6話 ギフトスキル”モールディング”
隊長と呼ばれていた男はオレのことをギフテッドと呼んだ。
「ギッギフテッドって何ですか?」
男は黙って、オレを見ている。
「あっあの失礼なことを聞いてしまったのなら申し訳ございません。」
オレは怖くてすぐに謝った。しかし、男は謝罪に対しての反応はなく、部下と思われる兵士たちと何やら話し合っている。
そして、男は兵士たちと相談し終えたのかオレたちの方にきて、こう言った。
『2人とも近くに町があるから、そこまで来てもらいたい。』
「いいんですか!?ありがとうございます!」
サキエさんはすごく嬉しそうにている。この男の誘いを疑わないんだろうか?
「やったわ佐藤くん、野宿しなくて済まそうよ!」
サキエさんは、野宿しなくて済むということで頭がいっぱいになっているようだ。
「古川さん、いいんですか?営業がそんな簡単に相手を信じても・・・。」
オレはボソボソと進言してみた。
「時には、疑わずに飛び込む勇気も大事なの!」
そう言われて、一蹴されてしまった。
こうして、オレたちは兵士たちに連れられて近くの町に行った。町は森を抜けて、1時間程歩いたところにあった。
町に着いてたのは深夜で、オレたちは兵士たちが泊まっている宿舎に止めてもらえることとなった。話は明日の朝ということにして、今日は寝ることとした。
ただ、部屋が少なく結局サキエさんとオレは一緒の部屋で寝ることとなった。それに関してサキエさんは文句を言っていたが、疲れていたのかすぐに寝てしまった。
そして次の日の朝、オレたちは隊長と呼ばれていた男に呼び出された。
『2人とも昨日はよく寝れたかな?まずは、自己紹介からしておこう。ワタシはルガール王国軍の兵隊長"カフカス"だ、よろしく。』
「フルカワ・サキエです、昨日はありがとうございました。」
「サトウ・タカシです。」
『まず聞きたいのだが、2人はどこの国の人間で、なぜあんな森の中で野宿をしようとしていたんだ?』
もっともな質問だ、その質問に対してサキエさんがありのままに話した。日本という国で昇降機に乗っていたら事故で死んで、目覚めたらあの森にいたこと。そして、道も分からないので、あの開けた場所で野宿をしようとしていたのだと。
『なるほど、そういうことか。キミたちは転生者だったのか。』
転生を知っているようだ、ということは他にも同じように転生してきた人間がいるということか。
「カフカスさん、他にもワタシたちと同じように転生をしてきた人間がいるのでしょうか?」
『うむ、都に何人もいるな。』
「本当ですか!では、都に行けば、同じ境遇の人たちから色々と情報が得られるということですね!ちなみにその人たちは都でどうやって過ごしているんですか?」
カフカスさんはサキエさんの質問に少し躊躇いながら答えた。
『言いにくいのだが、奴隷が大体を占めている、良くて冒険者か日雇いの仕事で食うや食わずの生活といったところだ・・・。』
「えっ!?どっ奴隷・・。」
サキエさんの顔が引きつっている。しかし、それはオレも同じで転生ものといえば勇者になるとかが相場ではないのか?それが、まさかの奴隷が大半とは・・・。
『仕方ないのだ、彼らは家も財産も家族もいない。そうすると大半が貧困に耐えかねて盗みなどの悪事を働き、つかまって奴隷になる、もしくは、路上や町の外で拉致をされ奴隷になる。』
「そっその冒険者になるには、どうすれば?」
『冒険者になるにはライセンスを買う金がいる。しかし、もともと冒険者というのは市民権を持たない流れ者がなる仕事で、国だけでは手が行き届かない小事をこなし、その日暮らしをするものたちのことで、当然ライセンス取得に必要な金もそんなに高額ではない。』
「そっそんな~良くてそんな仕事だなんて~。普通の仕事はないんですか?大工とか?工場とか?食堂とか?もしくは兵士とか!?」
『都でそれらの仕事に従事するには市民権がいる。そして市民権を買うのに必要な金は冒険者のライセンスとは比較にならないくらい高い。』
