49話 レイドボス毒殺作戦
「ど、毒殺って……効くの?」
果たしてあの巨大な化け物に毒が効くのか……その疑問に私は声を漏らすが。
「基本、キングフェンリルには毒は効かないな……唯一それだけには耐性を持っている」
「だめじゃないですか!?」
「だが問題はない。それはあくまで俺たちの世界の毒の話だ」
「……どういう、意味ですか?」
「答えはこの花だ」
そういうと、ナイトさんは一輪の花を取り出す。
「その花は……」
「エルフの里に咲いていた白い花……名前は分からないが、この花の持つ毒は魔物に有害であるらしい」
「でも、ただの魔物除けの花じゃないですか」
「ただの魔物除けではない……言ったはずだ。最高位の魔物であり、全属性の魔法。状態異常に絶対に近い耐性を持つメタルドラゴンが……近寄れないと豪語した花だぞ?」
「……あっ」
その言葉に私は声を漏らす。
イワンコフさんは匂いが苦手だと騒いではいたが……私たちはまったく匂いを感じなかった。
あの時はドラゴンが私たちよりも匂いに敏感だからだとも思っていたが。
「おそらく……この花の危険性を匂いという形で察知したのだろうな。先も言った通り、魔物の格……状態異常耐性という意味では、キングフェンリルはメタルドラゴンよりも劣る」
「だけどよ……それはあくまで毒で殺しきれればの話だろう? その猛毒でも奴を殺しきれないかもしれないじゃないか」
「いいや、問題はない。 毒というのはスリップダメージ……その魔物のHPを割合で奪っていく。だからこそ、毒にだけ耐性があるのだが。毒が効く以上は、体力がいくらあっても関係はない。普通の人間と同じ速度で死に至る」
その言葉に、周りの冒険者さんたちが息をのむ音が聞こえる。。
だがそれも無理のない話だ。
淡々と、だれもが恐怖したあの化け物の殺害方法を語るナイトさんの言葉には迷いがない。
まるで狩人がウサギの狩り方を話すように……さも当然のことのように私たちに、ストレンジアでも敵わないような化け物の殺し方を伝授する。
自分達にも、当然倒せるのだと思ってしまうほど。
「……ほかに質問は?」
その言葉に、しばし反論をする物はいなかったが。
「その毒はどうやって作り出すんだい?」
ルインさんの言葉に、私たちはまたも現実に引き戻される。
確かに、基本的な魔物用の毒の精製くらいなら冒険者でもできるだろうが、見たこともない花で毒を……しかも三日で作り出せとなると無理な話である。
しかし。
「その花は、イリ―ラスの花という花というのよ。あの森で暮らす私たちを魔物から守り、厄災の竜を鎮める薬としても使ってきたの……もちろん、それから薬も毒も作り出せるわ。あの森で暮らしていた私たちなら」
不意に冒険者ギルドの扉が開き、一人の少女が顔をのぞかせる。
「ミアちゃん?」
「ごきげんよう! ナイトさま、局長さん、サクヤお姉ちゃん、アッガス叔父様!」
「おいおい嬢ちゃん……あんだけの大立ち回りしておいて、体はもう大丈夫なのかよ?」
「ええ、もうすっかり元気よ!」
「若いっていいねえ……」
「なに老け込んでるんですよ局長」
「いやはや……何分デスクワークがかさむと体が傷むのが早くてねえ」
「じゃあ、帰ったらナイトさんに軽―く死ぬほどつらい組手でもしてもらいましょうね局長」
「任せろマスター! 泣いたり笑ったりできなくしてやろう!」
「だからお願いやめて!?」
老け込む局長に対し、そう悪戯をする私たちであったが。
アッガスさんとルインさんはそれを無視して話を続ける。
「……本当に、あの巨大な化け物を倒すだけの猛毒が作れるのかい?」
いぶかし気にそう問いかけるルインさんに、ミアちゃんは誇らしげに胸を張る。
「レシピはもう見えているわ……イリ―ラスの毒はとても強力だから、特に難しいことをしなくても強力な猛毒になるはずよ」
「……だがあの巨体だ。 相当な数の矢を放たなきゃいけないはずだし、何よりも毒も相当の量が必要になる」
「矢のことなら俺に少し考えがある」
そういうと、ナイトさんはにやりと口もとを緩める。
「本当か?」
「ああ、あとで地図をくれれば弓矢は調達しよう。ざっと10000はあれば足りるだろう」
「10000って……ナイトさん、本当にできるんですか?」
「ふふん、至高の騎士に不可能はない!」
もはやその言葉を疑うものはおらず、人々は弓矢の心配を頭から取り除く。
「となると、毒の精製にすべての時間を費やせるわけだが……お嬢ちゃんだけじゃいくら何でも間に合わないだろう……毒を矢じりにつけるだけだとしても、相当の量の毒が必要になる」
「それは大丈夫です」
そういうと、ミアちゃんはドアから一歩離れると……ぞろぞろと教会で治療を受けていたはずのエルフ族の人々が冒険者ギルドへと入ってきた。
「う……あっう……」
石化の影響か、まだ声はうまく出せないものの、その瞳は死んではおらず怒りと、そして戦う意思に満ち溢れている。
「……みんなが、助けてもらった恩を返したいって言ってくれたの。みんな薬づくりのスペシャリストよ……もちろん、毒の扱いにだって長けてるわ」
その数およそ500人……。
三日かけて、弓矢10000本に仕込む毒を作り上げるには……十分すぎるほどの人数であった。
「……いける……いけるぞ!! いけるぞみんな!」
その時、ルインさんは初めて声を上げて吠え。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
それに続くように、雄たけびと共に、割れんばかりの歓声が、アルムハーンの町に響き渡る。
剣を握り、災厄の竜に立ち向かった勇者たちも……尻尾をまいて逃げ出したものも。
揃って雄たけびを上げて勝利を確信し、戦う意思をその旨に抱く。
そして、この雄たけびはおそらく。
この世界の人間が初めてストレンジアに向けて起こした……反撃ののろしであったのだ。
「ところでナイト君……君、弓矢10000本なんてどうするつもりだい?」
「あ、わたしもそれ気になってました」
割れんばかりの中、そんな素朴な疑問を局長はナイトさんに投げかけると。
「なに……少しばかりあちこちの町からもらってくるのだよ」
ナイト=サンはそうあっけらかんと言い放つのであった。
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