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異世界のサムライ  作者: ヨシヒト
エスト大戦編
332/462

第332話

 人も魔族も区別なく、ただ「帝国から逃れる」という想いの下で団結する一同。

 その中心に、黒騎士ヘルガの姿はあった。


「……来たか」

「あぁ。そちらも無事だったようだな」

「危ういところではあった。が、天は私を見放さなかったらしい」


 先の演説の際に見せていた高揚は鳴りを潜め、ヘルガは静かに呟いた。

 遠目で見た時と同様に、彼が怪我を負った様子はない。勇者ヒカルという難敵と刃を交えたにも関わらず、傷一つ負っていないのだ。


(いったい、どんな手品を使ったのか)


 ヒカルが宿す力――時空の加護は、端的に言えば規格外の代物だ。

 ただ刃を打ち合わせることすら拒む、圧倒的な膂力。数秒程度とはいえ、高精度の未来視を可能とする魔眼。予備動作をほとんど必要としない、転移能力。

 その内の一つだけであっても、容易い攻略は望めない力だ。それらを、ヒカルは全て揃えている。


(ただ腕が立つだけでは、抗えるはずがない。何か特別な力があるのか、それとも――)


 首を横に振る。

 今は、それを吟味している場合ではない。


「現状は?」

「見ての通りだ。ひとまず使えそうな者をまとめた。後は、この包囲網を突破するだけだ」

「……包囲網だと?」


 問い返せば、ヘルガは即座に首肯する。


「帝国は始めからこのつもりだったのだろう。兵を伏せ、戦に紛れて周辺を囲んだ。もはや、私たちに逃げ道はないということだ」

「その割には、諦めていないようだが」

「当然だ」


 強気な口調。

 その声音から、ヘルガが現状を一切悲観していないことを察知した。


「打破する策があるんだな」

「策、と呼べるほどのものではない。だが、勝機はある」

「聞かせてもらおうか」

「そう難しい話でもないがな」


 言いながら、ヘルガは指先を立てた。

 それが向くのは、北――エスト高原と北地とを隔てる、険しい岩山が並ぶ地だ。


「……向こうへ抜けるのか」

「それが一番、勝算が高い」

「道理だな」


 考えてみれば、簡単なことだ。

 帝国軍は、同盟軍と魔王軍の両方を敵に回した――とはいえ、その本拠地を大陸南方に置く、人間の国家だ。

 仮に残党を出したとしても、北地に逃げられる分ならば軽傷。ゆえに、北方面への手配は薄くてもおかしくはない。


(死に物狂いでぶつかれば、活路が開ける――かもしれない)


 ちらりとノアに眼を向ければ、小さく頷き返された。

 策とも呼べない策。だが、何も講じないよりは遥かにマシだ。


「いつ決行する?」

「すぐにでも。ここも、直に帝国軍が押し寄せる」


 言われて辺りを見渡せば、続々と兵たちが集まっているのが分かる。ここに数が集まっているということは、それだけ帝国軍が近づいているということだ。

 兵たちの顔を眺めていく。

 現状に対する戸惑いや疲労は色濃い一方で、士気そのものは高まっている。

 これならば、帝国軍と戦うこともできるだろう。


「分かった。ならば、俺たちも備えるとしよう」

「あぁ。他の話は、ここを抜けた後に」


 首肯する。

 ヒカルとの戦いの話。隣にいるノアについての話。陣を敷いていたはずの魔王軍の話……。

 積もる話はまだまだあるが、悠長に談笑している暇はない。


「行こう、ヤマト」

「あぁ」


 ヘルガはふっと視線を外し、戦前の精神統一へ戻っていく。

 その姿を見届けてから、ヤマトはノアと連れ立って、兵たちの入り混じった雑踏の中へと姿を隠していった。

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