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34話 ごちそうさん

「サクヤ君」


「彼らの気を引くということは、私たちの侵入をばらすということ、ここのお頭と呼ばれる人間の性格を鑑みるに報復は免れません、恐らく即座にアルムハーンに攻め込むでしょう。仮にアルムハーンが戦場となった場合、町の人たちを守るのはさらに難しくなります

余計な犠牲者を出さないためにも、今ここでこのアジトを制圧しないと」


そう……敵はすくなくとも、町の人間全員を石化させることができるほどの力を持つ人間なのだ……いくら冒険者の町と言えど、恐らく戦力となるのはここにいる人間以外はいないだろう。であるならば、守るよりも攻めるが安し……ここで致命的な痛打を与えるしかない。


「ひゅぅ……わかってるじゃねえか嬢ちゃん。てっきり魔法使い様は軍略には疎いかと思ってたが、見直したぜ」


「これでも一応騎士なので」


「まってまって! それだとしてもサクヤ君、君を危険にさらすのは認められないよ!」


「……その反面お前さんの上司はダメダメだなぁ」


「彼も一応騎士のはずなんですけどね……」


呆れたように漏らすアッガスさんに、私も同じような感想を抱く。


「なんだって言うがいいさ! 相手の出方だってわからないし、そもそも片側からの攻撃じゃあ裏口から逃げられるのがおちだぞぅ! 地形的には、君たちが入ってきたところを除けば出入口は一つしかないけれども……洞窟の中に逃げ込まれちゃったら、エルフ族の人たちと鉢合わせになっちゃうじゃないか!」


「ほう、苦し紛れにしては意外な正論が飛んだな、アーリー」


ナイトさんは会話を聞きながら、少し感心したように「ほう」と声を漏らし、こちらを見る。まるで私の答えを期待するかのように。


「考えはあります。 ナイトさん」


「なんだマスター」


私の問いに、ナイトさんは命令を待つ子犬のように瞳を輝かせてこちらに向きなおる。


「……一度表の広場に敵を出させますが、通路を一つに絞ることはできますか?」


「逃走経路の遮断か……ふむ、お頭と呼ばれるストレンジアがどれほどの力を有しているかはわからんが、普通の盗賊たちを閉じ込めることぐらいは容易だ……。これほどの水晶があれば、道を塞ぐのに苦労はしないだろう」


「それぐらいなら俺でもできるぜ?」


アッガスさんの言葉に、私の頭の中で作戦は組みあがる。


「であれば、せん滅は可能です……あとは、ナイトさんがあのお頭というストレンジアに勝てるかという一点のみが不安要素ですが」


私はちらりとナイトさんを見ると。


「至高にして最強の理想の騎士である俺が、あのような輩に敗北するはずがないだろう!」


「でも、騎士には不利な相手だと、お頭という人は言っていましたが」


「マスターはあのような妄言を信じるのか!?あれはただのプロパガンダだ!? ナイトを貶めるための忍の汚い罠だ! 汚い! さすが忍者汚い!」


ナイトさんはやや興奮気味に闘志を燃やし、同時に触れてはいけなかったのか、ナイトさんにしては珍しくぶつぶつと忍という職業に対しての不平不満を漏らしている。


「おっと、奴さんはどうやら忍って職業とは因縁があるみてえだな」


「のようですね」


突如としてシャドーボクシングを始めるナイトさんに、私はこれ以上は触れてはならないと判断し、局長へと話を戻す。


「さて局長……勝利の布石は整いました。これでもまだ認められませんか?」


「ぐ……でもでも……その、あれだ、君たちにもメリットがないじゃないか」


苦し紛れの一言にはもはや説得力はなく、私は駄々をこねる子供を頭の中に思い浮かばせながら、ばっさりと両断してやることにする。


「確実に彼らにはストレンジア同士でのネットワークがあります。 そのネットワークをつかめれば、国崩しについて何か情報が得られるはず。騎士団として、これを見逃す愚はないと思いますが?」


「ぐぬぅ!」


喉から喀血でもしそうな勢いで局長はそう喉を鳴らすと、しばらくこちらに聞こえないぐらいに小さな声で何かをしばらくぼそぼそとつぶやくと。


「……わかった……わかったよ」


最後には折れたのか、そう観念するような声とともに許可が下りる。


「ありがとうございます局長」


「だけど、だけどねサクヤ君。絶対に怪我しちゃだめだからね! あと、おい、ナイト君!」


「なんだ、今俺は生半可な忍ではかわせないコークスクリューブローをみぞおちに叩きこんでいたところなのだが」


「うるさい! いいかよく聞けよ! 僕のサクヤ君に、怪我一つでもさせるんじゃあないぞ! いいな! 怪我させたら針万本だぞ!」


「ふむ、心得た……針万本はさすがの俺でも地味に致命傷だからな」


ナイトさんはそういうと、局長を安心させるためかそれとも本気で言っているのか誓いのポーズをとる。


「うぐぅ……本当に、本当に気を付けるんだぞサクヤ君」


「はいはい……わかりましたよ局長。無事に帰るのでそんなに心配しないでください。あとはみんなに作戦を説明するんで、コーヒーのお代わりでも今のうちに行ってくるといいですよ」


「うううぅぅ……そうする!」


局長はそう言うと、バタバタと慌てるように通信席から席を外す。


「嬢ちゃんも大変だな……僕のサクヤ君って……相当依存されてるぞあれ」


「そうですね……ほんとうに、困った人なんですから」


私はそう苦笑を漏らしながら、アッガスさんに向けてため息を漏らす。


と。


「…………なんだ、そういうことかよ。 ごちそうさん」


「?」


アッガスさんはほほをポリポリと掻きながら、あきれたようにそうよくわからない言葉を呟いたのであった。


                  ◇


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