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最強の魔物使い〜すみません、私の魔物知りませんか!〜  作者: 漆原 黒野
プロローグ 〜異世界に来て〜
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第7話 取調べされてます

取り調べ……。

ガクガクブルブル。

 

 部屋の中には机と椅子が二つあり、片方の椅子には普段着と思われる服を着た40歳前後の男性が座っていた。


「どうしました?」

「あぁ、このフードの人が街に入りたいそうだが、身分証を持っていないらしく、ここに連れてきた。それで彼女が来たのは〈戦乱の森〉からなのです」

「……了解しました。とりあえずそこに座ってください」


 無言で空いている椅子の方に座る。


「それでは、まずお名前は?」

「……ユキ」

「ユキさんですね。これから少し質問させてもらいます」


 コクリと首を振る。

 それを見て男性も一つ頷いて、机に置いてある水晶のような物を示した。


「これは簡単に言ってしまえば嘘発見機という物です。嘘をつけば光ります。そのためこれからの質問には嘘偽りなく答えてください」

「……ん」

「それではどちらの手でもかまいませんので、この上に置いてください」


 冷静に言われた通りそれに手を置く。

 だが俺の心はそれどころではなかった。


 やばいやばいやばいやばいやばいやばい、やばい!

 ど、どうしよう!?

 そうだよここは異世界だぞ! それならこんなお約束のアイテムもあって当然じゃないか!

 どうする? どう言い訳する?

 でも森で暮らしていたって言っちゃったし、マジでどうしよう!?

 せめて案内してくれた兵士がどっかに行ってくれないかな! そうすればまだ何とか誤魔化しようがあるのに!


 考えろ考えろ俺。こいうイベントの時はどうすればいい。

 思い出せ、前世でのオタク知識!

 …………。

 ……………………。

 ……………………………。

 ん、まてよ……?

 俺は森で目覚めた。なら森で暮らしていたというのも嘘ではない? いや、さすがに無理がありすぎる。

 でも他に思い浮かぶこともないし、どうしようこれ。いや、冗談とかじゃなくてマジで。


「それでは最初に、何の目的で街に入りたいのですか?」

「……なんで? …………人と関わりたいから……?」

「……人と関わりたい? どうしてですか?」

「……特に理由は、ない……。でも、街で暮らして、みたいのは、本当……」


 ちらりと魔道具を見て反応が無いのを確認したのち、紙に何かを書き込んで行く。

 マジか。メモまで取るのかよ……。

 本当にどうしよう?

 俺氏絶対絶命。


「ユキさんの出身地と年齢は?」


 出身地? 日本?

 いや、俺はこの世界ではどういう扱いなんだ?

 俺の精神は日本の桐ケ谷秋人。体は〈Fantasy・of・life〉のユキ。

 どちらに反応するんだ?

 よく分からないからこれは分からないで良いだろう。


 じゃあ年齢は?

 ステータスには7歳と出ていた。これは多分だが、俺が〈Fantasy・of・life〉をプレイしていた時間だ。

 俺の記憶が正しければ〈Fantasy・of・life〉が発売されたのが8年ほど前。そして俺が遊んだのは7年と半年前になる。つまり俺が7歳なのはなんとなく分かる。

 じゃあこの体は〈Fantasy・of・life〉の物なのか?

 本当によく分からないな。クソ考える時間が無い。

 そろそろ答えないと怪しまれる。もうこうなれば自棄だ。


「……出身地は、分からない……。年齢は多分……7歳だと思う……」


 どうだ、魔道具は反応あるか。しばらく経っても反応が無い。

 よ、良かった。


「なるほど……。7歳にしては少し成長が早いと思いますけど、その辺は分かりますか?」

「……分からない……」


 確かに7歳で163cmはおかしいな。

 成長できるのかな?


「ふむ……。では何が分かるのかな?」


 なるほど分からない事が多ければ、分かっている事を喋ってもらった方が効率が良いな。

 分かることか……。


「……私は強くて、アイテムを、一杯持っている……。あとは……私を支えてくれる、子達がいる」


 こんぐらいしか分からないよ。ユキのことなんか。

 あと綺麗。


「なるほど。ちなみにアイテムとは一体どんな物ですか?」

「……色々。……力が増える、腕輪だったり、足が速くなる、靴だったり。とにかく、いろんなアイテム……」

「それは今君が履いてる靴などですか?」

「……違う」

「……ではどこにあるのですか?」


 これは言っても良いのか? でも異世界なんだから、そいうのはあるよな?


