8話 サキエとの別れ
オレは今、ゴブリンに襲われたとき以上のピンチにいる。なんと、王様の前にいるのだ。
それは今日の朝のことだった。
カフカスさんが王宮に行くとオレを宿まで呼びに来た。前もって王宮に行くとは聞いてはいたが、オレはてっきり王宮に行くだけかと思っていたので、ホイホイとついていってしまった。しかし、カフカスさんから告げられたのは王様に会ってほしいとのことだった。
オレはカフカスさんに懇願して王様との謁見はムリだと断ったが、そんな無礼は許せないとものすごい今、ゴブリンに襲われたとき以上のピンチにいる。なんと、王様の前にいるのだ。
それは今日の朝のことだった。
カフカスさんが王宮に行くとオレを宿まで呼びに来た。前もって王宮に行くとは聞いてはいたが、オレはてっきり王宮に行くだけかと思っていたので、ホイホイとついていってしまった。しかし、カフカスさんから告げられたのは王様に会ってほしいとのことだった。
オレはカフカスさんに懇願して王様との謁見はムリだと断ったが、そんな無礼は許せないとものすごい剣幕で怒鳴られてしまった。
またサキエさんは、そんな困っているオレを嬉しそうに見ていた。そして、お邪魔ムシは酒場にでも行ってくると言って、外に出ていった。
そういった経緯でオレは今、王の目の前にいる。
「おぬしが噂のギフテッドのサトウか、思ったよりも覇気がないな・・・。」
「は、はははははい。」
緊張で声が震える。現世では普通のサラリーマン(営業先)にすら緊張しすぎてまともに会話出来なかったのに王様と話しなどしようものなら気絶しそうだ。
「そんなに緊張しなくてもよい、気楽にしろ。」
「は、はははい、ありがたたたきおこことば。」
王様は寛大なお方で気を使って、気楽にしろと言ってはくれた。しかし、オレは気楽にしようと思えば思うほど空回りするのだ、今までもそうだったように。
「ふむ、困ったものだ。」
「王よ、大事な話だけお伝えすればよいかと・・。」
ほとほと困り果てた王様に対し近くにいた大臣と思われる男が言った。
「ふむ、今日は緊張しておるようだし、そうするか。」
そう言って、王様はオレに要望を伝えた。
王様から伝えられたことを説明するにはまず、この世界の情勢について説明する必要がある。現在、大小30ほどの国が大国フランツ王国の属国もしくは協定を結んで連合を成している。それは現世で言えばユーロ圏みたいなものだろうか。そして、国にとってギフテッドの存在というのは軍事力に大きな変化を与える。それはつまりギフテッドの有無は連合の中での立場に直結するということになる。
今回、頼まれたのはオレにルガール王国のギフテッドとして国に仕えてほしいということ。ちなみに待遇は最高だった。ギフトスキルの訓練と有事の際は戦うという使命を背負うが、普段は王宮で飲み食いをし、侍女を侍らせ、地位も貴族の位をもらえるとのこと。
以上の条件を聞いて現世での冴えない生活とおさらばできると思い快諾をした。そして、快諾の後、王の間を去りカフカスさんのもとに戻った。
「サトウどうだった、良い待遇で迎えてもらえただろう?」
カフカスさんは結果は分かり切っているといった表情をしている。
「はい、最高の待遇でした。」
「サキエどのにも伝えてやれ、侍女として王宮に迎えてやれば彼女も楽が出来るだろう。」
「はは、侍女なんて言ったら怒られそうですけど、その辺はうまく言いますよ。」
オレはルンルン気分でサキエさんのいる酒場に向かった。これを聞けば、サキエさんは必ず喜ぶだろうと。
そして、オレはサキエさんの待つ酒場へと着いた。
「古川さん!お待たせしました。聞いてください、良い話があるんです。」
サキエさんはカウンターでチーズをつまみにワインを飲みながら店主と話しているところだった。
「どうしたの佐藤くん、やけに声を張り上げて?」
「はは、そりゃ声も張り上げたくなりますよ!聞いてください、きっと古川さんも気持ちが上向きますよ。」
「ふーん、聞かせてちょうだいな。」
オレは王様から聞いた話を全てサキエさんに伝えた、侍女とは言わなかったがオレが招待した女性としてなら王宮に棲めること。今後、好待遇で生活をしていけることを・・・。
「・・どうですか古川さん、良い話でしょ?」
「うん、すごく良い話ね、だけど断るわ!」
サキエさんはオレの申し出に対し考えるまでもなく断った。
「えっ!?何でですか?毎日ふかふかのベッドで寝て、広いお風呂につかれるんですよ?」
「佐藤くん、ワタシね日本に帰りたいの。そのためには各地を回って情報収集をする必要があると思うの。」
「各地を回るって・・・冒険者にでもなるつもりですか?」
「そうよ、ここの店主に聞いたら、冒険者はフランツ王国の連合国内の移動は自由らしいの。だから、お金を集めて冒険者のライセンスを取得して旅に出るつもりよ。」
「なっ何で日本なんかに・・・日本なんか戻ったって生きづらいだけじゃないですか!?人と違うことが許されなくて、常に上を向いていないと無能呼ばわりされて、人といつも比べられて・・・。」
オレは自分で言いながら涙が出てきた。
「佐藤くんは日本には戻りたくないでしょうね・・・じゃあ、ワタシたちはここでお別れだわ。」
”ここでお別れ”・・・なぜだろう?オレはその言葉を聞いた瞬間、心の奥底から沸き上がる勘定を抑えきれなくなった。その瞬間、理性がプツンと切れてしまった。
「どうして!どうしてなんですか!?オレの話はすごくいい話なのに!喜んでくれると思ったのに!どうせ、昨日オレがみんなにもてはやされているのが気に食わなかったから、意地になってオレからの施しは受けないってことでしょ!?いい加減大人になりましょうよ!感情抜きでメリットとデメリットを考えたら分かるはずだ!」
呼吸が荒くなっている、オレは人生で初めて人に対して怒鳴った。怒鳴った後で、我に返り、殴られるかと思ったが、サキエさんはそれを静かに聞いていた。
「殴る価値もなくなったわね。」
「えっ・・・。」
「その借りもの力で、せいぜいガキ大将でも気取っていると良いわ。さよなら。」
「・・・・。」
サキエさんの表情は冷めきっていて、固まっているオレをしばらく見つめてから酒場を出ていった。
オレは小さくなるサキエさんの後ろ姿を見つめて何も考えることが出来なくなっていた。