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最強の魔物使い〜すみません、私の魔物知りませんか!〜  作者: 漆原 黒野
第1章 戦乱の森
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第38話 命の灯火を燃やせ!

 

 化け物が上下に斬り裂かれ、誰もが倒したと思った瞬間、それは起こった。

 斬り裂かれた表面から、ドロドロとした液体のようなものが溢れ出し、形を作り出したのだ。


 上半身では、表面からクラゲのように足を何百本も生やし、自力で立ち、側面から鞭のように触手が蠢いている。

 下半身では、表面から触手を生やしまくり、先端には爪や牙、針、顔、眼、尻尾など様々な種族の特徴を生やしていた。


「ま、まさか分裂だと……!」


 スライムのように分裂し、数を増やした『集合生命体』。

 これで化け物が2匹になった。


 状況はそれだけに止まらず、森からは新たな敵が現れた。

 ブツブツと丸い球体がいくつもくっつき、浮遊している”プリズムマグナム”。

 紫色の霧状生物”ポイズンガスト”。

 身体が赤黒く棍棒を持つ変異種の”サイクロプス”。

 八つ足の刃と猛毒を持つ”アサジンスパイダー”。

 すべて危険度AAランク以上。


 そして化け物2体が動き出し、触手を振り回し始めた。

 だが進行速度は遅い。

 ブレインはユキの元まで一旦下がり、構える。


「……【範囲拡大】【効果UP(大)】【障壁】【氷河】【アイスウォール】【オール・オブ・ブースト】【タイムヒーリング】【マジックブロック】【呪術反射】【呪術抗体】【攻撃UP(中)】【防御UP(中)】【神経強化(大)】【肉体強化(大)】【魔法固定】。時間は、30分くらい、持つから」

「サンキュー」


【範囲拡大】【効果UP(大)】で【障壁】をブレイン全体を覆い、時間稼ぎと分断で【氷河】【アイスウォール】を発動。

 あとはブレインの支援魔法だ。

 ちなみに【魔法固定】で約2倍近い時間、支援魔法がかかったままになる。

 本当はもっとかけたかったが、時間がないため、今はこれで良しとしよう。


「……私が、上半身を、やる」

「了解」


 攻撃手段が乏しそうな上半身をやる事にする。

 見た感じ踏み潰すくらいしか出来無さそうだし。

 さて、どこまでやれるかな?


「命の灯火よ、凍れ。永遠の眠りにつけ。【アイスクロック】」


 手始めに丸ごと凍らしてみる。

 一応全体を凍らせる事は出来たが、ピキピキと音が鳴り響き、氷にヒビが入って行く。

 結果的に怪物を止められたのは30秒だけだった。

 氷が崩れ、キラキラと散って行く。


「……流石に、無理か」


 俺の攻撃手段は先日取ったばかりの〈氷魔導〉のみ。

 あと出来ることといえば弱体化させる事だろう。

 さてと、どうやってこの状況を覆すか……。


 とりあえずチマチマと削って行くか。

 俺は無詠唱で【アイスショット】を放つのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ガランは戦慄していた。


「……おいおい、これをどうしろってんだ……!」


 バルス、ミカ、イスカがいない状態であれらを倒せって?

 魔物はあれだけじゃないんだぞ!

 Aランク以下の魔物も腐る程いる。

 いくらなんでも無理だろ!


「……クソったれ! どうとでもなれ!」


 ガランは走り出す。

 目標は棍棒を持った変異種のサイクロプス。

 この中で唯一力で押してくるタイプだ。


(さっさと倒さねぇと他の奴らがやばい!)


 その時”破滅の歌”が響いた。

 それは美しくも儚い、聖女のような声だった。


「……おいエリン、お前……」


「赤き星の誓願の誓いにて、我ここに灯火を照らそう。

 死の翻弄、破壊の時流、無の矜持、赤き誓い。

 全てを破壊する赤き光よ、”私”に力を宿したまえ。

 我の命を、魂を、その身に捧げよう」


 それはエリンが創り出した魔法。

 正確にはエリンが名称をつけた魔法(・・・・・・・・)


 ”魔力暴走(イグニースト)”。

 またの名を”自爆”。


 魔力を暴走させ爆発を引き起こさせる。

 自分の中にある魔力を起爆剤に爆発を起こさせるということだ

 それは自分の命を削ると同義。


 元々魔力暴走(イグニースト)というものは存在していた。

 自分の身に余る魔力を一点に集中させ、制御を失った瞬間に起こる爆発を魔力暴走(イグニースト)と呼んでいた。

 だがエリンが魔力暴走(イグニースト)を意図的に発動させ、攻撃に転用したことで、それを”攻撃”としての意義を見出したのだ。


 その名も【バーストインパクト】。


 命を捨て、爆発を起こす。

 だがエリンの場合、高い魔法適正に高い爆発系統の恩恵を持つため、その尋常成らざる爆発に耐えられるのだ。

 耐えられると言っても生きながらえることが出来るというだけで、自身も爆発に巻き込まれるのは変わりない。


【バーストインパクト】を自発的に発動し生きながらえることが出来るから、エリンはSSランクなのだ。


(身体が熱い……。内側から破裂しそう……! でも……)


