表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柳生の剣士  作者: MIROKU
無明を断つ
45/47

光明を目指して


   **


 十兵衛は板の間の道場にいた。


 柳生屋敷の庭にある道場だ。稽古袴に着替えた十兵衛は、隻眼を閉じ瞑想している。


 呼吸が整い、気力が全身に満ちてくる。手のひらも暖かい。心は晴れて、天地宇宙の気と調和するかのようだ。


 今の彼は清廉なる気を放つ、一人の兵法者である。たとえ勝てずとも、今の十兵衛は挑んでいくーー


「ーー参れ」


 十兵衛の眼前には、同じく稽古袴姿の國松が立っていた。信長の血を継ぐ國松は、今は戦国の魔王のごとき形相だ。


 十兵衛、國松共に心は乱れていた。渦が巻いている。

 女首領に率いられた義賊を討ち、その全滅の噂を江戸市中に流した。


 そのおかげで浪人による押しこみ強盗の件数は激減した。江戸には数万人の浪人がいる。模倣犯が相次いでいたのは、特別な事ではなかった。


 十兵衛は、おりんとの約束を果たし旅芸人一座の催し物に出かけた。だが心は晴れぬ。旅芸人一座の公演は終わり、不気味な妖怪のロウ人形の展示会になっていたから……というわけではない。


 十兵衛も國松も江戸の治安を守るという務めを全うできた。


 だが義賊を皆殺しにした事が、両者の心を痛めた。

 ゆえに二人は手合わせを求めた。


 全身全霊を振るうしか、十兵衛と國松の憂鬱を晴らす手段があったろうか。


 彼らもまた人間である。終わりなき辛苦の中で正気を保っていられるほど、十兵衛も國松も強くはない。


 辛苦を断つには人間を捨てれば良い。人間としての仁義礼智信、全て捨てれば楽に生きられる。大半の浪人のように嘘をつき、盗みを働き、女を犯し、人を殺せるようになれば何も恐れるものはない。


 が、二人にはそれが無理だ。


「では……」


 十兵衛はゆっくりと一歩を踏みこみ、二歩目で一気に國松に向かった。

 風のような速さで迫った十兵衛に、國松は身をさばいて側面から組みついた。


 互いにうめきをもらしながら十兵衛と國松は組み合った。後世の柔道のようだ。

 互いに右手で対手の襟元を、左手で対手の右袖をつかんで離さない。組みつく事で相手の技を封じるという意味もある。


「ふーー」


 吐息と共に十兵衛は國松へ足技をしかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