第47話 拳王予選
クルシブルの外壁の内側には隣接して幾つもの修練場がある。
本戦が行われている時は自由に使っている様だが予選会場でもある。
その予選会場の一つ一つを取り囲むように自称情報屋に拳闘好きな者や野次馬が取り囲んでいた。
流石に剣術ほど予選の参加者は多くは無いようだが、それでも列を成して参戦する者が大勢いる。
特に魔物の姿が目につくようだ。
ノーザ親子が選別した中には巨猿族が数人参加している。
その腕力が出す破壊力は王国の中でも上位に入る者たちだ。
「ハリガーネ様、あの魔物たち・・・」
「うむ。猿人いや巨猿族か・・・我らの前に立ちはだかる者たちだ。予選の戦い方を見る必要があるな」
ひときは目立つ巨猿族数人だが人族には興味は無かった。
体躯の大きさ、攻撃力の高さ、耐久力を含めて人族とは比べ物にならないと自負しているからだ。
人狼族も参加するが、決勝で対戦となった場合は取り決めを作っていた。
顔と頭は狙わない。
急所攻撃は禁止。
特殊攻撃である圧迫による握り潰しの攻撃は禁止など、遺恨を残す戦い方は禁止とした。
王国としてはどの種族でも構わないが大会で一番になる事が重要で、各種族は我が種族こそはと、意気込んで名乗りを上げたのが実情だ。
大勢の種族から、今回の拳技を使用した大会が話し合いで決まったのは、聖魔王の一言がきっかけである。
「無駄な死傷を出す事の無い様にしてくれ。強さは一つの基準でしか無い。それぞれの種族の特徴と優位性は知っているつもりだ。すなわち、全ての戦士が我らが王国の力であり宝だと知れ」
全ての猛者は沈黙していた。
他種族であろうとも勝つ自信は全員が抱いている。
しかし、本気で戦えばタダではすまない事も容易に想像できる。
勝つのは良いが、多大な負傷を負っては王国としては、戦士として意味が無い事を理解しているからだ。
王国の戦士は常に全力を出せる状態が望ましいとの認識だ。
勿論、王国にも回復魔法は以前から存在するが、現在の聖魔女程の力は無かった。
とは言え、聖魔女が負傷者を治す事は無い。
国内の、それも種族内の戦いは今まで通りの回復方法で治療している。
聖魔女が癒すのは、族長やそれに近い者たちだけである。
後に、種族内の序列を決める際には他種族の五人が審査する事になる。
種族内での個人的な戦いは種族の責任とし他種族は関知しない事となる。
更に王国内の序列も投票となり、誰がどの種族を推薦したか公表させ、投票者が自身の種族には投票出来ない決まりだ。
誰の目にも公平であるが、後に投票前に接待疑惑や賄賂疑惑が持ち上がり問題視されるが、未来の話である。
予選では人族が苦戦している様だ。
一回戦は第一段階の木のゴーレム二体
二回戦は第一段階の木のゴーレム三体
三回戦は第一段階の木のゴーレム四体
ほとんどが木のゴーレム二体を倒す、もしくは一定の破壊を行う事が出来ずに時間切れで敗退している。
そんな中でゴーレム四体を倒す猛者が現れた。
バリカタ教のハリガネ一派だ。
ハリガーネ、ゲンコッツ、ハクダック、ベニッショガの四人だ。
人族では三回戦を突破したこの四人が決勝進出で間違い無いと予想屋たちは睨んでいた。
魔物たちは王国認定の者たち以外も参加しているが、どうやら大会をナメていた様だ。
人族同様で時間内で二体のゴーレムを戦闘不能にする事が出来ず大敗する者がほとんどだ。
敗退者からは対戦時間が短すぎるとクレームが入るが、試合開始前に何度も説明したにも拘らず舐めきっていたようだ。
「はい、また来てくださいねー」
と、出口を案内されバッサリと切り捨てられる敗者たちだ。
そんな中、巨猿族のビカルとリブロに人狼族のテンダ、サロイ、ルモン、シグル・ノーザの六人が四回戦を突破して他の魔物は大敗したようた。
ギルド運営は想定よりも無手戦士が少ないと想像していたが、内容はまずまずの様で本戦では人と魔物の激戦が予想された。
予選の対戦ゴーレムも想定通りで、拳技の大会は当分この取り合わせで大丈夫だろうとの意見が多い。
そして厳選な抽選の結果、この様になった。
巨猿族リブロ対、人族ゲンコッツ
人狼族テンダ対、人族ムーア
人狼族サロイ対、人族ハクダック
人狼族ルモン対、人族ハリガーネ
人狼族シグル・ノーザ対、巨猿族ビカル
不戦勝選手としてベニッショガが選ばれた。
本来であれば次回から大会の覇者である優勝者も参戦する訳だが、今回はその英傑を選ぶ大会なので一人だけ対戦相手が居ないので一回戦は不戦勝の権利となった。
魔物たちの使う魔法は人狼族長は魔爪と噛みつきで、巨猿族は身体強化だけだ。
巨猿族はそもそも自力が違う。
振り回した拳が当たれば戦闘不能は確実であろう。
対する人族は身体強化と、修練師たちが長い年月をかけて作り上げてきた対魔物体術だ。
関節を上手く使い身体全体を使ったテコの要領で大きな力を生み魔物をなぎ倒す体術である。
拳技大会は割愛モードで進めようかな