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柳生の剣士  作者: MIROKU
無明を断つ
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目指す境地





 夜になれば十兵衛の姿は、源の引くうどん屋の屋台にある。


 うどんを食べ終えた十兵衛は店主の源と、引き連れた政を交えた三人で話しこんだ。


「浪人の数は減りやせんよ。せいぜい仕事を斡旋してやるくらいでさあ」


 政は小柄な商人風の男で、江戸城御庭番で最も手裏剣術に熟練した男だ。離れた間合いでは十兵衛も敵うまい。


「手に職あれば生きられやすが、最近は浪人も働く気力すらない奴らばかりで」


 源の屋台は安くて量も多く、味もそこそこという事で、浪人が数多く利用していた。源は屋台を引きながら、江戸市内の浪人を監視しているのだ。


「今は無気力な者が多いが、統率者が現れたら重大だな」


 十兵衛はそう言う。今、江戸に集まっている浪人らは烏合の衆であり、彼らに強大な統率者はいないのだ。


「そうですなあ、浪人を集めて商家を襲うとか…… 浪人が百人も集まったら、あっしらだけじゃどうにもなりやせんぜ」


「万が一、百人で城に攻めこまれたら防げるかな」


「今の江戸城では危ういな」


 源と政の話を聞きながら、十兵衛は腕組みして隻眼を閉じた。


 江戸城御庭番ーー元は伊賀組、甲賀組の忍びの者達だーーは、十兵衛も把握しきれていないが、五十人ほどだろうか。


 もしも浪人が百人集まって刀を抜いて蜂起し、江戸城に攻めこんだらどうなるか……


 杞憂に等しい十兵衛の妄想ではあるが、実際にそうなったらどうするか。


 ーーいかに父上が兵法に優れていようと、万の軍勢に勝てるわけではない。


 十兵衛はそのような思いにとらわれた。兵法の限界、それは古の剣人達もぶつかった壁だ。


 だが、天真正伝てんしんしょうでん香取神道流の飯笹長威齋は、兵法とは平和の法なりと説いた。


 武神である経津主大神を奉る香取神宮で兵法練磨に励んだ飯笹長威齋。その門下に刃傷沙汰はほとんどないという。


 武威を以て平和を築くーー


 それは祖父たる柳生石舟斎宗厳や、先師の上泉信綱も目指していたものだ。


 無刀取りの技は、平和のために編み出された技であるのだ。


 ならば、それを目指すしかない。


 逆説的だが、十兵衛は人殺しの技である兵法を学び、その上に江戸の泰平を築かんと願う。


 ーー老師ならばどう思うか。


 十兵衛の言う老師とは、宗矩と同じく将軍家剣術指南役であった小野忠明の事だ。

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