「……アイテムボックス」

「なるほど。ではそのアイテムボックスの中に危険な物はありますか?」


 良かった。珍しいらしいけど無いわけじゃないみたいだ。


「……多分ある。……でもどれが危険で、どれが危険じゃないか……分からない」

「なるほど……。ユキさんは犯罪を犯したことがありますか?」

「……無い」

「そうですか……」


 そう言ってしばらく考え込むように顎に手を当て、眼を閉じる男性。それから2、3分経ったころ男性は眼を開けこちらを見つめてきた。


「話を聞いてみるといくつか怪しい点があるように見受けられますが、ユキさん自身は人に危害を加えようと考えているのかな?」


 首を横に振る。


「申し訳ないが言葉で正確に答えて欲しいんだ。でないと魔道具が判別できないからね」

「……私は人に危害を、加えるつもりは無い。……でも売られた喧嘩は、買う」


 しっかりと男性の眼を見て意思をはっきりと示す。

 俺は自分から誰かを傷つけようとは思わないが、売られた喧嘩は買う。これは絶対だ。

 俺が自由に暮らすために。


「なるほど分かりました。うん、大丈夫そうですね。君の通行を許可しよう。ですが通行料の1000コルを払ってもらいます。お金は持っていますか?」


 1000コル。

 そもそも価値が分からない。日本と変わらないのか? いやそれだと少し安すぎるな。


「……持ってない」

「借金としてお金を保留することが可能です。ただし3日以内に払ってもらわないと強制的に奴隷となりますけど、どうします?」

「……アイテムを売ることは、可能?」

「こちらで引き取ることは出来ませんが、冒険者ギルドや産業ギルドなら引き取ってくれますよ」

「……なら、冒険者ギルドで、売る」

「そうですか。お金が出来ましたらこちらまで持ってきてくだされば結構です。それと早めに身分証を持つことをお勧めします。そらではこちらの紙にサインをお願いします」

「……ん」


 チラリと用紙を見てみると、見たことがない文字だが、なんとなく書けそうな気がした。

 やっぱ異世界にありがちに話せるし、読書きができるのか。至れり尽くせりだな。


 紙に自分の名前を書く。

 一瞬桐ヶ谷と書きそうになった。


「あ、最後にフードをとってもらって良いですか? 一応素顔などを記録しないといけませんから」


 首を縦に振ることで了承の意思を返す。

 多分ビックリするんだろうな。俺の顔は美つくしすぎるからな。

 と、そんな相手の反応を楽しみにしながら顔にかかっているフードを外す。


「「!?」」


 目の前の男性と横に控えていた兵士が息を飲むのが聞こえる。

 そのままじっとこちらの顔を凝視続ける。

 唐突にポツリと零す。


「……綺麗」

「……美しい」


 しばらく呆然と立ち尽くしていて、話が進みそうにないのでこちらから話しかけてみる。


「……あの、大丈夫ですか……?」


 不思議そうに、可愛らしく小首を傾げるのがポイントだ。ボッと火が出そうなほど顔を赤くする二人。


 どうやら俺は男を誑かせることが出来る悪女みたいだ。

 お金に困ったらこの手を使うのもありかもしれない。

 だってこいつらを見ていると、騙してもそれが本望って感じがするし。いやまぁ、男を誑かして何かしようとする気は無いんですけどね?


「し、し、失礼しました! あ、あまりにも美しいものだから見とれてしまい……。そ、それで、えーっと、あの、すみません!」

「あ、あの、自分も貴方の美しさに見とれ、その、呆然としてしまいました!」


 なんか必死に言いつくろってきた。

 まぁ、それもしょうが無いよね! なにせこの俺が丹精込めて作ったキャラなんだから。

 鼻高々に思いながらも、小悪魔的に返す。


「……クス」


 俺の小さな笑い声に二人はさらに顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「……あ、別に馬鹿にしているとかじゃなくて、なんか面白くて、つい。ごめんなさい」


 そう言って頭を下げる。

 この部屋には照明しかないにも関わらずスポットライトが当たったかのように光輝く。

 キラキラと白雪のように白銀の髪が舞い、さながらここは女神が降り立った聖地のようだった。


 それを見て唖然としている兵士達だったが、しばらくすると正気に戻ったのか表情を戻し、仕事用の顔になった。


「……失礼しましたユキ様」


 そう言って頭を下げる二人。

「さん」付けから「様」になった。やったね昇格だ! ……なんて冗談が言えるような雰囲気じゃない。


「……別に、気にしてない」

「そうですか、ありがとうございます。では顔を記録させてもらいます」


 顔の記録はすぐに終わり、俺は街への通行が許された。……顔の記録変な事に使われないかな?


 そして俺は思った。あまり顔は見せないようにしようと。いちいちあんな反応されるとこちらが困る。


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