プロローグ
「ここに、判決を言い渡す。大天使補佐ナミをその役目から除し、天界からの追放を命ずる」
天界の中心に位置する元老院の判決に拘束された少女はただ静かに下を向いていた。
後ろには彼女の逃亡を塞ぐように2人の男が立っていた。
彼女の姿は項垂れているようにも泣いているようにも見える。
「何か言い残すことはあるか」
俯いていた少女はゆっくりと顔を上げた。
その少女の表情にその場にいた者たちは一瞬目を奪われた。
それは、誰もを魅了する聖母のような微笑みだった。
「滅びろ」
だが、発せられた言葉は呪いの言葉だった。
彼女が纏う空気がかわる。
「止めろ!」
誰よりも先に我に返った者の言葉に反応した男が彼女を押さえつけ、他に組みしく。
膝を折り、押さえつけられた少女は周りを睨みつける。
その目には激しい怒りが滲み出ていた。
「その者をすぐに門へ!」
「許さない。必ずお前たちを後悔させてやる!このまま平穏でいられると思うな!私は必ずお前たちを滅ぼしに戻ってくるからな」
彼女の怒声がその場に響き渡る。
だが、激しい抵抗も叶わずその場から引きずり出されてしまった。
彼女を引きずる男達は、その抵抗と彼女への恐怖に耐えながら彼女を地下の大穴まで連れてきた。
底が見えないただの大穴をここの者たちは昔から門と呼んでいた。理由は知らない。ここがどこに繋がっているのか知るのは神と神に近い存在だけだろう。
「おい、お前がやれよ」
「はぁ、お前がやればいいだろ」
大穴と少女への恐怖で男達は責任を押し付け合う。
少女は2人に聞こえるように大きなため息を吐いた。
そして、2人の手を振り払うように前は大きく出る。
男達が止める間も無く少女は穴に身を投げた。
男達の間抜けな面を見ながら少女は穴の底へと落ちていった。