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柳生の剣士  作者: MIROKU
無明を断つ
24/47

女は偉大である

 天晴れ、天下の義士ーー


 そのように褒め讃えてやりたい十兵衛だが、幕閣ではそのように思っていない。


 幕府御用達の商人だっている。幕府の財政は商人達によって担われている面もある。


 盗賊団を恐れる商人らは、幕府から派遣された腕利きの用心棒を雇い入れている。これには小野忠明の一刀流の門下が多く雇われていると聞く。


 何にせよ、女盗賊を討てと幕閣からはすでに命が下りていた。同心やそれに従う岡っ引きのみならず、江戸城御庭番も気を引き締めていた。


 また、染物屋の風磨(風魔忍者の末裔だ)にも声がかかっていた。

 風磨は江戸城御庭番とは違い、平時は染物屋だが、有事の際には御庭番以上の武装集団になる。


 風磨を率いるのは十兵衛以上の強者、國松という人物だ。


 ーー天下泰平の世だというのに、嫌な事ばかりだな。


 十兵衛の隻眼が光を帯びた。彼は無心に壁際まで歩を進めた。


 流れる水、あるいは微かな風のように。

 対手に何の反応も起こさぬ、無の境地。


 ーーガアン


 板の割れる音が道場内に響く。十兵衛は肘を道場の壁に打ちこんでいた。

 これも父の宗矩から学んだ無刀取りの一つで、鎧の上から衝撃を内部へ伝える特殊な技だが、


「あ……」


 十兵衛の厳かな表情は、泡を食っていた。道場の壁に穴を空けてしまうとは。


 それだけならばまだよいが、この道場では御庭番の女子も稽古に励む時がある。着替えを覗かれるのを嫌う女子らは、道場の壁の穴をどう思うか。


「こ、これは一大事だ……」


 十兵衛、嫌な想像をして顔から血の気を引かせていた。刀槍の刃も、闘争の緊張も、女の金切り声には敵わない。


 こうして十兵衛の精神は、一時的とはいえ迷いを遠く離れた。女は偉大である。あるいは、これも不動明王の導きかもしれない。

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