35話 伝説の剣、スコップ代わりに使われる
「……俺の剣は、スコップではないのだが」
「シャラップです。 スコップだろうが聖剣だろうがやるったらやるんですナイトさん」
私の言葉に、ナイトさんは何処か不服そうに剣を抜く。
「なっ……なんだその剣」
あふれ出る魔力はまさに威厳そのものであり、鞘から剣を抜いただけで洞窟の中に暴風が吹き荒れる。
「……すごい」
あまりの魔力濃度に、驚愕するアッガスさんに対し、ミアちゃんは瞳を輝かせながらナイトさんの剣が放つ魔力をその身に浴びている。
「ほう、この剣が持つパッシブスキル【神威】が通じないか……才能あるな。あとで魔法を教えてやろう」
「本当!?」
ナイトさんの言葉に、ミアちゃんはプレゼントを約束された子供のように飛び跳ねる。
「こらこら、ミア……危ないから少し下がってろ」
「あ、ごめんなさい叔父様」」
アッガスさんに抱き上げられながらミアちゃんはそう謝ると、ナイトさんは安全を確認するように一度こちらを一瞥した後。
【地烈断(グランドデストロイア―)!!】
一閃を放ち、洞窟を崩壊させる。
轟音を響かせて崩れ落ちる洞窟、地響きに、背後にいたエルフの人たちは声にならない悲鳴と怯えるような表情を向けるが。 あらかじめナイトさんが私たちと出口がある通路にかけていた防護魔法のおかげで、断面より入口に向けて伸びた通路のみが崩壊していく。
「じゃあ、先に言ってるぜナイト。 お前と違って、俺は崩落に巻き込まれたら死ぬんでな」
アッガスさんはそういうと、ミアちゃんを私に預けて崩れていく洞窟の中を走っていく。
落ちてくる岩を殴り飛ばして破壊している時点で、彼も人間離れしているとは思うのだが、落ちてくる岩をよけようともせず、目前で落ちてくる岩が雨粒のようにが触れるだけで粉々に砕けているナイトさんに比べるとアッガスさんが普通に見えてしまう。
普通って何だっけ。
「……ふむ……道中万が一ということもあるからな、念のためこいつもかけておこう」
目の前で洞窟が崩れているのだが、ナイトさんはまるで財布を忘れたかのような気軽さでこちらに振り返ると。
【マジックアーマー】
平然と第四番代魔法、魔法で作られた防具【魔法の防具】の魔法をその場にいた全員にかける。
「それ、個人にしかかけられない魔法じゃなかったっけ」
局長はそんな出鱈目な魔法行使をするナイトさんにあきれるようにそういうが。
「【重複魔法】というスキルがある。魔力消費を1追加する代わりに、人数を増やすスキルだ。それをこの人数分発動しただけだ。全体防御アップをつける第六番代魔法【守り大楯】でもコスト的には得ではあるが、はぐれた人間に適用ができなくなるのが難点でな……魔法の防具は、個人を防護する低級魔法だが致命の攻撃を無効にする効果に加えて地形ダメージの影響を受けなくする効果もある。万が一洞窟が崩壊したりしても、耐えられるはずだからこちらを採用した」
「はー、言ってる意味がよくわからないけど、とりあえずすごいってことは理解したよ、洞窟の崩落で首半分まで岩で埋まってるのにそんな悠長に魔法の説明をしていることも含めてね」
局長はそういうと、ナイトさんはそうかと一つ呟き。
「では行ってくる」
その剣を振るうと、何やら聞いたことのないような異様な音が響き渡り、崩れたはずの岩が消滅する。
2度3度。
振るうたびに岩は消え、だんだんと通路が出来上がっていく。
そんな通路の中を、ナイトさんはせわしなく剣を振るいながら進んでいき、やがて見えなくなってしまった。
「さて、私たちも脱出しましょうか」
もう驚かないぞ……そう私は心の中に誓っていたため、その目の前の出来事を静観したのちに、エルフの人たちの誘導を開始するが。
「いや待って!? あれスコップじゃん!!」
耐えかねるように局長はそう突っ込みを入れる。
「今更驚いたってしょうがないでしょうが局長」
「いやでも……」
「でももマリモもありませんよ。 それよりも盗賊と帰り道に遭遇しないかどうか、しっかりとモニターしてくださいよ? 小さいミアちゃんだっているんですから」
「あぁ……そうだね……ってあれ? ちょっと待ってサクヤ君……ミアちゃんは?」
「え?」
局長の言葉に、私はあたりを見回す。
アッガスさんに預けられたあと、エルフのみんなのところにいたはずなのだが。
後ろを振り返り見回してみても……ミアちゃんの姿はどこにも見当たらないのであった。