第26話 女神降臨
私は女神。
人々を導く者である。
的な?
そして女神が現れた。
白銀の髪を靡かせ、悠然とこちらを見据える一人の少女。
天使を思わせる羽衣を纏わせ、それを強調するかのように腕や脚にも似たような装備を身に着け、王者の如くその頭部には冠を着けた、まさに女神のような姿だった。
さらに、その可憐さを極めかせるかのように、背後にそびえ立つ氷山が少女の君臨を祝福するかのように煌めく。
その姿に誰もが魅了され、息一つ聞こえない。
固唾を飲み込み、ただその佇まいを眺めるのみ。
(あぁ、なんと美しい……。これが神に選ばれし者なのですね)
そうして私、ミカ・セレインは思う。
(なんとういうことでしょ。聖職者になって早15年。これほどまでに貴方様を近くで感じたことはございません。きっと彼女は貴方様が使わせた者なのでしょう。この窮地をお助けなるために。なんと慈悲深いお方。これからも貴方様に忠誠を……)
と、狂信的な思考のミカであった。
ちなみに現在27歳である。
そう祈りを捧げるミカの元に神のお告げが告げられる。
「冒険者諸君!」
その声は驚くほど辺りに響き渡り、人々を魅了した。
「今この都市は危機に陥っている! 魔物の群れが押し寄せ街を破壊しようとしている! だが私は抗う! 私と共に死地に飛び込まんとする勇気ある者は前へ! 人々を救わんとする者は剣を取れ! その手に持つ力を指し示せ! 」
決然と言い放った女神は杖を天に掲げ、その身に宿る魔力を神に供物を捧げるが如く、天高く昇らせる。
天高く昇った魔力を代償に魔法陣が現れ、空を覆い尽くした。
空から光の雨を降り注いだ。
それに触れた瞬間、身体の奥底から力が湧き上がってきた。
暖かく、心地良く、包み込まれるようにずっとこうしていたいと思えた。
(まさか! これは【オール・オブ・ブースト】! それも無詠唱で! さらに広範囲に! あ、あり得ない! こんな事ができるなんて、”貴方様”以外にありえない! まさか彼女がそうだと言うの!?)
【オール・オブ・ブースト】、全ステータスを10%UPする支援魔法。支援系の最高峰の魔法である。
さらにユキの魔法は装備のお陰で全ステータスを82%UPする事が出来る。
まさにチートだ。
驚くミカであったがユキの魔法は終わらない。
立て続けに魔力が天に昇り、魔法陣の形、色が変わる。
赤、青、黄、緑、紫、白、色鮮やかに、その時その時で形が変わる魔法陣。
神秘的で幻想的な光景に誰もが見惚れてしまう。
だがその魔法一つ一つにどれほどまでに力が込められているのか、それを正確に推し量ることの出来る者はいない。
それでも一つ一つが強力なものだと言うことだけは分かる。
それをこんな1000人近くもいる人達、全員にかけるなんて……。
(あぁ、なんと美しい……)
ミカの顔は陶酔しきり、頬はだらしなく緩み、口元からは涎が垂れ流し、眼は狂気に満ち、心臓はドクンッドクンッと鳴り響いていた。
魔法をかけ終わった女神は悪戯っ子のような笑みを浮かべ言った。
「これが終わったらギルドのお金で宴でもやろうか。もちろん報酬とは別で」
一拍の間を置き、冒険者達は天へと武器を捧げるが如く、高く上げた。
「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」
辺りに冒険者達の雄たけびが響き渡たる。
気分良くしたのか、女神が笑顔で言う。
「さぁ、行こうか!」
少女は前を向き、杖を天に掲げ、勢いよく振り下ろした。
同時に氷山が崩れていき、魔法の残火が煌びやかに散っていき、その中を冒険者達が駆けていく。
キラキラと散りゆく残火は美しく、幻想的で、我々に夢を抱かせる。「もしかしたらなんとかなるかもしれない」と。
それは幻想で現実はもっと残酷だと言われるかもしれない。それでも今この瞬間は夢を見る。その夢を実現しようと武器を手に持ち、走るのだ。
まさに英雄譚の一ページのように、女神のように美しい一人の少女によって、絶望的な状況から一縷の希望を見出す。
(……私は貴方様が遣わされた彼女に全てを捧げます。どうか私にご加護を……)
私は祈りを捧げる。
身も心も、私自身の全てを捧げます。
その瞬間——
ドクンッ!
強く、強く強く心臓が唸った。
今、世界に芽吹いてはいけない芽が芽吹こうとしていた。
だがミカはそれに気付かない。
その先にあるのは破滅か希望か、それはまだ誰にも分からないのであった。




