19話 ヴァイキング
オレたちは船で海峡を渡っている。
この海峡を渡るには帆船では半日かかるらしく朝に出ても着くのは夕方らしい。
「帆船なんて初めて乗ったわ。」
「ほーサキエどのの世界はいまだに手で漕ぐのが主流なのですかな?」
「・・・いえ、まぁ説明しても難しいので、やめときます。」
「でも古川さん、のんびりしてていいですね。」
「そうね、佐藤くんには合っているわ。」
そう、マイペースなオレにはこれくらいが合っているように感じた。そして、しばらく揺られていると船長と守人の冒険者の話が聞こえてきた。
『船長、こっちの進路を取ったほうがいいですね。海賊たちは海の真ん中で襲ってくるらしいです。あいつらの船はここら辺では見ない形状で、普通の帆船より早いらしいです。』
『ふむ・・・しかし、この辺は岩も多く海賊が隠れるには絶好の場所だと思うが・・・。』
『やつらは既に何度もこの定期船を襲っており正規ルートは把握している。だから逆を突くのです、仮に潜んでいたとしても主戦力は正規ルートにいる。ならば、船を守れる可能性も上がる。』
『ふむ・・・そうだな。そちらで行ってみるか。』
(ああいうやつって軽そうに見えて考えることはしっかり考えてるんだよな~ホントに羨ましい・・・。)
オレはカイルの姿を見て、少しアンニュイな気分になってしまった。
「んーああいうタイプの新人が欲しかったわね。人当たりはいいし、ハキハキしているし、提案力もある。」
「古川さん・・・なんか、すみません。」
「あはは、冗談よ。初めからああいうふうに熟されても寂しいじゃない。湿気た面してちゃダメよ佐藤くん。」
「はは・・・ありがとうございます。」
こういう気づかい、やはり天使だ。
船は、沿岸沿いを進んでいると、先ほど船長とカイルが話していたであろう岩場が見えてきた。たしかにごつごつとした大きな岩が多く、隠れ蓑としては十分だ。
『カイルくん、岩場だよ。用心をしてくれよ。』
『えぇ、任せてください・・・。おい、お前ら戦闘準備をしておくんだ。』
カイルのパーティーは武器を持ち、外を警戒している。
「ワタクシたちも警戒を怠らないようにしましょう。」
オレたちも武器を手に取り、外を見張る。そして、船が岩場を横切って進んでいき、乗客に緊張が走る。
すると、突然岩場の影から船が3隻現れた。
『かっ海賊だ!』
「あれはヴァイキングですね・・・。船主の龍、持っている武器から分かります。」
「さすがクイズ研。でもヴァイキングって北の海にいるんじゃないの?」
「いえ、地中海やアフリカでも活動はしていたみたいです。」
「お2人ともお話中で申し訳ございませんが、相手がなんであろうとやることは変わりません。準備はよろしいですか?」
「「はい!」」
ヴァイキングたちは船に寄ってきて、積み荷の受け渡しの要求をしてきた。何人かは弓を構えており、すでに臨戦態勢だ。
『カイルくん、仕事だよ。やつらを追っ払ってくれ!』
船長は怯えている。
しかし、その瞬間、目を疑った。なんと、カイルのパーティーは船を降りてヴァイキングの船に飛び移った。
『えっ!?カイルくん、何で海賊の船に・・・。』
カイルは急に高笑いを始めた。
『あははは、せんちょーう。申し訳ない、ボクはこの海賊とグルなんだ!ここに呼び寄せるのがボクのお仕事。さぁ、大人しく積み荷と金品を渡してくれ。』
「そういうことね。なんか胡散臭いとは思っていたけど、典型的なパターン過ぎて驚きもしないわ。」
「サキエどの、佐藤さま、胸糞の悪い状況ですが、乗客の命を守るのが最優先です。上ってきた賊を蹴散らしましょう。」
「「了解。」」
『ひ~海賊が上ってきた!』
海賊は船によじ登ってきた。それと同時にサキエさんとクラディウスさんが突っ込む。ちなみにオレはというと船の上ではあまり役位立たない・・。
クラディウスさんは片手剣で上がってきた数人のヴァイキングを華麗に切り払う。身体強化を使っており相変わらず人間離れした速さだ。
「古川さんは、どうだろ・・?」
一方、サキエさんは意外にも数人のヴァイキング相手に苦戦していた。
「このっ!みんな早く下がって。」
「サキエどの!大丈夫ですか!?」
「すみません!乗客を守りながらだとちょっとキツイです。」
そう、この船の看板はそれほど広くなく、荷物も多い。ましてや後ろに乗客がいるとなると薙刀を薙ぐことが出来なくなる。
「もう!やりづらいったらありゃしないわ!」
弓矢をもった数人のヴァイキングから弓矢も放たれ、多数の弓矢がオレたちを襲う。
サキエさんとクラディウスさんは余裕で矢を防ぐが、乗客の何人かに刺さる。
『ぐあぁーーーっ!矢がっいてえよ。』
「まずいですな。サキエどのの方に助太刀したいが、こちらの賊どもも相手にしなければいけない・・・。」
クラディウスさんも少し焦りを感じている。
この状況を打破するにはサキエさんが実力を発揮する必要がある。
そのためにはある程度広くて、所外物のない場所が必要だ。
「そうだ!」
オレはある案を思いついた。そして、それを実行に移すために海へと飛び込んだ。
『なんだ!?あいつ海に飛び込んだぞ。この状況に耐えられず入水自殺でも図ったか(笑)!?』
カイルが大笑いをしている。
「佐藤くん?何を考えているの!?助けになんか行けないのに・・。」
「サトウ様・・・。何をお考えになって・・?」
ここにいる皆がオレの行動に疑問を抱いただろうがオレは自殺を図ったわけでもない。この海に大地を作るために飛び込んだんのだ。
そう、このギフトスキル”モールディング”を使って。
(岩が海面に突き出しているということは、そこまで深くないと思ったが、その通りだ。よし、いくぜ!!)
次の瞬間、ヴァイキングの船とオレたちの船の周りの海水が盛り上がる。
「えっなに!?地震かしら?」
『なっなんだ?海神の怒りか!?』
これは地震でも神の怒りでもない、オレのギフトスキルで下の海底が隆起してきたのだ。そして、瞬く間に海底は海面上に顔をだし船は海底の大地に乗り上げた。
オレもその海底とともに地上に浮上した。
「ふー、半径10メートルくらいの円形の闘技場の完成ですね。」
「佐藤くん!アナタ、このために海に飛び込んだの!?」
「はい、そうです。ここなら、思いっきり戦えるでしょ?」
その質問に対してサキエさんはニヤリと笑って答えた。
「愚門ね、期待通り全てをひっくり返してあげる。それにしてもアナタのスキル改めて驚いたわ、ありがとう。」
「はっはっは、サトウ様、ワタクシ初めてアナタ様に稽古をつけてよかったと思えましたよ。」
『なっなんだ?あの根暗やろう・・・。こんなすごい魔法が使えたのか。』
カイルは何が起きたのか理解できず、戸惑っている様子だ。
戦闘の準備は整った。ここからはオレたちの反撃が始まる。