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43話 ストレンジアというもの


「理想だからこそありえない装備をその体に宿しているのね。冠位剣グランドは、一時期流行した騎士の太陽ナイトさん説のせいね?」


「そこの事情は詳しくは知らないがな……だが、最強の騎士ともてはやされたものには一様にして【ナイトさんなのでは?】という話題が上がったらしい。一種のお決まりというやつだ」


「英雄と同じね……誰が行ったかもわからない武勲の数々、それを一人の人間の功績に結び付けた時英雄は生まれる。 この世界に、ゲームの情報データを形にすることで召喚された私たちと違って……貴方は人の理想というあいまいな情報データを形にして召喚された……形のある夢。理想を移す鏡の化け物みたいなものね? 転生者が勝てるわけないはずだわ……だって目の前にいるのは、自分が思い描いた理想の姿が形になったもの、姿かたちは貴方のままだけど、貴方のとる行動は全て、対峙するストレンジアがなりたかった物を映し出し……その完成形として立ちはだかる。 自分の理想に勝てる奴なんて、この世界のどこにいるっていうのよ……反則級の化け物もいいところだわ」


 悪態をつくように女性はそういうと、ナイト=サンはくくくと笑うと。


「虚構というならお前たちだって同じだろう」


 ナイト=サンはグラスに酒を注ぐことはなく女性を見る。


 女性もそれに答えるように、不機嫌そうな顔でナイトさんを見つめ返す。


「あんた、転生者が何者かっていうのも分かってるみたいね」


「まぁな。 これは知っていたというよりも、あの遺跡に書かれていた内容を読み解いた結果だが」


「あんたが蜻蛉と戦ったところね?」


「ああ、転生者とはすなわち~残像~に近い。ゲームプレイヤーのキャラクター、性格、スキルを複製し召喚する力……それがストレンジアの召喚システムだ。俺が鏡だというなら、お前たちは写真だな」


「そう、あんたそこまで知ってるの。 大正解。あんたの言う通り、私たちは本物じゃない偽物。この世界の都合で呼び出されただけの影にすぎない。 帰ることもできずに、役目を終えればただ消えるだけ……元の世界にはもう私はいるんだもの。 行く当てもない亡霊、それが私たちストレンジアなのよ」


「だから、国崩しをするのか? 復讐のために」


 悲し気に呟く少女に対し、ナイト=サンは優しく問いかける。

 

「中にはそういう奴らもいるわ……。 でも私と勇者は違う」


「ほう?」


「知ってる? 転生者になる奴らって、ほとんど世捨て人みたいなやつらばっかなのよ。私もそう……あんたに言っても分からないかもしれないけど。 私現実世界では苛められててね……。 本当の体は、肌色の部分なんてないぐらいボロボロで……人が嫌いで嫌いでしょうがなかった。何度も死のうと思ったわ……何度も何度も」


 そういうと、ミコトは自らの袖をまくり、見とれてしまうほど細く白い絹のような手首を優しくなでる。


「だが、死ななかった」


「ええ、そのたびに悔しくて……。このまま誰にも必要とされないまま死んでいくのは……すごい悲しいじゃない……そんなときに出会ったのが、あのゲームだったの」


「随分と飛躍したな」


「そうでもないのよ? 私だってあなたに憧れた人間の一人なんだもの」


「ほう?」


「……たまたま家に引きこもってネットの掲示板を見てた時にあなたを見つけた。誹謗中傷……汚い言葉を何度も何度も書き連ねられても、貴方は自分の理想の騎士像を決して曲げなかった。 それどころか、最終的にはみんなを見返して……誰からも認められる存在になった……そんな姿に憧れて私はこのゲームを始めたの」


「それは厳密には俺ではないがな」


「知ってる。 貴方は掲示板の書き込みそのものではない。あくまでそれに最も近い存在。でも、存在しないものなのだから、その体現であるあなたにお礼を言うのはおかしなことではないはずでしょう?」


 ミコトはそういうと、お酒をもう一度口に含み、悪戯っぽくナイトさんに笑いかけると。


「確かにな」とナイトさんは呟いて同じようにお酒を口に運ぶ。


「それで……お前は救われたのか?」


「ええ、もうばっちり。 ゲームの中の人々はとっても優しかったわ。 もちろんNPCもだけど、ゲームをプレイしている人たちも」


「プレイヤーの民度はそこまで高くなかったと記録にあるが」


「その点に関しては運が良かったのね……あと私には才能もあった。 そうやってどんどんのめりこんでいるうちに……気が付いたらワールドチャンピオンの一人になってたんだもの」


