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異世界のサムライ  作者: ヨシヒト
竜の里編
286/462

第286話

「―――」


 声は出ない。ただ顔が苦々しく歪むのが分かった。

 クロの言葉が真実である保証はないし、それどころか当てずっぽうである可能性の方が高いだろう。そして恐らく、クロの狙いは時間稼ぎにある。彼が何を語ろうとしても、ヤマトがアナスタシアに対して疑念を覚えることはないのだから、さっさと斬り捨てるのが正解。

 そう理性が判断を下しているというのに、クロが語ろうとしている言葉から耳が離せなかった。


「より正確に言うのであれば、彼女の標的は“白”を始めとする至高の竜種。貴方がここに来たのは、その一手でしょうか」

「何を根拠に」

「貴方にも話していない、彼女が秘める目的を知っているからですよ」


 常ならば単なる法螺吹きと一笑に付していただろう。

 だが、妙なほどに自信満々なクロの言葉には、何か確かな根拠があるのかと疑いたくなるような重みがあった。

 惑うヤマトを他所に、クロは朗々と言葉を続ける。


「彼女は聡明かつ大胆な性格ではありますが、同時に慎重すぎるほどに慎重な性格でもある。一度仲間として認めた相手であっても、腹の内全てを明かすような真似は嫌う。貴方も覚えはあるでしょう?」

「……さてな」


 返答を濁すが、内心ではクロの言葉にほとんど同意してしまっていた。

 「勇者と魔王の戦いを阻止し、文明衰退を阻止する」という目的は聞かされているものの、それだけではあるまいというのがヤマトの見立て。まだ別の目的をアナスタシアは秘めており、そのためにヤマトにも秘密の行動を続けているはずだ。

 彼女の真の目的に、興味がなかったと言えば嘘になる。

 心の乱れが映ったか、刀の切っ先が僅かに揺れた。その先で、クロがニヤリと笑みを浮かべるような錯覚を覚える。


「鋼鉄と魔導に守られ悠久の時を生きた魔女は、果てなき欲に囚われた。深淵の真理――人が触れるべきではない禁忌へ触れることを欲し、そのための道理尽くを踏み躙る。その非業を見かねた者の所業により、魔女は氷雪の奥へ封じられた」

「何の話を――」

「孤独と共に朽ちるはずの魔女は、だがその妄執により真理の一端に触れてみせた。そこで得たものを手掛かりに、魔女は再び舞台へ上がり、密かに暗躍し始めた」


 黒いフードの中が、一瞬にして全くの別人へとなってしまったかのような変貌。

 先程までの軽薄な言動が鳴りを潜め、さながら星読みの如き重々しさが漂う。迂闊に口を挟むことが許されないような雰囲気に、ヤマトは思わず口を閉ざした。


「鋼鉄の兵を従えた魔女の狙いは、世の裏に蠢動する存在。歴史の陰に潜み、頑なに表舞台を避けながらも、世の在り方を決する超越者」

「それが至高の竜種だと?」


 茹だりそうな頭で導いた結論。

 それを口に出せば、クロは超然とした姿のままに首肯した。


「えぇ。より正確に言うならば、彼らもその眷属にすぎないのですが」

「……本当にそんな者がいるならば、きっと神と呼ばれるような存在なのだろうな」

「ククッ。えぇまぁ、そう言うかもしれませんね」


 幻を掻き消すように、クロは高く指を鳴らす。瞬きをした次の瞬間には、クロの姿は見慣れた不気味なものへと変貌した。

 一瞬だけ呆けたようにそれを見てから、咄嗟に周囲の様子へ視線を巡らせる。


「ご安心ください。そう警戒しなくても、私は結界を張ったりはしていませんよ」

「……そうか」


 確かに妙な気配を感じない。

 その感覚を確かめるつもりでレレイへ眼を向ければ、彼女も同意するように頷いたのが分かった。


(だが、ここで話を終わらせたということは――)


 時間稼ぎが済んだということか。

 その結論を出すのと同時に、クロはフードの奥から覗ける笑みを深めた。


「察しがよくて助かりますよ。ちょうど、こちらの用も終わった様子なのでね」

「何だと?」


 言われて、咄嗟に遠方の気――今頃は争っているはずの“白”と黒竜の気を探る。

 どちらも健在。未だ闘志は衰えず、全力同士でぶつかり合っているようだが――


「―――っ!?」

「おや、気がつきましたか」


 身の毛がよだつ感覚。

 かつて間近で相対した黒竜の気配に酷似しているが、黒竜本体は確かにまだ遠くにいる。ならば、今すぐ近くに感じている気配は何のものなのか。

 その答えを求めて視線を巡らせたところで。

 大地から衝き上げられるような、巨大な地震がヤマトたちを襲った。

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