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8話 ナイトさんの力

「イエス・マイマスター!!」


怒声をあげるナイトさん。


それを合図に、ストレンジアは槍を構え全力でナイトさんへと走る。


「先の言葉……体現して見せよ!!」


一喝と同時に放たれる雷のごとき閃光を放つ一突き。


その一撃をナイトさんは黒色の盾で真正面から受け止める。


びりびりと空気が震え、空間に亀裂が入るほどの轟音が響き渡る……。


「重いな」


「続けて三つ……」


「!?」



同時に……槍は振るわれていないというのに……盾を穿つ音が三つ続けて響き渡る。

「我が槍は一振りにして一撃にあらず……拡散する斬撃は初めてか?」


口元を緩め、ストレンジアは凶悪な笑みをナイトさんに向けるが。


「何、驚くほどのことでもない……槍兵四人を相手するのと、何も変わらないからな」


「ほざけ!!」


走る槍は無数……。

その一撃は一突きにして四。


拡散する槍の描く線は、変幻自在に軌道を変えるも、まるで光に群がる蟲のように一点(心臓)に向かい収束する。


「甘い!!」


しかし、縦横無尽、変幻自在の乱撃でさえも、ナイトさんは怒号とともにすべてを盾で叩き落す。


拡散する槍をいなし、一点に収束する線のことごとくをナイトさんはていねいに叩き落していく。


驚くべきは、互いのその攻防に魔術の痕跡がかけらも見当たらないこと。


神話の世界、今は亡き英雄たちの戦いの再現にも似た異常な戦い。


その戦いを彼らは、魔法の力を借りず……ただ己の身体能力のみで披露しているのだ。


「……すごい……これが、ストレンジア」


もはや傍観者には、そんな陳腐な感想しか許されない……動きも、技も……何もかもが人の領域を超えており、槍を叩き落した後に遅れて轟音と衝撃があたりに走る。


もはや、音の速度などはとうに凌駕したそんな戦いに私は巻き込まれ、この世界は侵略をされているのだ。


「っ!!」


そして、そんな感想を終えるころには、彼らの打ち合いは百を超え……一区切りといわんばかりにナイトさんは大きく槍を弾き飛ばした。


「貴様! なぜ剣を抜かぬ、その腰のものはただの飾りか!?」


間合いを開け、槍を振るい再度構えなおし、そういらだたし気に声を荒げるストレンジア……。


しかし、それに対しナイトさんは鼻で相手を笑うと。


「我が主の命令は~私を守れ~だからな……何、必要とあらば剣を抜き迎撃をするが……その程度の槍撃……守るだけならば片腕で事足りる」


一つ、二つ……ナイトさんの挑発にストレンジアの額に青筋が浮かぶ。


「我が槍程度、いなすことはわけない……と?」


勝負は互角ではなく、ナイトさんは私に力を見せつけるために盾のみで敵の攻撃を防ぎ切った……。


~守れ~という命令の通りに。


「ナイトさん」


「ふふん!」


にやりとこちらを見て口元を緩ませる表情が小生意気で癪に障ったが。


しかし彼の言うとおり、大口をたたくだけの実力者であることは確かなようだ。


「そうか」


「!」


だが……その挑発は間違いであった。


「ならば……その認識は改めてもらおうか、ナイト=サン」


何もない部屋の中、一陣の風が吹き、同時にあたりに魔力が満ち溢れ、同時にストレンジアの構えが変わる。


それはまるで、地に伏せる虎のよう。


見たことも聞いたことすらもない槍の構えだが、目的だけははっきりとわかる深く深く体を沈めるような体勢。


あれは……跳躍のための姿勢であると、私は直感で感じ取る。


「ナイトさ……うっ……」


魔法を操る存在である私でさえも、吐き気を催しめまいを起こすほどに濃度の高い魔力が、ストレンジアからは漏れだし、同時にその手に握られた槍が異常なまでに発光する。


「……神業か」


「神業……まさか、ゴッズスキルのこと!?」


ナイトさんの表情が変わり、同時に発せられた名称に私は青ざめる。


ストレンジアが、異世界より召喚される際……神に授けられるという人知を超えた唯一無二の力……それがゴッズスキル。

その力こそストレンジアをストレンジアたらしめる、この世界の人間との決定的な違いであり、ストレンジアではないといったナイトさんには存在しないはずのものである。


「……空無き今、我が槍その深奥を見せることかなわぬが、盾ではこの技、受け切れぬぞ?」


殺意と入り混じった魔力の波に、私は口元を手で押さえる。


気を抜けばすべてを吐き出し、死してしまいそうなほどの狂気……私たちの世界は、こんなものに狙われているのかとおもうと……絶望すらこみあげてくる。


だが。


「試してみろ……そして貴様こそしかとその目に焼き付けるといい。至高の騎士とはどういう物かをな」


ナイトさんは依然剣を抜くことはなく、盾を構えて相手を見据える。


「……後悔、するなよ」


「我が道に後悔はない……騎士だからな」


もはや、忠告も脅しも必要ないとの判断か……ストレンジアは目を見開き、スキルを発動する。



「我が魂は空へ落ちる……」


あふれ出た魔力が、槍に集まっていき、まるで太陽のように煌々と光る。


息をすることもつらい……あふれ出た魔力は、スキルの発動により熱を持ち、空気を吸うたびに喉がやけどをしてしまいそうなほどだ。


「鋭いな……」


ナイトさんの感想はシンプルであったが、しかしその表情からは笑みが消えている。


