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42話 ミコト襲来

「第三番代魔法クレイドル。 ふむ、二人きりになりたいとは言ったが、随分と強引なデートのお誘いだな……ミコト・イブキ」


 カランとグラスを鳴らし、ナイト=サンは喉を鳴らして蒸留酒を飲み干す。


「あら? お嫌いだった? でも私、人の目があると気になっちゃうのよね。誰にも見られたくない場合は、隠れるんじゃなくてこうしてみんな眠らせちゃうの」


 背後を振り返ると、そこには今朝であった女性の姿。


 黒い服を身にまとい、クリーム色の髪を揺らしてギルドの中に入ってくる女性は。


「……今朝方ぶりね、ナイトさん」


 ギルドの前で指輪を渡した女性、ミコト・イブキであった。


「あぁ、随分と早く貴方と夜を過ごせてうれしい。 金貨銀貨になど興味はないが、これならば今日の労働の対価としては十分と言えるだろう」


 ナイトさんはくるりと振り返ると、両手に持ったグラスをカチンと打ち鳴らす。


「まるで来るのが分かっていたって言いたげね」


「あぁ。わかっていたとも。 朝、わざと俺にぶつかったことも、ずっとそこのネズミに監視をさせていたこともな」

 そういうと、ナイト=サンはおつまみとして出された小さな豆を人差し指ではじくと。


「ひゅい!?」


 声をあげて一匹のネズミが打ち抜かれ、煙を上げて消滅をする。


「ふぅん。あんたほどの男にばれてないのはおかしいとは思ったけど、踊らされてたのは私の方ってわけ? 気に入ったわよナイト=サン。 素敵な夜になりそうね」


「あぁ、ぜひともそうしたいものだ」


 立ち上がるとナイト=サンはグラスを投げて渡す。

 お酒はこぼれることなくゆっくりと平行移動をして、やがてミコトの手の中に納まった。


「ブレイブ……冒険者と勇者のみが使えるこの世界の特殊スキル。 貴方、使えないとか言ってなかったかしら?」


「ナイトに不可能はない。 どこかの誰かが、俺がブレイブを使えると信じたのだろう。ならば俺はその期待に応えるのみだ」


 こくりと口元にグラスを運び、ナイトさんはそういうと。

 ミコトもそれにつられるように口に酒を含み、ナイト=サンの隣に腰かける。


 寝息を立てる人々は、ストレンジアが現れたことに気づくこともなく健やかな眠りについている。


 そんな人々を彼女は一瞥すると、まるで娘息子を見るかのような穏やかな笑顔を見せた。


「初めて会った時から、あんたが転生者じゃないことはなんとなくわかったわ」


「さすがだな……中にはこの世界の人間とも区別のついてないやつもいたが」


御頭あいつと一緒にしないでもらえる? それとも、伝説の騎士様は私もあいつも同列に見えてしまうのかしら?」


 グラスをカウンターに置くと、ミコトはじとりとした目でナイト=サンを睨むが。

 ナイト=サンは気にする様子もなく酒を注いでその言葉に応える。


「いいや、比べるべくもないだろう。レベルも熟練度も……何よりこの世界でどう生きるかを決めている眼だ。君は賢くそして強い……」


「酒と言葉で酔わせたからって、簡単には落とせないわよ? それとも、その言葉も私が本心でのぞむ理想だったりするのかしら?」


「さぁな。 俺は理想の騎士ではあるが理想の恋人ではない。 この言葉はただ事実のみを口にする余計なものだ」


 呆れるように嘆息をつくと、ナイト=サンは再度蒸留酒をグラスに注ぐ。


「そう……理想ね。あなたの正体……なんとなくだけど分かったわ」


 からりと、女性のグラスの氷が音を立てる。

 ナイト=サンはそのグラスにお酒を注ぐことはなく。 


「君は聡明な女性なんだな……それで、答えを聞こうか?」


 ナイトさんは代わりに質問を注ぐ。


 交差する視線、敵意ではなく、異常なまでの好奇心がお互いの心臓を高鳴らせ。


「あなたは……ナイトさんね? 夜の太陽でも、騎士の太陽でもない……ただの掲示板の書き込みから生まれた、私たちの理想」


 やがて少女は、そんな答えをナイト=サンに伝える。


「どうしてそんな答えに至った?」


「簡単よ。 冠位剣グランドを持った人間は二人といない。 そもそもワールドチャンピオンに与えられるアイテムは大会ごとに異なるの……冠位剣グランドっていうのは、この世界に一本しかないものなのよ」


「……そうだな。 だが俺がその一本の所有者なのかもしれないぞ?」


「そんなわけないわ。公式記録にだって載ってるから誰でもしってるわよ。冠位剣グランドの保有者は第二回ワールドチャンピオン【騎士の太陽】……国崩しをしている勇者なんだから」


「……」


 女性の言葉にナイト=サンは何も言葉にすることなく黙って聞くに徹し、その様子に女性はさらに言葉を続けていく。


「じゃあアンタは何者なのか?  偽物にしては出来すぎているし……蜻蛉の話を聞く限り冠位剣グランドは本物……いやそれ以上の力すら持っていた。だったら行きつく先は一つ」


「その答えは?」


 にやりと口元を緩ませナイト=サンは女性に問いかけると、女性も同じように口元を緩ませ。


「掲示板の書き込みから生まれた人々の幻想……それを形にしたのが貴方なのね?」


 それは、掲示板に書き込まれた書き込みであり……伝説や憶測……そして武勇伝が書き込まれて行っただけの嘘か本当かどうかもあやふやな存在。


 そんな考察に。


「ご明察……。俺は皆が描いた理想を形にし映し出す存在。 実在した正当なゲームの情報データではなく、人々の書きこみ信じた伝説(虚構)が形となり召喚された存在だ」


 ナイトさんは正解だと女性に笑いかけ、グラスに酒を注ぐ。


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