第24話 私は強い。でもアレには勝てない……
グラグラと地面が大きく揺れ動く。
戦乱の森からはチラチラと動く影が見える。
正直怖い。怖くて怖くて堪らない。
今すぐにでもここから逃げ出したい。
でもそれは私のプライドと地位がさせない。
SSランク。
名誉なことだ。
光栄だ。
ただの村娘だった私がここまでのし上がれたのは奇跡だ。
どんなに気丈に振るまっていても、私の本質は変わらない。
臆病で、泣き虫で、我儘で、怒りっぽくて、夢見がちな、ごく普通の乙女でしかないんだ。
いつも思う。
こんな思いをするくらいならさっさと引退したほうが良いのではないかと。
でもそれと同時に思ってしまう。
「私より強い奴なんているの?」と。
傲慢かもしれない。
でもそう思ってしまうのだ。
まぁ、本当のSSSランクの冒険者の実力を知らないからこんなことが言えるんだけど……。
私が見たことがあるのは支援型の魔法使いだ。それも能力を封じた状態でだ。
そのため私はSSSランクの実力を知らない。
確かに強いのだろうけど、それでも100回に1回くらいは勝てるんじゃね? と思う。
事実SSSランクに一番近いと言われるブレインなら10回に1回程度の割合で勝てると思う。
私が絶対に勝てない。
次元が違うと感じた存在を見たことがない。
だから私は傲慢になれる。
だから自分より下の者を見て優越感に浸れる。
なんたって私は強いから。
それ故に意味を見いだせなくなってしまったけど。
それでも死んでしまう可能性があると分かると、こうして子供のように怯えてしまう。
情けない。
「ふぅー」
落ち着け。
大丈夫。私は強い。
こんなところで死なない。
大丈夫大丈夫大丈夫…………。
念仏のように、自分に暗示をするかのように繰り返し反芻する。
側で感じる暖かさを確かめる。
(よし、大丈夫! なんたって私は強いんだから!)
そう意気込んだ瞬間、肩に誰かの手が置かれた。
「——!?」
ばっと振り向いて見れば、そこにはブレインが立っていた。
「あーっと、驚かせたなら悪いな。でも声をかけても反応がなかったからさ」
と、右手で後頭部を掻くブレイン。
集中していたためだろう、声なんて全く聞こえなかった。
「え、あ、ごめん! 私も集中しちゃってて……」
「あー別に構わないよ。それよりアレ」
ブレインは指をある方向へと向けた。
「アレ?」
ブレインの言うアレというのが分からず、指さす方向に顔を向けてみる。
そこにはフードを被り、手には豪華な杖を握っている人物がいた。
ソレを見た瞬間全身の毛と言う毛が総毛立ち、汗が噴き出した。
私は無意識に一歩後ろへと下がる。
な、なんだあれは……化け物……。
「……エリンも感じたか。アレがギブルの言ってた奴なんだろうな。まったく恐ろしいぜ……」
そう、なのだろう。
ギブルが「よく分からない」と評したように、私にもアレは分からない。
もう一度フードを被るソレに眼を向ける。
今まで感じたことがない力の奔流。
ただそこに居るだけなのに自然と足が後ろに下がってしまう。
荒れ狂う存在。
先程私が誇っていた自信が粉々に砕かれた。
アレには絶対に勝てない。
意識していなければ、自然と地に伏してしまいそうになる。
いや違う。
伏すのではない。
跪いてしまいそうになるのだ。
ソレの存在が恐ろしいのは、力や恐怖だけではなく、人を引き付ける神秘的な力の質であった。
そう、例えば”神”のような神聖的なものがそこにあった。
だが、そんな力を内包しているにも関わらず、誰一人としてソレに見向きもしない。
「……なんで、誰も、アレに、反応、しないの……?」
いつの間にか呼吸が止まっていたのだろう。
息が苦しく、言葉が絶え絶えになってしまう。
「……多分だけど、アレの力を感じ取っているのは俺ら二人だけだと思う」
「な、なんで! あれほど凄まじいのに!」
「……感じ取れるからこそ、その凄まじさが分かる。でも感じ取れなければ何も無いのと同じさ。現にギブルも触れてから気付いたみたいだしな」
「……なるほど。つまりある程度感知能力に長けていないと分からないってことね。でも、そうすると少し変じゃない? 感知能力ならAランクの”ファイスト”がいるのよ?」
エリンはちらりとファイストの方を見てみるが、普段と大して変わってないように見える。
もちろんこれからの戦いに向けて表情は硬いが、それでもアレを見て正常でいられるはずがない。
現に私もブレインも表情が強張り、手足が震え、鳥肌が立っている。
「……さぁ、そこまでは分からないけど、でもヤバいというのは確実だね」
「……えぇ、気を付けときましょう。もしかしたら今回の件と関係があるかもしれない」
ユキの知らないところで容疑者候補として上がっていたのだった。
ちなみにユキの力に気付いたのは、ユキ自身が戦闘態勢になっていたため、魔力がピリついていたからです。あとはユキの中にいるラムの微かな気配を嗅ぎ取り、それが神と誤解したのです。
なぜエリンとブレインだけが気配を嗅ぎ取ったのかは後々のお楽しみです!




