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7話 至高の騎士 ナイトさん

「さてと、今更だがお前が俺のマスターでいいんだよな?」


「……は、はえ? ま、マスター?」


いったい何が起こったのか理解が追い付かない。


それもそうだろう、遺跡からとつぜんストレンジアが召喚されて追いかけられて……奴隷にされかけたところを、謎の騎士がワンパンで私を助けてくれ、おまけにそいつが私のことをマスターと呼び始めた。


そろそろ私の理解の許容量が限界を迎えようとしている……。


「なんだ、はっきりとしない返事だな。お前が俺を召喚したのだろう?召喚士よ」


「召喚……あ、本当だ!?」


私はそう言われ、はっとしてローブをはだけさせ肩を見ると、確かにそこには召喚の契約を結んだ証の文様が、肩にしっかりと浮き出ていた。


「……なんだ、やっぱりマスターでいいんじゃないか……よもや召喚主をのしてしまったのではと冷やっとしたぞ」


あきれたような表情で騎士はそういい、肩をすくめるが。


召喚の儀式もした覚えもなければ、特別な契約を交わした記憶すらない。


「えと……あなたはいったい?」



「お前の願いに応じ形を成した最強にして至高の騎士ナイトだ、誇るがいいマスター、この俺が来たからにはもはやお前の栄光は約束された!……ちなみに名前はない……好きに呼ぶといい」


「名前がないって……ナイトさん、それどういう……」


「呼称の設定を受け付けた、なるほど夜の太陽(night sun)か、随分と詩的な名前を付けるじゃあないか……気に入った、俺は今日からナイト=サンだ!変更はできないのであしからず!!」


……どうしよう、話がかみ合わない。


局長も局長で話のかみ合わない人だったが、この人はそれに輪をかけて話を聞いてくれない。


「えと、そもそも召喚に応じって……あなたはどこから来たのよ」


「ふむ、語れば長くなるが……それよりも……どこかに転生者の召喚陣があるんじゃないか?」


「え?なんで……」


それを知っているの? と聞こうとすると、ナイトさんは肩をすくめ。


「俺は生まれつき敏感肌でな、巨大な魔力の乱れを感じる」


「魔力の乱れって……もしかしてまだ、ストレンジアが出てくるかもしれないってことですか!?」


「まぁ、可能性はあるな、門を開けて閉じてない……放っておけばまだ神様とやらが転生者を送り込んでくるぞ」


「そんな!?」


私は絶望する……助かったと思ったのに、さらにストレンジアに遭遇するかもしれないという事実……私は目の前が真っ暗になり、その場に崩れかけるが。


「……何をうろたえているマスター……いったはずだぞ、この至高のナイトの主になったからには、お前の栄光は約束されていると」


「……どこからその自信が出てくるんですか……という疑問はこの際飲み込みますが」


「呑み込めてないぞマスター」


「シャラップです! とにかく今は藁でもなんにでもすがりたい気持ちです、あなたにはこの状況をどうにかできるんですかナイトさん!」


「愚問だなマスター……至高の騎士ナイトに不可能はない、お前はただ、こう命ずればいい……現状を打開しろ……とな。 もちろんお前が私を騎士と認めてくれればの話だが」


「完全な脅しじゃないですか!? あぁもう……わかりましたよ、背に腹は代えられません。 もうこの際主だろうが女王陛下だろうがなんでもなってやりますよ! 我が騎士ナイト=サンよ! 現状を打開して!」



「ふふっふはーっははは! しかと請け負った!! さあ行くぞマスター!」


「えっ!? ちょっ、私も行くんですか!?」


「当然だろう! お前がいかに幸運に恵まれた召喚士であるかを見せてやる!」


高らかに心底楽しそうにナイトさんは笑うと、大楯を背中に担ぐと私を肩に乗せるように抱き上げ、壁へと走る。


「ちょっ!そっち壁!」


「知っているさ、だが近道だ!」


私の悲鳴も聞かず、迷宮の壁に向かいナイトさんは剣を抜くでもなく、拳を振り上げると。


そのまま振り抜き、壁を破壊する。


「えええぇ!?」


アッガスさんの大剣の一撃でも破壊できなかった迷宮の壁が、その騎士の拳により音を立てて崩れ落ちる。


「行くぞマスター!」


「む、無茶苦茶だこの人おおぉ!?」


壁を破壊する音に紛れて、私の悲鳴は迷宮内に木霊するのであった。

「とぅわ!」


通算25回目の壁やぶりをナイトさんは披露すると同時に、私の顔にむせ返るほどの血の匂いと、あふれ出る魔力が浴びせられ、私は顔をゆがませる。


「……うっ」


「ふむ、なるほど随分とまた大掛かりな召喚陣だ……新たな転生者が来なかったのは奇跡だな……ちょうど過疎期につながったか?」


赤く照らされ光に包まれた空間……ストレンジアが召喚された、召喚の間が、そこにはそのまま残されており……陣のすぐ近くには二人の両断された冒険者と……少し離れた場所に。


