38話 埋めようのない力量差
幻でもまやかしでもない、完全に頭蓋を貫かれたナイト=サン……。
「……そうさ、誰もが強くなりたいに決まってる……だけど弱いキャラを使って、言い訳をするのさ……僕はこれが好きだからって。 僕はそんな言い訳認めない。弱い奴は死ぬのさ、そして勝つための努力をしないやつは、強い奴を批判する権利すらないんだ」
「ナイトオオオオオォ!!」
その光景に、その圧倒的な力量差にアッガスは驚愕と絶望の入り混じった絶叫を上げるが。
「……どうした? 傷が痛むか?」
「うええええぇ!!?」
ナイト=サンはくるりと短刀が目に刺さった状態のままアッガスの方に振り返り、アッガスは言葉にならない絶叫を上げる。
「……騒がしい奴だな、そんなに痛むなら治療の方を優先するか?」
すたすたとアッガスへと向かうナイト=サン。
背後で茫然としているソニックも目に突き刺さっている剣でさえも文字通り眼中にないとでもいうような様子の彼は、そのグロテスクな光景のまま平然とアッガスの胸の傷に治癒魔法をかける。
「あ、ありがとう……じゃなくて!? おま、目っ!? 突き刺さってるって!?」
「安心しろ、ダメージはない」
平然とそう語るナイト=サン。
「はああぁ!? いやいやおかしいだろ、だってお前目に……ってあれ?」
その様子にアッガスは気を動転させるが。
しかしナイト=サンが近づいてきたおかげか、その異常にすぐに気が付く。
「血が出てねえ」
そう、深々と刺さった短刀……しかしその刺さった部分からは、血液一つ涙すらこぼれていない。
「一体どういう……」
「こういうことだ」
ナイトさんはぶんと、一つ顔を振ると、からりと短刀が落ちる。
その目には傷一つ存在せず……突き刺さったはずの短刀にも何も付着していない。
「……は?」
正直、こういうことだと言われてもアッガスには理解はできず声を上げると、ナイトさんは。
「つまりだな……」
と説明をしようと口を開く。
しかし。
「なんだよ……なんだよお前!? 確かに急所をクリティカルで貫いたぜ! だっていうのに、たかがナイトがどうして僕のあの連打を耐えきれるんだよ……いくら体力が高くたって、防御力が高くたって……クリティカルは防御力無視の攻撃だ……なんで、なんで立ってられるんだよ!」
アッガスの疑問を代弁するように、ソニックは声を張り上げる。
その声にあきれるようにナイトさんはため息を漏らすと、アッガスを助け起こして振り返り。
「至高の騎士の上級スキル【猛獣除け】と呼ばれるものでな、武器にしてAランク、魔法にして第8番代魔法、スキルにしてAランク以下に相当する攻撃を無効……なかったことにする。 もちろん、level50以下の存在はAランクの魔法も装備も持てないからな……あの男のレベルは50丁度……攻撃は最初から何一つ効いていない」
そう、実力差を語る。
「は? は?! はああぁ!? なんだよ、なんだよそのスキル!? 聞いたことねえよ!しかもなんだよAランク武器ってよ!? 第8番代魔法ってなんだよ! スキルAランクってなんだよ! そんなもの知らねえよ! あるわけないだろそんなもの! そもそも、このゲームの最高レベルは50で……」
「そうだな……ああそうだ、お前の時代ではな」
「はっ!?」
ナイトさんはそう語り、状況を理解できていないソニックにわかりやすく説明をする。
「お前が自慢げに語っているそのプレイヤーランクってのは……はるか昔の物だってことだ、お前の知っているファイナルクエスト・ウイザードソウルサガ~ギアス転生の軌跡~は第十期の終了と同時にサービスを終了した……第四期というと混迷期だな~魔界闘士の屍を超えて行け~の頃とデータにはある」
「は? 十??? お前、何言って」
理解できない……いや、理解したくないとソニックは拒絶をする。
しかし、その圧倒的力量差、レベルの差に……ソニックは、世界中のプレイヤーのうち上位100人に一度はたった男だからこそ……わかってしまう。
自分は、過去の人間なのだと。
「この世界に呼び出される人間の時代はランダムだ、過去未来がごちゃ混ぜになって召喚される……だからお前のように気づかないままのやつもいてもおかしくはない……」
「じゃあなんだよ……お前は、サービス終了後に召喚されたっていうのかよ?」
「あぁ、そうだ……我がマスターの手により召喚された」
