44話 食い違い
「……どうなるって」
「まっさらな世界に一人だけ立った時の気分が知りたい。 一日で国が一つ滅んだ時のみんなの反応が知りたい……たった一人の人間に殺されていくNPCの反応が知りたい……この世界にゲームマスターみたいなのがいて、自分の行動が抑止力として止められるのか知りたい……それとも自分のこの行動さえも物語で、作者が自分がこうなる様に動かしているのかどうか知りたい……そんなことをうわごとのようにつぶやいて、奴は国崩しをしているわ」
「おぞましいな」
「ええ……あいつはこの世界も自分の命でさえもゲームとしか思ってない。 私も最初は殺そうとしたわ」
「だが、強かった」
「ええ、殺し切れはしなかったけど……東の都は守り切ったわ。土地は焼き払われたけど、住民は避難させられた」
「なるほどな……そうしてお前は、次の標的地であるこの国を守るために暗躍していたと」
「そういうこと……あいつよりも先に私が国を支配すれば、もっと効率的に国崩しから国を守れる。 私が収めたほうが、みんなを安全にできるのよ……貴方も同じ考えでしょう?この国を国崩しから守る、その点は同じなはずよ」
「ああ、確かにな。 だが俺の場合はもっと目的が上にある……俺の目的は、この世界の人間を脅かすストレンジアを、すべて排除することだ」
「グッド!! ええ、それが私の理想よ! やっぱり私の目に狂いはなかったわ」
瞳を輝かせてミコトはナイト=サンの手を取り叫ぶ。
自分の目に狂いはなかったのだと喜ぶように。
しかし。
「ああ、だが一つ聞かせてくれミコト」
「何かしら?」
ナイト=サンの瞳は険しいまま、今度はミコトに問いかける。
「勇者の国崩しを止めるために行動をしているというなら、なぜおまえ自身も国崩しをしようとしている。エルフ族を拉致したのはなぜだ?」
その質問に対し。
「きまってるじゃない、私がこの国を守るために、一度私の手で支配するのよ」
ミコトは平然と言ってのける。
「……支配?」
「ええ、国を支配して私が統治をする。女王様なんてタイプじゃないけれど、そうしたほうが効率的でしょ? 大丈夫、この国程度なら私でも二晩で制圧できるし、勇者の国崩しもまだ当分先だから、統治をして兵力整える準備の時間は十分よ。 エリクサーの量産だって十分すぎるぐらいの時間はあるし。奥の手もある……この国を守り切って、勇者を倒して……そしてこの世界は、私の庇護のもとで永遠の繁栄を約束されるのよ! それが私たち転生者のこの世界に来た意味だと思わない?」
「この国の人たちはどうなる?」
「もちろん守ること以外の自由意思は全て彼らにゆだねるわ。 私はただ外敵を排除しつつ、より良い世界を作り上げるの。王政は排除して民主主義国家を作るの……もちろん王族を殺すってわけじゃないわ、王は象徴にして残ってもらうの。そうすれば誰も悲しまなくていいし、日本でも実際にそうしてうまく回ってる。 私は近代文明に近づくまで面倒を見てあげるけど。それ以降は口出しするつもりはないもの」
ぺらぺらと自分の考える理想の世界を語るミコト。
それは、異世界にやってきた人間が当然のように思いつくことだろう。
この世界の文明は遅れている。
日本という文明の進んだ国からしてみれば、文化も人々のこころも幼子のようなもの。
ならば転生した自分の役目は……庇護し、発展させ、神のようにこの世界に干渉し……そして育て上げること。
そう考えるものは少なくないだろうし、思考としては自然な流れであろう。
しかし。
「お前がこの世界の保護を望むのであれば、お前と手を組むつもりはない」
ナイト=サンはそう、握られた手を振り払い、剣をミコトの眼前に突き付ける。
引き抜かれた冠位剣グランド……その切っ先は黄金に光り輝き、暴風に近い剣気と殺気がミコトに襲い掛かりその長い髪を大きく揺らすが。
「何が気に食わないのかが、私にはさっぱりわからないんだけど」
ミコトはそんな殺気程度には臆することもなく、そう首を傾げて問いかける。
だが、ナイトさんはため息を漏らす。
「確かにお前のやろうとしていることは正しいだろう。この世界の人間を守り、保護する。
この世界の住人にとっては……それはとても喜ばしく、お前は神のように感謝されるだろう」
「そうね……それならいいじゃないの?」
「いや、それではダメだ……この世界を守るのは、この世界の住人の仕事だ」
ナイトさんの言葉に、ミコトは首を傾げる。
「あんた正気? ゲームを始めたばっかりの新米にですら、冒険者ギルドの英雄が殺される、それだけの実力差があるのよ? それがどうやったら……【頂点】に勝てるというの?」
ナイト=サンの言葉にいら立ちを覚えるように、ミコトは突き付けられた剣を掴み、そっと下ろさせる。
冷静に考えろと、ミコトはナイト=サンに行動で示したのだ。
しかし。
「勝てる……守るために支配をするなどという行為は愚かだ。お前がやろうとしていることは、ソニック・ムーブと何ら変わりない」
ナイト=サンは断言する。
たとえどれだけの強さを誇る勇者であろうと、国崩しというものがどれほどの脅威であろうとも……おそらく彼の考えは変わらない。
偽りでも強がりでも虚言でも妄言でもなく。
ナイト=サンは心からそう信じていた。
だが、その言葉は彼女の琴線に触れる。
「そう……だったら証明してみなさいよ」
「!?」
瞬間、ミコトの足元より長い大杖が召喚され手に収まり。
「吹き飛べ!」
ナイト=サンの顔面を強打する。