第8話 冒険者ギルドに行ってみよう!
遂に俺は異世界の街へと踏み出すのだった。
門をくぐり抜けてみれば、お約束通りの中世ヨーロッパ風の街並み。
行き交う人々は独特な服を着ていたり、防具や剣を携えている者さえいた。
そしてもっとも重要と言っても過言ではない”種族”。頭から猫耳を生やした者や身体全体が鱗に覆われている者、顔自体が動物などの者が二足歩行で街中を歩いていた。
ぱっと見は差別的な事はなさそうだ。
うん、思ってた通りだ。
素晴らしいな、異世界は!
さてと、まずは冒険者ギルドを目指すかな。
俺は先ほど詰所で教えてもらった冒険者ギルドまでの行き方に沿い、歩みを進めるのだった。
2時間後
や、やっと着いた。
目の前には巨大な建物。
中からは笑い声が聞こえ、出て来る者達は武具を身に付けている。
そう、此処こそが俺が楽しみにしていた冒険者ギルド。
ここまで来るのに色んな誘惑が俺を誘い、何度も挫けそうになった。
露店の美味しそうな匂い、武具屋、魔道具店、知らない種族、もう目移りが激しかった。
そのため俺の歩みは遅々としたもので、これほどの時間がかかってしまったのだ。急げば10分程で着く距離である。
周りからはお上りさんだと見られ、いたたまれないし、フードを被っているから不審者にも見られた。
いや、しょうがないじゃん。
異世界だよ、異世界。これが興奮しないわけないじゃん?
だが俺は強靭な精神力でそれらを振り払い、ここ冒険者ギルドまで辿り着いたのだ!
異世界の定番、冒険者ギルド。
荒くれ者が集い、実力主義の集団。
楽しみだ。
そんなドキドキ感を胸に秘め、冒険者ギルドの扉を潜るのだった。
目の前に広がるのは種族関係なく、酒を飲み馬鹿騒ぎをしている人達。ゲラゲラと下品に笑い、面白おかしく楽しんでるやつら。
そうそうこの感じ!
この荒くれ者って感じが良いんだよ!
無駄に清潔感を持たれても、面白くないんだよ。
そんな冒険者達を我関せずに執務作業をこなす受付嬢達。受付嬢は美人が多いな。
でも俺の方が美人だ!
さてと冒険者登録するにはどうすればいいんだ? まぁ、とりあえず受付にでも聞けば分かるか。
そう思い、作業をしていない受付嬢のところへ行ってみる。
「どうしました?」
「……登録がしたい。どうすれば、いい……?」
「登録というのは冒険者登録でお間違いありませんか?」
軽く首を縦に振る。
「そうですか。では一通りの説明をさせてもらいます。冒険者とは依頼を受け、その依頼を達成することでお金を稼ぐ仕事です。依頼は様々で荷物運びから魔物の討伐まで多岐に渡り、雑用、採取、護衛、討伐、指名、緊急などがあります。冒険者ギルドはそれらの成功率を高めるためにランク精度が導入されています。基本的にランクに見合えば何を受けても構いませんが、失敗すればペナルティとして相応の金額が請求されますので身の丈にあった依頼を受けることをお勧めします。依頼の最中に命を落としたとしても当ギルドは一切の責任を負いません。全て自己責任となりますのでご容赦ください。一番注意してほしい事ですが、一般人への危害を加える事は重罪となります。最悪一回で死罪になりえますのでご注意ください。詳しい事は後に渡します本に書いてありますのでそちらをしっかりと読んでおいてください。それと問題を起こした時に『知らなかった』『分からなかった』等の言い訳は、一切受け付けておりませんのでご注意ください。もし文字が読めないというのであるならば、受講料が発生しますが講習を受けられますのでそこで学ぶとよろしいでしょう。基本的にはこの辺です。詳しい事は全て本に書いてありますのでしっかり読んでおいてください。それで分からない事があれば時間が空いている時にこちらに来てくだされば教えることも可能ですので。それでは冒険者登録をしますが本当によろしいですか?」
「……」
す、すげぇ……。
よくこんな長ったらしいセリフを何も見ないで言えるな。
コミュ障の俺には到底真似できない芸当だ。
尊敬するよ。マジで。
「あの聞いていますか?」
「……え、あ、はい、聞いてます……」
「そうですか。では本当に冒険者登録をしてもかまいませんか?」
「……はい」
「ではまずこの用紙に必要事項をお書きください。もし文字が書けないというのならば代筆させていただきます。もちろん別料金ですが」
「……書けます」
「そうですか。こちらのペンをお使いください」
「……はい」
俺はとりあえず用紙の内容を一通り見ていく。
「※」印は必ず記入すること。
※名前
※性別
※年齢
※種族
※武器
※魔法
出身地
自分の性格
仲間の条件
どんな依頼を受けるか
他に伝えたいこと
と、こんな感じだった。
へぇー結構色んなこと書くんだね。
レベルやスキルとかは書かなくていいのかな? この世界じゃあステータスやスキルっていう概念が無いのか?
そうだとするとスキルなんかを自由自在に選択できる俺はそれだけで結構なチートだな。
まずは名前から書くか。
ペンを取り書こうとした時、後ろからドスっと押され俺の身体は簡単に横へと飛ばされた。急な事に動転したが、なんとか受付の机を掴むことで、倒れることは免れた。
押してきた人物になにか一言言ってやろうと、キっと睨みつけてみればそこには熊がいた。
身長2m程で、驚くほどに腕の太さがあり、とにかくでかかった。
そのあまりの衝撃的な光景に先ほどまでの勢いがなくなり、押してきた人物のことをボケーと見つめるしかなかった。
俺の無言を恐怖していると見たのか、その熊はニヤニヤ笑いながら、こちらを見下すように上から言ってきた。
「どきな。”マリー”さんは俺専用の受付なんだよ。決して新人が話しかけていい相手じゃないんだよ」
と、笑いながら言ってくる熊。
それにイラっとしながらも俺は興奮を隠しきれなかった。
そう、この感じ!
新人に絡むことはお約束だよな!
そんな新人いびりに対して、こちらが実力を見せつけギルド全体が騒然となるんだよ!
そして倒した相手が上位のランクもあって、異例という処置が取られ一気にランクが上がるんだよ!
いやー良いね!
異世界に来たって感じだ!
ぶつかってきたのはイラっとしたけど、こんなお約束をしてくれたから、今では親友並みの気軽さを覚えるよ。
うん、ありがとう。ぶつかってきてくれて。今は良い気分だから見逃してやろう。
感謝しな。
そんな清々しい気分で俺はその場を離れるのだった。周りからはゲラゲラと笑い声や受付嬢が怒鳴っているがそんなことは今の俺には聞こえない。
だって今の俺は最高に気分が良いから。ちょっとやそっとじゃあ怒らない自信があるね!
あぁー良い気分!
ワンピース大好き!
テンプレは起こってなんぼでしょ!