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 エヴァはとても艶かしい肢体の持ち主。



 豊かな胸に折れそうなほど細い腰。小さなお尻にしなやかな曲線を描く脚。しっとりと滑らかな絹肌。庇護欲をそそるか細い撫で肩。細い頸。


 顔の貌は美しいのだが、豊かな波打つブロンドにきめ細やかで真っ白な肌。桃のような頬。ほんのりとピンクのぷっくりとした唇。潤み揺れる瞳。


 垂れぎみの目尻に流れる長い睫毛と涙ぼくろは、美しさを愛でるよりもエロティックな欲を掻き立てる。




 これまでに幾多の英傑を籠絡してきた伝説の傾城と言われても信じるであろう妖艶さ。




 今宵は彼女の豊かな胸をこれでもかと強調するような胸元の開いたドレス。淡いゴールドのマーメイドラインが細い腰からヒップまでの淫靡なくびれと膝までをぴったりと包む。


 膝下からの長い脚はスリットから放たれて白い肌をこれでもかと見せつけている。


 真っ赤なハイヒールでヒップをくねらせるように歩く姿は明らかに異性を誘っているようだ。



 彼女を見かけた男性は目を細めてゴクリと喉を鳴らすか真っ赤に上気させた顔を俯かせて前傾姿勢でその場を離れるかのどちらか。




 貴婦人たちからはあからさまな侮蔑。


「まぁ、恥知らずな。あんなに身体のラインを強調しなくても、ねぇ。どちらの殿方が連れて来たのかしら」


「好色で有名なレスター伯と話してらしたわ。彼の愛人のひとりかしら?胸元をあんなに出してお下品ですこと。あの脚もみっともない」


「商売女を連れて来て良いところではありませんのに。主宰の王弟殿下がいらしたらお怒りになって追い出すに決まってますわ」






 王弟殿下の離宮で開かれているパーティーは、表向きは通常の懇親会といった名目ではあるが彼が可愛がる甥、この国の王子の妃探しがその実のところ。


 第一王子の妃が依然見つからず周囲は焦っていた。第一王子は御年二十三。男性でも責任ある貴族であれば二十五歳までには結婚するのがこの国の風潮である。



 普段は夜会に出ないような、王国中の深窓の令嬢までを集めて王子に引き合わせるのが今宵のパーティーの主旨。





 エヴァは商売女ではなく、貴族の娘であった。王子の妃になるつもりは全くないが、王弟からの招待状を無視することはできない。


 パーティーには全く興味がなく好奇の目線や侮蔑を避けてエヴァは庭へと出ることにした。パートナーのトーマスは好きな人を見つけてどこかへ消えた。庭には酔いを覚ますためにそこここにベンチが設けられている。



「美しいレディ、少しお話でもいかがですか?」


 ベンチで休んでいると不躾に話し掛けてくる男性がいた。名乗りもしないなんて無礼な、そう思い無言で男性の方を見ると許可する前に隣に腰掛けている。


 とても整った美しい容貌の男性である。プラチナブロンドの超美形。豪奢な礼装から身分が高いことが伺える、というかエヴァは見たことがあった。デビュタントの時だ。たしか、第二王子のディラン?


「胸が白くてたわわだね。細い腰も、たまらないな。やっぱり話よりも触れあいたいな。休憩室に行こうよ。君なら僕の愛人にしてあげてもいいよ」


 いや、ちょっと待って!鼻息荒い!なにこのひとこわい!休憩室とかよりも既に両肩掴まれて押し倒されているんですけど?

 必死に両手で胸を隠す。怖くて声が出ない。


 怯えて荒い呼吸を洩らす唇と大きく上下する胸は官能的で、余計にディランの目を獣のように爛々とさせた。



 涎を垂らさんばかりのディランの唇がエヴァの紅く染まる滑らかな首筋に吸い付こうとする。






「ディラン!何をしているやめろ!」



「に、兄さん、ちょっとまって、触るだけでも……いや、ほら、あれだったらちゃんと恋人になってもらっても」


 兄さん、と呼ばれた男性がスパーン!と脱いだ靴でプラチナブロンドの超美形の頭を張り倒す。



「ご令嬢に無体な真似をするな!自重しろディラン!」


「え?好色の伯爵に連れて来られた商売女だってエレイス男爵夫人たちが……」


「馬鹿が、よく見ろ!泣いて震えているではないか。商売女でも合意もないのに不埒な真似をしてはならん。女性を大切にしろとあれほど……もう戻れディラン!謝罪も出来ぬなら私の視界に入るな。目障りだ」



 ディランは不服そうに、夜会の会場に戻って行った。


 第二王子の兄、つまり今宵の主役第一王子はベンチにうずくまるエヴァの横に跪くととても申し訳なさそうな顔をして、自分の上着をエヴァに掛けた。泣き顔を隠してくれてるようだ。



「大丈夫ですか?私は第一王子のアンドレと申します。弟が迷惑を掛けて申し訳ない。謝って許してもらえることではありませんが……」


 淡い茶色の髪に茶色の瞳、人の良さそうな柔らかい面立ちの第一王子、アンドレが深々と謝罪をした。



 先程とは打って変わって、とても柔らかい声と優しい口調で。その声だけで癒されそう、とエヴァは思った。


 しかし違う理由で先程よりも胸の鼓動が高まる。



「今宵はもう夜会という気分ではないでしょう?こんなに綺麗に着飾っていらしたのに本当に申し訳ない……馬車までお送りしましょうか。歩けますか?」



 答えることもできずにぽーっと自分を見上げるエヴァを、アンドレは「失礼しますね」と優しく声を掛けて抱き上げた。



「後日、改めてお詫びさせてください。貴方の名はなんと?」


「エヴァ・シャロンと申します、アンドレ王子殿下」


「ではエヴァ、あなたのおうちの馬車まで案内してくださいね」



 はい、とエヴァは真っ赤な顔で、絞り出すような声で応えた。


 そんなエヴァをアンドレ王子は微笑んで見ると、離宮の前庭へと足早に歩き始めた。




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