無明の明日8
“何人殺めれば満足か”
魔性の声が響く。月光蝶による十兵衛の精神への責めは終わらなかった。
商家の庭に息を潜めていた源と政は息を呑んだ。
探していた盗賊団が、遂に彼らの目の前に現れた。
商家の塀の上から、数人の人影が静かに商家の庭に降りていく。
ーーき、来た……
源も政も緊張に汗をかいていた。例えるならば妖怪に出会ったような緊張だ。二人の視線の先では、塀から飛び降りた人影は庭を見回している。
ーーどうする……?
源と政は繁みの中で顔を見合わせた。彼ら盗賊団を捕らえねばならぬ、逃がしてはならぬ。緊張ゆえに源と政は動けない。
盗賊団がただの強盗であれば、源と政もためらいはしない。力の限り戦うだけだ。
だが盗賊団は義賊だという。あるいはそれを装っているのか。月明かりに照らされた盗賊団は十人あまり、彼らは商家の庭の中ほどまで進んできた。先頭に立つ小柄な人影は、噂の通り女性のようである。
その時だ、庭に殺気が満ちたのは。
源と政が身構えるよりも早く、商家の庭のあちこちから、伏せていた者達が立ち上がった。
驚きを隠せない盗賊団。彼らは円陣を組み、小柄な人影を内側にかばう。よく統率されたというよりは、盗賊団にとって首領は命より大事な存在なのだろう。
「ーーお前らの悪運もこれまでだ」
盗賊団を囲む伏兵の中から、一人の男が声を発した。
頭巾で顔を隠しているが、源と政には声でわかった。
染物屋「風磨」の店主、國松の声だった。