「……ほぉ……なるほどな……どこかでその名前を聞いたことがあるかと思ったが」


 ナイト=サンはその名前に心当たりがある様に呟くと、少女は今までの妖艶な笑みとは異なり、子供のような満面の笑みをナイト=サンに向ける。

 

 そう、ファイナルクエストの世界大会は、個人競技ではない。

 最大6人のパーティーが組めるというシステムを用いた6対6のチーム戦なのだ。


 そして、そのルールの中初代ワールドチャンピオン【夜の太陽】はたった一人、仲間を連れずに世界大会の頂点に君臨した。

 パーティーメンバーが少なくなればなるほど、不利を埋めるためにステータスに修正が入るというシステム、それを夜の太陽は逆手にとって優勝をおさめたのだ。


 もっとも、第二回以降その策を使って結果を残した人間がいないという事実から、その行動がいかに不可能に近く、奇跡の所業であったのかは言うまでもないが……しかしながら、それ故にナイトさん伝説という虚構がここまで広まったともいえるだろう。


「息吹 ミコト。それが私のプレイヤーネーム。黒魔導士、白魔導士、そして召喚師三つの職業内プレイヤーランキングの1位にいるプレイヤーよ……もっとも、第2期~9期までの間の話だけどね」


 にんまりと笑う姿は何処か蠱惑。


 酒に酔うこともなく、少女の笑顔に酔うはずのない理想でさえもその姿を揺らがされる。


「君のランキングポイントは、結局最終日まで更新されることはなかったよ。どの職業もな」


「そう、それはうれしいわ……でも、もうそんなのには興味ないの」


 ナイト=サンが騎士の頂点であるならば、彼女は全ての魔法使いの頂点に立つ存在。


 だというのに彼女はそれを誇るでも、自慢するでもなくどうでもいいと切り捨てた。

 それは紛れもなく。


「この世界での生き方を決めた人間のセリフだな」


 ナイトさんの言葉に「ええ」とミコトはその長い髪を耳にかけなおしてそう返答をし、酒の入ったボトルを持ち上げて中身を確認すると、グラスに注いで話を続ける。


「言ったでしょう? 私は必要とされたかった。 だから魔王を倒してほしいと頼まれたときも二つ返事で了承したわ。 だって素敵じゃない……今まで仮想だった私の力は全て現実のもので、その力でみんなが幸せになった。 ありがとうって言葉なんて面と向かって言われたのは初めてだし、私がみんなを愛したら……みんなも私を愛してくれた。死んだ人間を蘇生すれば神様みたいに崇められるし……そこら辺の雑魚モンスターを駆逐したらみんな口々に私を褒めてくれた。 ついこの間まで、口汚く罵られ続けてたのに……こんな簡単なことをするだけでみんな褒めてくれるんだもの。 この世界が好きになって当然でしょう?」


「ふむ、だというのになぜ、お前は国崩しに加担する?」


「加担なんてしてないわ、反逆してるのよ」


「反逆?」


「ええ……魔王を倒した後、私たちはもう元の世界に戻れないって知ったわ。 私たちは行方不明になったんじゃなくて、ただのコピーなんだって。私はそれを聞いて嬉しかった。

だって、もう帰らなくていいんだもの、不幸は現実のもう一人が全部背負ってくれて、私は自分の新しい人生を迎えていいって言われたんだもの。 これ以上素晴らしいことってないじゃない? 何の気兼ねなく、私は異世界転生できたんだもの……だけど、ほかのメンバーは違ったみたい)


「……絶望した?」


「ええ、6人のうち4人はね。 なんとしてでも帰るんだって私に槍とか弓とか突き付けて現実世界へ召喚しろって脅してきたわ……中には、怒り狂ってこの世界の人たちに切りかかる奴もいた」


「それでどうした?」


「殺したわ……一人残らずね」


 あっけらかんと、ミコトはそういい、空中で何かを握りつぶすような動作をする。


「そうか……それで、二人といったがもう一人は?」


「帰りたいって言いだすやつらがかわいく見えるぐらい壊れちゃったわ……それが今、国崩しをしている張本人なんだけどね」


 退屈そうにミコトはそういい放つと、恨めしそうにナイト=サンの腰に刺さった冠位剣グランドを横目でにらむ。


「騎士の太陽……奴は何が目的なんだ?」


「あいつは……好奇心だって言ってたわ」


「好奇心?」


「ええ、この世界を滅ぼしたらどうなるんだろう? そういって国を一つ滅ぼしたわ」



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