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46話 冠位大楯アルムハーン

 放たれた魔法は、ゼロ距離射程でのみ放つことができる、状態異常に対する補助魔法。

【定着と侵食】 


 その効果はシンプルで、本来数十秒で立ち消えてしまう状態異常を、【永続】させることと、【治癒】をさせないという効果の二つである。


 もっとも、永続という言葉はバトルフィールドのみでの話であり、ゲームシステム内での【戦闘状態が解除】されるかもしくは【安全エリアへの侵入】が果たされればゲームシステムにより強制的に状態異常も【定着と侵食】も解除されるのだが。


「ちっ……そういうことか」


「ええ、貴方ならわかるでしょう? この世界はゲームじゃない。私があなたを敵だと認識している限り戦闘状態は解除されることはないし、この世界に安全エリアなんて場所は存在しない!」


 ナイト=サンにかけられた呪いは、消えることのない永遠の呪い。


 ゲーム内では、魔法使いにとって最も苦手な分野である接近戦を強要される挙句、敵に一定の距離を離されてしまうと効果が消えてしまうこの魔法は効果だけは強力に見えるが実際は役に立たない魔法だ。


 だが、もともと槍使いの頂点である彼女の近接戦の力と、この世界の仕組みが合わさったとき、もっとも恐ろしい呪いとして変貌を遂げた。


 そして何よりも……ナイト=サンにとって恐ろしい点は。


「スリップダメージは割合性だって言ったわよね。 貴方の体力がいくら多くても、丁度5分で死に至る。 そして、私はそんなあなたにわざわざ戦ってあげる必要もない……このまま転移魔法で世界の反対側くらいまで逃げてしまえば、貴方に勝利はなくなるわ」


 騎士ナイトの職業が、転移の魔法を習得できないという点である。


「なるほどな……これは確かに、どうしようもなさそうだ」


 転移魔法に対処する術をナイト=サンは持たず、切りかかろうともミコトの転移魔法の発動のほうが先に終了する現状はまさに詰みであり、ナイト=サンはため息を一つつき構えをとく。


「どう? 確かにあなたは理想かもしれない……だけど、理想じゃ世界は救えないし、どうしようもないことだってあるのよ……あんただってあの召喚師の子供を守りたいんでしょ? だったら私と手を組みなさい。そうすれば面倒は何もないのよ」


 呆れたようにため息を漏らしながらミコトはそういうが。


「いいや、断る」


 ナイト=サンは頑なにミコトの提案を拒む。


「負けてもまだ分からないっていうの? バカは死んでも治らないっていうけれど……それとも、ただの幻霊は死への恐怖なんてないのかしら?」


 呆れたようなミコトの問いに、ナイト=サンは口元を緩めると。


「確かに俺は死ぬことなど怖くはない……なぜなら俺は生まれた時からこの世界の全ての理想だからな」


「理想の騎士は死を恐れない?」


「いいや違う……この世界に、俺に恐怖を感じさせるほどの者は存在しないからだ」


「!?」


 瞬間、ナイト=サンは剣を捨て、盾を構える。


「なっ!?」


「お前が知らないことを教えてやろうミコト……確かに俺は幻霊だ。 この身に宿る装備は、確かにネットの住人のジョークから生み出された最強の装備がほとんどだ。だがな、その中に一つだけ……本物は存在する」


「えっ?」


「世界大会優勝後、ワールドチャンピオン夜の太陽はファイナルクエストを去った。与えられた賞品を一度も使用することなくな」


「っ!? まさか、それは!」


 白く輝く白銀の大楯……公式記録に残りこそすれど、決してゲームの歴史の表舞台に立つことのなかったその盾。


 しかし、この世界にやってきた初代勇者が間違いなく使用し……この世界を救った伝説の盾を、ナイト=サンは間違いなく受け継いでいる。


 現実世界の誰もが知らなくても、この世界の人間ならば誰もが知っているその盾は、古の邪竜の爪を受けても傷一つ残らず、魔王の一撃すらも容易に跳ね飛ばすその名は。


「冠位大楯……アルムハーン」


 紛れもなく、この世界の伝説から生まれた理想は太陽よりも大きく光り輝き、ナイト=サンの状態異常を難なく消し去る。


「なっ……なによその力! ありえないわ! 状態異常の回復は行えないはずなのに!」


「ああ、回復はしていないさ……回復の代わりに封印をした」


「封印? そんな特殊効果、聞いたことも……」


「ああ、この冠位大楯アルムハーンにのみ許された特殊効果だ……この大楯は封印の名の通り一日に1度好きなものを封印することができる……たとえそれが世界のシステムだろうがな」


「……封印って……まさか」


「そのまさかだ、俺にかかった【スリップダメージ】を封印させてもらった……封印の時間は最大で1000年。 この大楯の持ち主が解除をするまで、封印は解けない」


 状態異常を封印するのではなく、スリップダメージという概念そのものを封印したナイト=サン。

 

 この力により、先代勇者は倒すことのできないイワンコフや、魔王を封印してのけたその力は紛れもなく本物であり、ミコトは苦虫をかみつぶすような表情をこぼすが。


「では、今度はこちらから行かせてもらおう」


 ナイト=サンは冠位剣グランドを引き抜くと、転移の魔法かと勘違いをするほどの速力でミコトへと踏み込む。


「あっ!?」


 杖を構え、防御魔法陣を全出力で展開するも……それは焼け石に水だ。


「そして、冠位剣グランドの効果は知っての通り……自らが消したいと思ったものを破壊する」


 一閃……と同時に破壊される魔法障壁。


 それと同時にミコトの杖は両断される。


「っ………」


 冠位剣グランドを保有した理想の騎士の一撃に耐えうるほどの体力など魔法使いには存在せず、ミコトは死を悟り目をつむるが。


・・・・・・・・死の痛みも衝撃もついぞ訪れることなく。


 剣を鞘にしまうようなチンっという音に、ゆっくりとミコトは瞳を開ける。


 そこには剣をおさめ、勝ち誇るようなどや顔を披露するナイト=サン。


 殺気も何もかもが消え去った、ただ静かで虚ろな町だけがそこに残る。


「これが俺の力だ。 力づくなど諦めることだな」


 騎士は盾を背中に収めると、そっと少女に手を伸ばす。



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