――――――――… - ……。-


やがて、魔力の収束は収まり……研ぎ澄まされ……一瞬の静寂が訪れる。


呼吸を忘れ、瞬きすらも許されない……。


そんな短くも……永遠にも感じる静寂の中。


「来い……」


短い合図をナイトさんは放ち。


「……っ」


応えるようにストレンジアは、その巨大な槍を構えたまま……爆ぜる。


純粋なる突撃。


全身をばねにして飛び掛かる跳躍は、先ほどの打ち合いの一足をはるかに凌駕する一閃。


十メートルほどの距離を、一足にてゼロにしたその跳躍はまさに飛翔にも近く。


ナイトさんは一瞬で間合いへと踏み込まれる


「その程度か?」


いや……あえて踏み込ませた。


速度を込めた一撃ということは、目的は盾の破壊ではなく……盾を躱し本体を貫くことを目的とした一撃。


ゆえに、盾で防ぐことは可能であるとナイトさんは判断したのだ。


だが。


【其は、自由にして不規則な軌跡……いったはずだぞ、我が一撃、盾では防ぎきれぬと!】


「なに!?」


その槍は、盾を貫通し……ナイトさんの心臓を穿ち、貫く。


蜻蛉ドラゴンフライ!!】


「ナイトさん!?」


圧倒していた。


実力も、速度も力も、すべてを凌駕していたナイトさん。


しかし、ゴッズスキルを前には、その戦力差でさえも容易に無意味に帰す。


「これが……神業ゴッズスキル


自分の死が間近に迫っていることすらも忘れ……私はその一撃から目が離せない。


自分たちの世界に舞い降りた絶望……。


確信をする。


もはやこの世界に……生き残る道などないということを。


だが。


「……躱したか……この一撃すらも……」


ナイトさんを貫いたはずのストレンジアからこぼれたのは、そんな悪態と呆れの入り混じった声であった。


「……え?」


その言葉に槍の穂先を私は見る……。


確かに、光る槍は依然輝いたまま……赤き血液のようなものは一切付着していない。


「……貫いたかと思ったか? 残念、お見通しだ」


みれば、ナイトさんの体を貫いたかと思った槍は、ナイトさんの脇腹をすり抜けていただけであり……その身に傷をつけてはいなかった。


盾を貫かれた一瞬……ナイトさんは体をひねって一撃を回避したのだ。


「恐れ入ったよ……すり抜けた直後に躱せるとは……どんな動体視力だ……おぬし」


ストレンジアはそういうと、槍を振るい背後へと飛ぶ。


盾を貫通しているはずの槍であったが、まるで盾がないがごとくあっさりと盾から外れると……ナイトさんは苦笑を漏らして構えを解く。


……見える盾には、傷一つ、貫かれた形跡もない。


「え? あれ?」


「……それが貴様のゴッズスキルか」


その言葉に私は首をかしげると、舌打ちを漏らしストレンジアは槍を再度構える。


「いかにも……槍使いは速度こそあれど、貴様ほどの騎士の盾を割るほどの破壊力はない……小生の神業の名は【鎧通スティンガーし】いかなる防具呪具問わず……すべての守りをすり抜け、小生の槍は敵を穿つ……よくぞ躱した」


「なに、当たらなければどうということはない」


「あぁ、だがその剣を抜かなければ……貴様は主を守るすべはない……」


ぎろりとこちらをにらむストレンジア、その眼光に射止められ、私は足がすくむ。


だが。


「……そのようだな」


ナイトさんはストレンジアの言葉に一つうなずくと、腰に下げた剣の柄に手を触れ。


「!?っ!」


一瞬でストレンジアの懐まで踏み込む。


「よくぞ抜かせた……約束通り教えてやろう……騎士こそ最強であることを」

めくれ上がる迷宮の床……そして、ナイトさんが放つ明確な殺意により、空気が尋常でないほどに震えあがる。


ストレンジアの漏らす声など間に合うはずもなく……槍の間合を完全にすり抜け、ナイトさんは抜刀と同時にストレンジアの首に一閃を叩き込む。


—―――――――――――――!!

その一撃は閃光……。


「がっ!?」


神速にて放たれた刃……首を落とさんと振るわれた一撃をかろうじてストレンジアは槍で受け止めたが……。


その代償に……槍に亀裂がはいり、砕け散る。


「案外もろいんだな? ちゃんと強化してるのか?」


魔力の痕跡もスキルの発動もない……ただの強烈な一撃に……ゴッズスキルをまとった槍が打ち砕かれたのだ。


「がっ! はぁ……」


壁に叩きつけられ、ずるりと崩れ落ちるストレンジア。


その首元に刃を突きつけ、ナイトさんは笑みをこぼす。



突きつけられた刃は帯電しているかのように黄金に輝き、翼のような形状の鍔の中央には赤い宝玉が埋め込まれている。


「この剣は……なぜおぬしが」


「……これから死ぬやつが、知る必要もないだろう?」


「いいおる……」


皮肉を込めた笑みを浮かべてナイトさんはそう呟き……ストレンジアに向かい剣を振り下ろす。


だが……。


【……冠位剣グランドを認識……。■■■の強制転送を開始……】


聞いたことのない声……無機質で、一部がかすれるような音にかき消された感情のない声が迷宮の中に響き、同時に部屋の中が光に包まれる。


「……これは……」


最後に聞いたのはそんな驚愕の声を漏らすナイトさんのつぶやきと。


【テレポーター……起動】


再度響き渡る、そんな無機質な声であり……私の記憶は一度そこで途切れたのだった。

 


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