ対、人族ムーアの戦いだ。


テンダは銀色の体毛をなびかせる二足歩行の魔物だ。

その体毛で分かりずらいが筋肉質の引き締まった体つきは横から見たら分かるだろう。

実践で鍛えているだけあって厚みが違うのだ。


一方のムーアはゲンコッツ同様の風体をしている。

違いは顔だが他の種族からは同じに見えるだろうが、それはどの種族にも言える事だ。

モンクなので同じ修練着に髪型や体つきまで似ているのだから、見分けが付かないだろう。


しかしムーアは軽装備の鎧を着用している。

これは明らかに爪を意識しての対策だ。



「カンカンカンカン」



試合開始の鐘が鳴ったと同時に魔法を使う両者。

使ったのは身体強化だ。

そして同時に走り出す。


(切り刻んでやるぜ)

(ヤツより早くぶちかましてやる)


両者の思いは会場の中央でぶつかった。


鋭い爪が襲い掛かる。

力のこもった拳が迫り来る。

どちらも二、三度当たったからと言って直ぐには負けないと思っている。

交差する拳と爪。

皮膚を擦りながらかわす。

爪が食い込んでもグッと堪えて拳を握る手に力が入る。

両者とも高速接近戦だ。


会場からは早すぎる手の動きが見えないが、体をそらしながら対峙する二人に声援がコダマするほど盛り上がっている。


本来人狼は確実に獲物を倒すため距離をおいて戦うのだが、今は違っていた。

敵よりも早く切り裂き勝つ。

それだけだ。

何より技を競い時間制限のある戦いだ。

種族の面子も有る。

人族など軽く勝って当然なのだ。



会場から観ている客には、圧倒的にムーアが不利に見えているだろう。

何故なら切り裂かれた皮膚から血が流れているのだから。

既に鎧もボロボロで顔や体の傷からも出血している。

観客は血が流れた方が歓声は多い様だ。

勿論ムーアの拳も確実にテンダの体に当たり、見た目以上に体力を消耗していた。


バッと離れた両者。

((・・・))


どれだけ対峙していたか解らないが、同様のダメージと残りの体力と想定し、ため技で勝負に出ようとする両者だ。


ゆっくりと歩いて近づく二人。

間合いに入ると止まり構えに入る。

鋭い眼光で睨む両者。


「「ハッ‼︎」」


高速で対峙するが片方から悲鳴が上がった。

「グァッ‼︎」


膝を付いたのはムーアだ。

両腕から激しく出血している。

ガルル(審判!)


一回戦同様に審判たちが呼ばれてムーアに問いただした。


目の前には両手を腰に置き、まだまだ戦えるぞと威勢を張るテンダだが本当は立っているのもやっとな程しんどかった。


「クソッ、負けを認める」


審判から勝者の判定が下ると会場から一斉に奇声が上がり歓喜している者が多い様だ。

モンク二連杯だ。

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