ナイト=サンはそう自信満々に矛盾を語る。
「バカじゃないか? そんなわけねーだろ! サービス終了したっていうのに、どうしてこの世界に来れるっていうんだよ!? サービス終了の意味わかってる? プレイヤーがいられなくなるんだよ……あのワールドに接続をしていないとこの世界には来れない!なのに、サービス終了した後にどうやってお前はこの世界に……」
勝てるわけがない、そう体が理解したからこそ、頭はそれを嘘だと願う。
彼の矛盾を、その男の虚言を暴くべく……そんなことはあり得ないと、相手を糾弾しながら、ソニック・ムーブはナイト=サンへと言葉を叩きつける。
それが無駄な努力とも……たとえ彼の言葉がすべて虚言であったとしても、埋めようのない実力差は変わらないと知ることもなく。
「言ったはずだ……俺は理想の騎士だと」
「はっ! 何言ってんだよ……いくらお前が強くたって、回避率百%の僕に勝てるわけ……」
「スキル……【絶対的中】」
「へ?」
ナイト=サンは短くそう呟くと、拳を振り上げ。
「……ソニックムーブ、お前はあのルーキーよりかは強かったよ」
「てめっ!?」
粉砕する。
圧倒的な破壊……。
腹部に叩き込まれた、生半可な忍ではよけきれないコークスクリューブロー。
「あがっ……はっ……」
それを、ナイト=サンはHPを1割だけ残す【手心】のスキルと同時に放つ。
「【絶対的中】は、第五期から追加されたレベル5から覚えられるノーマルスキルだ……所詮はお前のその力は……その程度だったということだ」
「て……てめえ……」
その場にうずくまりながら、体力のほとんどを削られたソニックは身もだえをする。
「殺さないのか? ナイト」
とどめを刺さずに手心を加えたという言葉に、アッガスは首を傾げながら問いかけると。
「あぁ、殺す価値もない……自分がどうありたいのかも分からない奴は、この世界でもいずれ淘汰される」
ナイトさんはそう断言をした。
「淘汰? この僕が……淘汰だって!?」
実力差を知りながら、ソニックはその言葉を受け入れることができない。
自らのプライド、過去の実績そのすべてが……今の自分のみじめさを許さないのだ。
「……そうか……」
アッガスはナイトの言葉を疑わない。
ナイトの言うことはおそらく正しいのだろうと、目の前で自らの誇りに縋りつく男を見て、そう思えたからだ……。
「行こうか……」
「ああ」
短く言葉を交わし、ナイトさんは背を向ける。
襲い掛かったとしても、恐らくナイトさんにも……もはや隣に並び立つ男も倒すことは出来ない。
そうソニックは悟りながら、相手にいかに一矢報いるか……そんなどす黒い感情だけが……頭を埋め尽くす。
そして……。
「!!」
ソニックは……水晶鉱脈の上に立つ、エルフの少女を見る。
小さくかよわそうな少女……なぜあそこにいるかは分からないが……。
あそこにエルフ族がいるというのであれば、ほかの石化していたエルフもあそこにいるはず。
そうソニックは思案をし笑みをこぼすと……。
「あそこにいるエルフは、何かなぁ?」
そう二人に下卑た笑みを浮かべて声をかける。
「なっ!? あれは!」
アッガスはその言葉に振り返ると、ソニックの視線の先にエルフの少女ミアが立っていた。
なぜそこにミアがいるのか……洞窟の崩壊のせいで、エルフ族は全員あの道を通って脱出をしているのか?
そんな疑問が脳裏をよぎるが、それを振り払いアッガスは、弱り切ったストレンジアにとどめを刺そうと大剣を振り下ろすが。
【神風ェ】
大剣を躱し、凶悪な笑みを浮かべながらソニックはミアの元まで全力疾走で走る。
「!? なっ……ナイト!? ミアが!」
あのままでは間違いなく少女はストレンジアに殺される。
おそらく凄惨に……できうる限り残忍な方法で……。
そんな光景が浮かび、アッガスはナイトに助けを求めるが。
「……放っておけ」
ナイト=サンは落ち着き払った様子でそうアッガスに言葉をかける。
「はっ!? はあ? お前、子供を見捨てるのか!」
そんな落ち着いた様子に、アッガスは肩を掴み揺さぶるが。
その手を振り払いナイト=サンは首を振る。
「……言っただろう、淘汰されると」
その瞳はふざけている様子もなく真剣であり……。
その至高の騎士は、当然とでも言いたげな表情のままエルフの少女の勝利を予言したのであった。