 チラリと前方で戦う白銀の煌めきを見る。


(まだだ。まだ、私は行ける……! ここで倒れるわけにはいかない! ユキは、ユキの魔法はこれと同等の魔力を魔法に変えた! それなのに私ときたら、魔力を溜めているだけなのに、なんだこの体たらくは! もっとだ。もっと魔力を!)


「ぐはっ」と喉から上がってきた血塊を吐き出す。

 体の中で異常なまでに魔力が膨れ上がり続け、耐えきれなくなったのだ。

 それでもエリンは詠唱を止めることをしない。


「命、朽ちよう、と、はぁ、はぁ、我が、意思は、不滅なり。

 クッ、屍の、侮辱、骸の怨嗟、ガハッ、はぁ、虚構の、無鎖、火怨の、訪露」


【バーストインパクト】は体内で魔力を溜めることで、その威力を発揮する。

 例えば、今エリンの中で溜め込まれている魔力を外へ出した場合、その威力は極端に下がる。

 一点に集中しているからこそ、尋常ならざる威力を発揮するのだ。


 その魔力を使い魔法を撃てばいいと言う意見はあるだろう。

 だが根本的に勘違いをしている。

 自身の魔法で倒せないからこそ、自分を犠牲にして莫大なエネルギー爆発を起こしているのだ。


「我己の、伝想グハッ、はぁ、はぁ、身上の紅蓮、ン、はぁ…赤き蓮火の、咆哮……」


 ここまで何かに固執したのはいついらいだろうか?

 村を飛び出した時くらいな気がする。

 そこからは生きることで精一杯で何かに固執する暇なんてなかった。


 Sランクになってからは虚無感や喪失感などで何をして生きて行けばいいのか分からなくなっていた。

 SSランクになってもそれは変わらなかった。

 自分が何をしたいのか、生きる意味さえ分からなくなってしまっていた。

 その癖、臆病で泣き虫で寂しがりなどうしようもない人間だ。


 でも今は頂に届きたい。

 あの輝きに少しでも近付きたい。

 そう思える。


 その時幻聴が聞こえた。


 ————貴方はどうして魔法を求めるの?

 強くなりたいから。

 誰にも負けないくらい強く。


 ————なんで強くなりたいの?

 強くないとただ奪われるだけの弱い自分になってしまう。

 私の存在意義さえもなくなってしまうから。


(……あぁ、私も遂にイカれたか……。こんな幻聴を、それに目の前に人影さえ見える。はは、まぁ、イカれたからといって何が変わるわけもないか……)


 だが、これは本当に幻聴なのだろうか?

 目の前にぼんやりと映る影は幻覚なのか?

 分からない……。

 私は一体何をしている?


 ————力を求めてどうするの?

 ……分からない。


 答える意味なんてないけど、でも答えなければいけない気がした。


 どうするか、か。

 そんなこと考えたこともなかった。

 ただ私は生きるために力を欲した。

 じゃあ生きるための力を持った今の私はどうしたいの?


 そんな時遠くの方で氷が(きらめ)いた。


(……あぁ、行きたい。頂に、ユキの隣に行きたい……)


 そう思った。

 純粋な願い。


 そうか私はユキの隣に行きたいのか。

 スーっと胸に染み込んでくる。


 胸が高鳴る。

 外の世界を幻想していたころの幼い時の様に。


 私の心を掴んで離さない、あの眩い輝きに胸の高鳴りを抑えることができない。


 自覚した瞬間自分の中で何かが変わった。

 今まで漠然とした虚無感がなくなり、今では生気が湧水の様にあふれ出してくる。


 私は強くなりたい!!!


『いいよ。私が力を貸してあげる。頑張りなよ』


 今度のは幻聴なんかじゃない。

 耳元で慈愛の篭ったような、面白がるような声。

 そこには確かな意思があった。


 そして目の前にいた小さな影が私と同化するように入り込んできた。

 瞬間体の奥底から力があふれ出てくる。


(貴方は一体……)


『大丈夫。また会えるから。その時までに力を付けといてね、エリン♪』


 今ここに新たな”英雄”への道のりへと歩む者が誕生した。

 それは後にこう呼ばれるようになる。


 炎の化身〈火炎の聖火(イフリート)〉と。


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