「うそでしょー、万事休すじゃないの!」
『サキエどの、早まるでない。キミたちは運がいい、いや、運が良すぎると言っていい。』
「えっワタシたちの運がいい?どこがですか!?」
『それはサトウくんだ!』
「佐藤くん?このうだつの上がらない男の何が・・・?」
サキエさんは不思議そうに首をかしげている、まぁ、オレ自身も訳がわからないのだが。
「あっあのボクの何が良いのでしょうか・・・?」
『うむ、昨日キミに対して”ギフテッド”と言ったのを覚えているか?』
「はっはい・・。」
『それは昨日キミが土壁を作りサキエどのを守ったあの力だのことだ。転生者にこんな話をすることがまずないので、順を追って話していこう・・・。』
カフカスさんはオレたちにギフテッドとは何かを教えてくれた。まず、この世界には火、水、風、土の四つの属性の魔法が存在し、それらは魔術師の魔力を糧にして精霊に命令式を与えるという原理原則を持つ術法だという。しかし、極稀に原理原則を一切無視した御業を使えるものがいるらしい。その御業のことを人間の意思では引き起こせない神から与えられた技術”ギフトスキル”と呼び、与えられた人間のことを”ギフテッド”と呼ぶらしい。
「カフカスさん、そのギフトスキルを佐藤くんが持っていると運が良いというのはどういうことでしょうか?」
『ここからが、大事な話だ。ギフトスキル内で能力の優劣はあるものの、持っていれば強力な戦力になることは間違いので、どこの国でもギフテッドは喉から手が出るほど欲しい。つまり、サトウくんはギフテッドなので、奴隷どころか国から歓迎をされる立場にあるということだ。』
な、なんだと?オレのあの土壁を造る能力がそんな貴重なものだというのか?人からありがたがられたこともないので、いまいち自分に価値があると言われてもぴんとこないのだ。
「やったわ!佐藤くん国賓級ということよ。これなら当面は安心して暮らせそうね!」
『あぁ、キミたちが敵国の人間でなくて良かった。敵国のギフテッドとなると軍隊を派遣して対処せねばならなかったからな。悪いようにはしない!わがルガール王国に来てくれ2人とも。』
「もう、ぜひともお願いします!カフカスさん。」
「はっはい!よろしくお願いいたします。ところで、カフカスさんボクの能力って何なのでしょうか・・・?」
『うむ、そもそもギフトスキルというのは歴史上、確認されているもので36種類あって、スキルはギフテッドが死ぬと他人に乗り移るというものらしいのだ。それで、ワタシが前に読んだギフトスキルの歴史書で思い当たるのが”モールディング”。』
「モールディング・・・?」
『そう、触れたものを自由自在に成形する能力。500年前に存在した、大ローム帝国の将軍がこれを使い、要塞を一瞬にして築き上げたと言われている。』
「へー・・・すごいですね。」
「佐藤くん、もう少し良いリアクション取りなさいよね・・。」
『要塞が一瞬で築けるなんてことがあれば軍としては、そんなありがたいことはない。素晴らしい能力だ、国はきっとキミを歓迎するよ。』
「は・・はい。」
「カフカスさん、ちなみに佐藤くんの能力意外にどんな能力があるんですか?」
『そうだな、歴史上最強と言われているのは”オールウェザー”と言うスキルだ。見たことはないが天候を操ることができるらしく、殲滅力では一途優れれものらしい。』
「オールウェザー、天候を操る業・・・。規模が大きすぎてついていけないわ。」
『ははは、ギフトスキルはワタシもついていけないよ。さぁ、朝食を食べたら都に帰る、キミたちも食事を済ませて、準備をしておくようにな!』
「はい。」
こうして、オレたちはルガール王国の都に向かうことになった。オレ佐藤タカシはというと超貴重なスキル”モールディング”を宿しているらしく、国から歓迎されるらしい。こんな土壁を造れるだけのオレでも本当に歓迎されるのだろうか?人生経験からかオレは自信を持つことが出来なかった・・・。