9話 宮中での生活
次の日の朝、オレは王宮からの使者についていき王宮へと向かった。
サキエさんはオレが王宮に行くより先に宿を出ていき、その際に、別れの挨拶はなかった。
「さぁ、サトウどの行きましょう。」
「はい・・・。」
オレは晴れない気持ちを抱えたまま馬車で揺られていた。
サキエさんに言われた”借り物の力”がずっと心に引っかかっている。しかし、そんな気持ちとは関係なく馬車は走り、王宮へと着く。
「到着しました。ここからは、世話係のものが案内しますので、その者の支持に従ってください。」
「はい、ありがとうございます。」
世話係は王宮の門の前にいた。世話係は高齢の男性だが、少しガタイがいい。オレは世話係に離宮へと案内され、服を着替えた。
「サトウ様、昼食は12時からとなっております。食事は召使が離宮まで運びますので、食堂でお待ちください。ワタシは1階におりますので、何か御用があればお呼びください。」
「わかりました。」
世話係は帰っていった。離宮はそれほど広くはなく住んでいるのはオレと召使3人、世話係1人のみだ。宮中は非常に静かでコミュ障のオレには望んでいた場所であるはずなのに、なぜか寂しい感じがする。
「のんびりできそうだな宮殿の暮らしってのは・・・今頃サキエさんは冒険者のライセンス買うための資金集めやってんのかな?」
1人でいるとサキエさんのことを思い出してしまう。
「せっかくチート能力で宮中ニートになったんだ!豪遊しないと損だな。女の子を呼んで宴をしよう。」
オレは世話係を呼んで、ギフテッド主催のパーティー開催を謳い、街から女性を集めさせた(もちろん許可を得て)。ギフテッドを一目見たいとパーティーに参加したい女性は市民から中には貴族までと幅広い。
離宮内の会場はあまり大きくなく50人程度しか入れないので、惜しいが世話係が選抜した50人の女性のみの参加となった。
「くくく、夜が待ち遠しいな・・・。」
待ち望んでいるうちにパーティーの時間となった。
「みなさん!ギフテッドのサトウです!今宵はお集りいただきありがとうございます。」
集まってきた女性はキレイどころばかりで目が泳いでしまう。
(サキエさんは、いないのか・・・?)
無意識にサキエさんを探してしまったが、我に返り、パーティーを楽しむ。
ギフトスキルを披露し、酒をドーピング代わりにテンションを上げて女性たちと騒ぎ、パーティーは3時間も続いた。その間オレは酔いが覚めないように酒を入れ続けたため、足がふらついていた。
女性たちは帰り、また宮中は静まり返った。夢にまで見たリア充イベントだったが、気づけば一度もボディータッチすらしていない。
「・・結局、何をやっても陰キャは陰キャか。西洋人も鹿鳴館で踊る日本人を笑ったのが頷ける・・・おえっ。サキエさん何やってんだろう・・・。」
オレはゲロを吐き散らしたが、召使いに掃除を任せ、そのまま部屋に戻り就寝した。
そして、次の日も、その次の日も宴は続いた。街では、ギフテッドは好色だとか、話がつまらないとか噂になっているらしいが、オレは虚しさを紛らわすために続けた。
パーティーを開催していれば、いつかサキエさんが気づいて離宮に来てくれるんじゃないかといつも妄想をしている。その時、きっと彼女は資金集めに苦労していて、オレを頼ってきてくれる。そしたらオレは優しく離宮で一緒に暮らすことを提案して、ハッピーになるだろう。
そんな願望を抱きながら過ごし2週間が過ぎた。サキエさんはいまだに現れていない。
「もう野垂れ死んだか、娼婦にでもなっているのかなー・・・。」
ある時、世話係が呼びつけてもいないのに、オレの部屋に入ってきた。
「サトウ様、ここに来てからというもの少々お戯れが過ぎます。連日のお酒で顔色もあまりよろしくありませんし、訓練にも差し支えます・・・。」
「あ、ああ・・・、そうだな、とりあえず今夜はやめようかと思う・・・。」
「そうですか、それはようございました。」
「ところで、集まってきた女の子の中でこれくらいの身長で可愛らしい顔をした女の子来なかったかな?」
世話係はため息をついて答えた。
「その話は何度も聞いておりますが、来ておりません。失礼ながら、もし意中の女性がいてお探しならば立場を利用して街中をお探しになれば良いのでは?」
「いや、断じて意中とかではないっ!」
「そうですか・・ワタシの経験上ですが、意中の女性がいるならば悔いの無いように行動を選ぶべきです。もし、連日のパーティーも、その女性が都合よく来てくれるかもと思って行っているものでしたら、無意味だと思いますよ。」
「なっなんだと!世話係の分際で!オレの考えを見透かしたような口を利くんじゃない!」
オレは考えが見透かされたようで、腹が立った。
「気持ちは直接伝えなければ伝わらないと言っているだけです。」
「・・・ぐっ。」
「サトウ様は目的のためにまだ何も動いておりません。パーティーを開くことで目的に近づいているつもりになっているだけ、実際は女性にすべてを委ねている。」
「・・・そうなのか。」
「はい、それでは女性は絶対になびくことはありません。」
オレは世話係の言葉が心に重く響いた。
「ここに来てからというものサトウ様のお姿を見るのは忍びないのです。パーティーは本当にやりたいことなのですか?意味のある事なのですか?」
「・・・・。」
「本当の気持ちに素直になってください。そのためにギフテッドの立場を利用するのなら、みっともないことはないかと思います。」
オレはその言葉を聞いて、心のつっかえが一瞬取れたような気がした。
「本当の気持ち・・・。」
「そうです。」
「・・なぁ、ちょっと頼みがあるんだけど。」
オレはずっと閉まっていた気持ちを世話係に話した。今まで、人に打ち明けたことなどなかったが、人に打ち明けるというのはすごく気持ちの良いことだった。
そして次の日。オレは世話係を連れて街へと出ることになった。