26話 奴隷好きの館主
オレたちはアハブーを護衛として旅を続け、目的の街に到着した。
街の名前はセヴィーラ。
かなり大きい街で、海峡から内陸に少し行ったところにある。
「やっと着いたわね」
「はい、今回の依頼も無事でよかったです」
『何が無事なもんか・・・オレはこれからお客様に謝罪に行かないといけないんだぞ』
アハブーは奴隷を一人逃したことでお客様から信用を失うことを危惧している。正直言うと良い気味なのだ。
「アハブーどの、この町で奴隷を一番多く所有しているお方を教えていただけないでしょうか」
『今から行くお客様ですよ・・・一緒に行きますか?ついでに一緒に謝ってもらえると助かりますが』
「着いてはいきますが、謝罪はご自身でやってください」
クラディウスさんはズバッと切り捨てた。
『そんな~』
アハブーは嘆きつつ、しぶしぶとオレたちをお客様のところに案内してくれた。
その客の家はかなり大きい豪邸に住んでおり聞いたところ豪商らしい。
「アハブーさん、かなり大きなお家ですね」
『あぁ、この街の権力者だ、決して逆らってはいけない相手だよ』
「あはは、アハブーさんってば、そんな人相手に謝罪するの?(笑)」
『小娘め~!!他人事だと思って笑いよって』
そんな会話をしていたら屋敷の使用人がやってきた。そして、館主が待っていると言い、オレたちを館主のもとまで案内した。
館主は応接室にいるらしく、案内された部屋の赤く大きい扉の前には、護衛が2人立っている。そして扉をくぐるとそこにはフサフサのあごひげを蓄えた、ふくよかな男が座っていた。
いかにも金持ちそうな人だ。
『ようこそ、アハブーどのと護衛の皆さん、この度はワタクシの奴隷を守っていただきありがとうございました』
「いえ、館主様の大事な奴隷が野盗などに襲われて言いわけがありません。傷一つつかないよう精一杯務めさせて頂きました」
今、先陣を切って、口を開いたのは、まさかのサキエさんだった。相変わらず、よく口が回る。
『ほーこれはしっかりしたお嬢さんだ』
第一印象のつかみもバッチリだ。
「いえ、ワタシたちなど、まだまだです。しかし、そんな名実のないワタシたちでも、護衛の依頼とあらば、どんな敵からも守り抜くという心づもりで仕事に励んでおります。そして、今回の事件ですが、原因は内部での失態によるもの。護衛の任務ではないなどと言い訳は致しません。館主様の大事な奴隷が1人が欠けてしまったことお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした」
サキエさんは営業モード全開だ。護衛の任務は全うしていることを強調したうえで、逃亡は内部の失態であることを説明している。そして、一番の責任者であるアハブーが先陣を切って謝ることなく、護衛の女性が先に謝るというこの状況は館主のヘイトを全部アハブーにぶつけることを可能とした。
『アハブー!こんなお嬢さんに謝らせよって!どうせ錆びた鎖でしばっていたのだろう』
「いっいえ、滅相もございません。そんな錆びた鎖など・・・」
『貴様、謝る前に言い訳か!』
「もっ申し訳ございません!」
さすがはサキエさんだ。
そして、アハブーは土下座をしたが、許してもらえず、挙句の果て、この街での営業の許可を取り消され、街からつまみ出された。
この館主の街での権力を垣間見たような気がした。
「古川さん、さすがですね」
「何が?アハブーさんが一緒に謝ってほしいって言ってたじゃない?だからこの場で謝罪しただけよ」
「ははは・・・それはそうでしたね」
恐ろしい、実に恐ろしい人だ。
『そう言えば、ソナタたちはワタシの奴隷コレクションが見たいらしいな』
「あっはい!そうなんです。ボクたち転生者の奴隷に興味があって」
『転生者の奴隷とな・・・』
館主様は何やら思い出そうとしている。
『うむ、たしか1人いたな』
何ということか、転生者の奴隷がいるそうだ。
「「その奴隷会わせてください!」」
オレとサキエさんは声を揃えて懇願した。
『ふふふ、ソナタたち、なかなか渋い趣味をしとるの~』
まさかの転生者と会えることになったオレたち、こうして目的へ一歩、歩みを進めた。