1話 ポンコツ新入社員やらかす
オレの名前は佐藤タカシ。22歳の彼女いない歴=年齢のさえないサラリーマンだ。
今年、地方の公立大学卒業後、地元の中小企業に就職をした。
研修を終え、営業部に配属されたその部署は10人で、オレの上司は古川紗季絵。
今年で30歳だが、彼氏もおらず結婚もしていない。小柄で年齢よりも若く見えかわいいのだが、なんせ性格がきついので、なかなか結婚までたどり着かないのだろうとオレは推測している。ちなみに今年の4月に主任補佐に昇格して初めての部下がオレだ。
そしてオレは部署の歓迎会を断り、早速変わり者のレッテルを貼られた。
頼まれていたことは期限までにやらない。同じミスを何度もする。先輩や上司に一切相談をしない。自分から進んで仕事をやろうとしない。定時に帰る(やらなければいけない仕事があったとしても)。
というポンコツ新入社員っぷりを遺憾なく発揮しているオレはついに変わり者というレッテルではなく、ポンコツ君というあだ名を付けられているようだ。
まぁ、コミュ障、ブサ面、チビの3拍子が揃ったオレには目に見えていた結果なのだが、やることがなく(仕事が与えられない)毎日周りの目を気にしながら同じ教育資料を死ぬほど繰り返し読んでいるのはさすがに辛くなり、入社5か月にして辞めようと思っていた。
そんな時、部長がオレの世話係に主任補佐の古川紗季絵さんを当てた。
彼女はとても負けず嫌いな性格で、営業成績では毎期1位を3年間キープをしている凄腕の営業だ。そして、今年から主任補佐という役職が付いたことから部下を持たせるということになったらしい。この覇気もやる気もないオレを紗季絵さんのパワーでどうにか更生して欲しいいとのことで問題児のオレの面倒を見ることになったらしい。
かわいそうに。
「佐藤くん、よろしくね。早速だけど、お客様のところに行くから一緒に来てちょうだい。」
こんな感じでサキエさんは毎日オレを事務所から引っ張り出してくれた。
「まずは、お客様との接し方や名刺の交換の仕方を覚えてちょうだい。」
そういって、色々と教えてくれるのだが、お客様と話すときは緊張しすぎてしどろもどろ、名刺を渡すときは手が震えるわ作法が吹っ飛ぶわで大失敗ばかり、サキエさんは開始1週間で呆れかえっている。
「君ねー、何回やったらマシになるの?そんなに難しいことやらせてないでしょ。ネクタイは曲がってる、資料はいつも忘れてくる。当たり前のことが出来てないのよ、わかってる?」
オレはいつもこんな具合に怒られている。
しかし、なぜオレがこんな絶望的状況で辞めないかというとそれはサキエさんがかわいいからである。仕事が出来ずに怒られてはいるが、それは自分に非があるわけでサキエさんに非はなく、むしろ怒っているのがかわいいとすら感じてしまう。
だからオレは一切向いていないこの会社を辞めないのだ。
「佐藤くん、次の営業だけど資料を用意したらワタシの前でカバンに入れてね。あと、そこの会社遠いから泊りになるわ、日曜日に現地に入るから新幹線とホテルを手配しておいて、よろしくね。」
ついに資料の確認じゃなくて、持っていくところを確認されるとは信用0である。
「ふふ、そこの会社の近くにいい温泉があるらしいからたまには羽を伸ばしましょ佐藤くん。こういうとき営業やってて良かったてきっと思えるわよ。」
きつく当たった後に優しくするのは反則だ!かわいさ増しましで天使に見えた!
こうして、オレはサキエさんとの1泊2日の出張という楽しみなイベントを手に入れた。
そして、ついにその日はやってきた。
「古川さん、こっちのホテルです。」
「新幹線の手配とホテルの手配はちゃんとやったようね、もしかしたら野宿になるんじゃないかと少し心配してたけど、さすがに杞憂だったわね。」
しかし、事件は起きた。
「古川さん、ごめんなさい・・・。」
「なっ何でワタシとアナタが同じ部屋なの・・・?」
「いや、そのホテルの予約とかしたことなくて、男女1名ずつで予約すれば勝手に部屋を分けてもらえるのかと・・・。」
「そんなわけあるか!すみません、急遽、部屋を分けてもらっていいですか?」
サキエさんがホテルマンにお願いをしたが、今日はトライアスロンの大会で部屋が埋まっているらしく、ここは田舎で他にホテルがないようだ。
「そっそんな野宿の方がマシだわ・・。」
サキエさんひどいです。
「ボッボク、何もしませんし、なんならボクは床で寝ますし・・」
「何もしないって当たり前だ!あ~信用したワタシがバカだった・・。アンタどんだけ世間知らずなのよぉ~。」
半べそになっているサキエさんもかわいいとこんな時でも思ってしまう。
「なに、ニヤニヤしてんのよ!わざとじゃないでしょーね?」
「ちっちがいます!」
「仕方ないから部屋に行くわよ!」
こうして、オレとサキエさんは同じ部屋で1晩を過ごすことになった。