「アッガスさん」


大剣を持ったまま倒れるアッガスさんの姿があった。


「……知り合いか?」


「ストレンジアに、殺されてしまったんです……アッガスさんたちは、私を守るために……」


私はあの時の状況を思い出し、うつむく。 


何かできることはなかったのか……後悔だけが私の中で渦巻いていく。


短かったが、とてもよくしてくれた……あの笑顔が私の胸を締め付け……。


「なるほどな……では蘇生をしよう」


「へ?」


ナイトさんのそんな問いかけに、私は素っ頓狂な声をあげてしまう。


「仲間なのだろう? ここに打ち捨てていくのはお勧めしないな……嫌いなやつで助けたくないなら無理にとは言わないが」


「……た、助けられるんですか?」


「まぁな。 もちろん、ここまできれいに両断されてたら……歩くのにひと月ぐらいはかかるだろうが……そこは責めるな、彼らはレベルが低すぎる」


「レベル?……いや、た、助けられるなら何でもいいです!? お願いします、助けてください!」


嘘かもしれない……もしかしたら彼の妄言かもしれない……だけど、私はすがるようにナイトさんにそう懇願をすると。


「了解だマスター……だが蘇生は落ち着いてからでもできる。先に済ませなければならないこともあるしな」



「陣の破壊……ですか?」


「それもあるが……まずはお前の命を守らねば」


「……えっ?」


瞬間、ナイトさんは大楯を構え、背後から走った槍の一撃を受け止める。


響く轟音に、あたりに走る衝撃波は私の視界をゆがませ、同時に飛び散る火花が光り輝く部屋をさらに明るく輝かせる。


「ふむ……止めるか。小生の槍を止めるとは、なかなかの御仁……」


「す、ストレンジア!?」


どこに潜んでいたのか、まったく私には認知することはできず……突然現れた男に私は声を上げる。


槍を手に持った、全身を龍の鱗のような鎧で包んだ男はそう楽し気に笑い口元を吊り上げる。


「新しく召喚された転生者か?貴様は」


しかし、ナイトさんは新たなストレンジアに対し余裕の表情のまま、そう問い返すと、ストレンジアは首を振り。


「否……新参者ではない。小生はさるお方の命でこの遺跡の調査に参った……」


そう呟いた。


「遺跡の調査? 私たち以外にいったい誰が……」


私はふと、そうストレンジアに対し疑問をぶつけるも。


「これから死ぬものにその答えは不要であろう?」


返答の代わりに放たれる尋常ではない殺気と同時に、目前より槍兵が消える。


「ひっ!?」



「先ずは一匹!」


聞こえた音は真横からであり、視線だけを動かすと、そこにはいつの間に横に現れたのか、槍兵のまるで針葉樹の葉のような形状の槍の穂先が迫る。


死んだ……。


体は動かず、目線で終えただけでも頑張ったほうだと思いたい……まさに神速の一撃に、私は早くも死を再度覚悟する。


だが。


淑女レディを先に狙うとは、恥知らずな槍使いがいたもんだ」


その一撃でさえも、間に割って入ったナイトさんの大楯により防がれ、またも迷宮内を振動させる。


「ほう、完全に不意を突いたのだがな……これも止めるか」


驚いたような表情でナイトさんを見る槍兵……。


「この程度ならいくらでもな……」


「ほざいたな……」


ナイトさんの挑発に、ストレンジアは後ろに飛び、間合いを開けた。


激高して再度槍を振るわず、間合いをあけたところから、戦い慣れをしているのは明らかだ。


「どうするマスター、あちらはやる気満々のようだが……」


「どうするって……」


動きを見ればわかる。 このストレンジアは先ほど私を追い回していたストレンジアよりもはるかに強い。ナイトさんもそのことを理解しているのだろう、盾を構えて殺気をたぎらせる。


だが。


その表情はいたって冷静であり、口元に浮かぶ微笑には余裕すら見て取れる。


「……勝てるの?」


なぜそんなことを聞いたのかはわからない。


ここで彼が勝てると答えたとしても、そんなの一かけらの保証にもならないというのに。


だが。


「……それがお前の望みならな」


もはや負ける等と想像すらしていない、傲慢な笑み。

その姿に、私は自分が馬鹿らしくなる。


どうせ、彼が負ければ私は死ぬのだ。おびえていたってしょうがないじゃないか。


「わかりましたナイトさん……私を守りなさい!」


「イエス・マイマスター!!」




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