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柳生の剣士  作者: MIROKU
無明を断つ
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無明の明日10

(まさかこれほどまでとは)


 十兵衛の心にも絶望感が満ちている。


 忠長は家光と違って、父の秀忠からも愛されていた。次期三代将軍の座に関しても、幕閣では大いに意見が割れていた。それを収束させたのは春日局であった。


(局様……)


 十兵衛は唇を噛んだ。彼は春日局の依頼で家光の辻斬りを止めた。その後、十兵衛は家光の小姓を辞し、隠密となった。切腹せずに済んだのは、春日局の助命嘆願もあったという。


 そして十兵衛の愛刀、三池典太は春日局から賜ったものだ。家光の辻斬りを止めさせた報酬である。


 この名刀によって十兵衛は幾度も命を拾ってきた。それゆえ、彼は春日局を悪くは言えぬ。父とはいわば政敵の間柄であったが。


「大阪城よりは、ましであったな」


 十兵衛は気分を切り替えた。少々でも重苦しい雰囲気を打ち払いたかった。


 忠長は駿河に着任する前、秀忠に大阪城をねだっていた。三代将軍の弟として、西国大名へにらみを効かせるためだ。


 剣術指南役である宗矩、小野忠明から兵法も学んだ忠長である。その武辺の程は十兵衛も及ばぬ。


 信長の血も引く忠長の面影は、兄の家光には似ず、鋭く険しいものであった。


 あるいは十兵衛の師事した小野忠明と似通った気性であるかもしれぬ。忠長は十兵衛の父、宗矩とは反りが合わなかったようだ。


「大阪城……でありますか。忠長様が大阪城に御座すれば、天下の半分は簡単につきましたな」


「うむ、そうだ。だから今は、まだなのだ」


 十兵衛は言った。忠長は駿河にいるからこそ、まだ三代将軍の治世は続いているのだ。これが大阪城であれば、たちまちのうちに天下は覆っていただろう。


「助九郎様ならば、何か知恵をお出しくださるでしょうか」


 隠密の一人が言った。木村助九郎は石舟斎宗厳の高弟であり、後世にも名を伝える名剣士だ。


 その純朴な人柄に忠長も感服して師事しており、仙台や薩摩の間者も、あえて手出しをしなかった。


 徳のない者に、武を学ぶ資格なし。


 助九郎はそれをよく体現した人物であったろう。


「……そうか、無刀取りだ」


 十兵衛の左の隻眼が、くわっと大きく見開かれた。

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