18話 船出
オレたちは旅を続けて1週間、第一の目的地である北の海峡の港”タンジ港”に着いた。ここは海を挟んで北側の国との交易の中心地として栄えている。
「やっと着きましたね・・。」
「え~長かったわ。」
オレとサキエさんはクタクタだ。なんせ、日本に生きていて5日間も歩いて野宿をした経験などないから。
「お2人とも、フランツ王国まではまだまだありますぞ。」
「「は~い。」」
オレたちはまず道中の戦利品を売却し、休憩のためにこの町のギルドに向かった。
「佐藤様、サキエどの、明日の便で出向いたします。なので、今日食堂でご飯を食べ、宿でしっかり休みましょう。」
「「やったー!」」
久しぶりの贅沢にオレたちは心が躍る。
「そういえば、ここのギルドにはどんな依頼があるんだろ・・・?」
オレはふと気になって、依頼を見てみた。
「海峡に海賊が出没・・・船の守人を募集・・・1回、3000フール。討伐成功の場合は20000フール。」
(海賊だとっ!!?)
「古川さん、クラディウスさん、この海峡、海賊が出るって・・・。」
「海賊?ふーん海賊から船を守る仕事ね・・・。良いじゃない、どうせ船に乗るんだから受けましょうよ。」
「え~海賊ですよ・・・。ちょっと怖いじゃないですか。」
「ふむ、受けてみる分には良いでしょう。路銀の余裕にもなりますしな。」
オレは嫌だったが多数決に押され、しぶしぶこの依頼を受けることにした。
『申し訳ございません。こちらの依頼ですが、すでに受けている冒険者がおりまして、もし、1つの依頼を複数の冒険者で請け負う場合は取り分はそちらで決めていただくことになります。なので、どうしても受けたい場合はまず、先に依頼を受けた冒険者と話し合いをしてください。』
と、受付のお姉さんが説明してくれた。
「それじゃぁ、大したお金にならないわね。やめときましょう。」
「そうですな。」
(ラッキー・・・これで危険に飛び込まなくても済むな。)
「さ、お2人とも、食堂に行きましょう。今日はゆっくりしましょう。」
こうしてオレたちは食堂に行き、新鮮な海産物を食べ、宿に泊まった。
そして次の日の朝、オレたちは港に向かい船の到着を待つ。
この港の利用者は商人、役人、冒険者が主らしく、今回の乗客はオレたちと、商人のおっさんが2人。ルガール王国の役人が1人とお付きの兵隊が2人。そして、船の守人の依頼を受けた別の冒険者たちだ。
『みなさーん初めまして。ワタクシは冒険者でこのパーティーのリーダーを務めるカイルと申します。最近この海峡で海賊が出没しておりますが、ワタシたちがお守りするのでご安心ください。』
拍手が起きる。
その冒険者のパーティーは男3人だった。剣使いが2人。あと1人は弓使い。
「ワタシ、ああいうビッグマウスな感じの男はどうも苦手だわ。」
「そうですね。ボクも苦手なタイプです。」
『やぁ、キミたちがもう1組の冒険者パーティーかい?』
カイルと名乗る男が話しかけてきた。思った通り苦手なタイプで、ずかずかと距離を縮めてくるタイプだ。
「ワタシたちのこと知ってるんですか?」
『あぁ、ここのギルドの受付嬢から同じ依頼を受けたいっていうパーティーの話を聞いてね。女の子とお爺さんと目立たない青年のパーティーだっていうから、すぐに分かったよ。』
「目立たない青年・・・。」
『ワタシたちが依頼を先に受けてしまったから、受けるのを辞めたんだろ?そこで、相談なんだが、報酬の5割を渡してもいいから海賊が現れた時は手伝ってくれないか?なんせ見えは切ったものの怖いものは怖いんだ(笑)なっ!頼むよ。』
オレはひねくれているから、こういう、自分の弱いところをさらけ出して人にお願い出来るのも才能だなと屈折して感じてしまう。まぁ、自分に出来ないからひねくれているだけなのだが・・・。
「いいんじゃないですか?古川さん、クラディウスさん。」
「あら、珍しいじゃない佐藤くんが自ら受けるなんて。」
「ほほほ、ワタシは構いませんよ。」
これはただの気まぐれではなく、オレの中の卑しい心が決めた決断である。オレはなんとなく嫌いなこいつにギフトスキルを見せたらきっと驚くだろうなどと考えているのだ。だから、戦いの場を得ようとしたのだろう。
(人間、なかなか変われないもんだな・・・。)
『ありがとう!助かるよ。』
そして、待っていると船が来たので、オレたちは乗船し、海峡を渡りだした。